4・図書委員長登場
新キャラ登場なんですよ。
図書委員長と図書委員なんですよ。ええ。
先輩ほど難しい立ち位置ってあるんだろうか。分からない。
二ヶ月前、機鐘愛紗宛に後輩の七村明音から届いたメールには、彼女が青嵐高校に合格したという旨の文章が書かれていた。
入学式の日に愛紗は明音の教室を確認し、彼女に会いに行こうとしたのだが、途中で生徒会長から呼び出しを受けて結局会わず仕舞いだった。
それから図書委員長としての日々に忙殺されていたある日のことだった。帰るのが鬱屈になるほど水滴が激しく舞い散る日でもあった。
「奏ー、今日どこ寄ってく。」
「道草食うのが前提になってるんだけど」
目の前から、当の七村明音が歩いてきたではないか。隣に見慣れぬ少女を連れて
「ってアイ先輩!」
「久しぶりー。明音、元気だった?」
ニッと笑った愛紗。彼女と明音を交互に見て、隣の少女は目を丸くした。勿論この少女、姫雪奏である。
奏は、明音がアイ先輩と呼んだ人物をまじまじと見た。背が高い。奏から見れば大抵の人間は背が高くなるのだが、彼女はクラスで一番高身長の明音より更に頭半分ほど高い。また、腰まで伸びた漆黒の髪とそこに埋もれた端整な顔立ち。目は切れ長、話は三日月をなぞるよう。小さい頃夢見ていた大人の女性を文字と違うことなく具現化したようだった。胸部が発育している点や雰囲気がどことなく明音に似ている。
「あなたの友達?」
「ウィッス! 奏って呼んでやって下さい」
ただ、明音とは決定的に違う。アイ先輩が女性の品格を持っているのに対し、明音はがさつな女性の代表格である。明音に肩を叩かれながら、奏は苦笑いを浮かべながらアイ先輩という人物に頭を下げた。
「奏ちゃん? ……可愛いわね、ふふ」
そう言いながら彼女は奏の顎を指でなぞった。
「ふぇっ!?」
「ん……」
「アイ先輩って呼んで。恥ずかしがる必要はないわ」
そう言い、長い髪を空に舞わせながら去っていった。
「……今の人、誰?」
いきなり顔を触られた奏は声に恐怖を滲ませていた。
「ああ、機鐘先輩。私の中学校の先輩だよ」
「明音の? テニス部の人?」
「おう。下の名前が愛沙ってんで、皆アイ先輩って呼んでる。私も」
「へー」
すでに見えない後ろ姿を遠くに見ながら、二人はまた歩き始めた。奏はしばらく顎に手を当てていたが、それも外した。それを見た明音。
「……そういえばさ。アンタ、多分アイ先輩に目つけられてる」
「? どういうこと?」
ためらい気味だが、少し罪悪感を覚えているような表情だった。
「あの人な、ロリコンなんだ。結構重度の」
「ふーん……で?」
一応の返事としてジト目を作ったが、小学生の絵を二、三枚描いた奏はあまり言及できなかった。
「ところで、それって私がロリコンホイホイだって言いたいってことでいいかな?」
「ええっ!? 今までそうだと思ってなかったのはいすいません分かった! 姫雪奏さんは立派な大人ですねだからそんな怒りで人を殺せたならばなんて考えてそうな目をするんじゃねえ!」
「……別に、大人っぽく見えないのは分かってるけど」
「じゃあいいじゃんか……喉に掴みかかってきやがって、全く殺されるかと思ったよ」
「さ、帰ろう」
胸部の発育も微々たれば背もクラスで一二を争うがごとく低いロリコンホイホイが明音の目の前を歩いていく。
「そういや、丸顔だったりとか目と鼻が同じくらいの高さにあるってのも童顔になるポイントだったよね……」
「今なんつった? ん?」
「何でもねーよロリコンホイホいたっ」
「どうかしました?」
