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たまに思い出す昔の話2

 中学三年生の夏休みは長く感じた。七月下旬に三界町に戻ってきて地元の中学校への編入手続きも済ませた私は毎日暇を持て余していた。八月後半にもなるとパソコンが使えるのでまだよかったけれども、引っ越してすぐの間はネット環境自体がなかった。

 九月一日。ようやく学校が始まった。始業式を終えると、教務の先生にクラスに通された。皆さんの新しい仲間です、と嘯く先生に、あと数カ月しかいないけどな、と心の中でツッコミながら、黒板に自分の名前を書いた。先生に言われた席に着くと、まずホームルームが行