一年生の線原望は図書委員であり、委員長の愛沙とは今のところ一番仲のいい下級生ということになる。図書室に入って来た愛沙の様子がおかしかった。二か月側にいて、それが分かるようになってきた。
「望ちゃんって、二組だったわね?」
「ええ」
「クラスメイトに姫雪さんっているでしょう?」
「……」
望は頷いたが、それ以上喋らなかった。首の付け根で切り揃えたショートカットを掻き分けると、そばかすを浮かせた頬が露わになった。
「いますけど、どうかしました?」
普段半眼がちな開き方をしていて唇が尖っている。そのため常時機嫌が悪いと誤解されがちなのだが、このときの望は愛沙が見ても機嫌が悪そうだった。
「どんな子?」
「……私は苦手なタイプです」
機嫌が悪かったのを見て予想していたか、彼女は呆気にとられはしていなかった。書類に目を通す望。ずっと沈黙を保ったままにしていたら、徐々に作業の速度が早くなってきていた。
「あいつ、クラス一位なんです。今回も前回も。そのくせお高く止まってないんですよ。寧ろそれが嫌味にしか思えないんです」
「へー、結構凄い子なのね」
一瞬作業の手が止まったが、また下を向いたままシャープペンを動かし始めた。
「いつも一緒にいるやつがいるんですけど……あんまり普通じゃないアホで、それが余計イラッてくるんです」
「……ああ、そういえば望ちゃん、今回クラス二位って言ってたわね。前回は最下位だったかしら?」
一瞬どころか完全に動きが止まり、頬杖をついて上目遣いで見つめてきた。無表情で動かない。愛沙はこれを、『それ以上言うな』という警告として受け取っている。
「……そんなこと言う暇あったら手伝って下さいよ」
「お願いします、は?」
愛沙の嗜虐的な笑みや台詞を、望は気に入ってはいなかった。場合によっては何処からか鞭と縄を持ち出してきそうな雰囲気の先輩を睨むのは少し気が引けるのだが、この時ばかりはおかまいなしだった。そんな望を、愛沙は先輩として可愛らしく思うのだった。
「冗談よ。さ、一緒に済ませましょう」
望と向かい合った席に座り、書類を手に取る。そのとき、望が急にくしゃみをした。
「そういえばさ、線原さんっているじゃん」
「ん、あの面白い感じのやつ?」
日を増すごとに赤みが抜けてくる空の下を帰りながら今日も談笑に暮れる二人。また、家の近くの高台に来ていた。
「……面白くはないと思うよ」
「いやいや、あーゆう根暗なのってさ、いじってたら苛立ってるような目で睨むじゃん? それが面白いなって」
「優等生に絡むヤンキーかアンタは」
「んで、線原がどうしたって?」
呼び捨てである。対して親しくもない相手に。どころか、さっきの台詞を考える限り寧ろ嫌われているんじゃなかろうか。とはいっても、自分も人のことは言えないのだけれども。それでも、奏は言った。
「あのさ……私あの人から嫌われてるんじゃないかなーって思うんだ」
「え? そう?」
奏は頷いた後、しばらく言葉を探しているようだった。
「ほら、私中学の頃ヤンキー集団から嫌われてたじゃん。高飛車な優等生って思われてさ。あのときと同じ匂いがするんだよね」
「匂い? アイツ香水かなんかつけてんのか?」
「いや比喩だから」
明音に相談したのが間違いだった、とばかりに溜め池を吐く。が、その後悔も安心に変わった。
「はは、そんなの分かってるって。……ま、大丈夫。あのヤンキーたちだって、最後の方は打ち解けてきたじゃんか」
「はは……まあね」
童顔の特徴
・丸顔
顎が未発達なのでこうなるそうです。
・目と鼻が同じくらいの高さにある
ちょっと前に買った絵の教本に描いてました。大人になるに連れて鼻が下に下がってくるのだとか
後はまあ色々ありますが忘れましたw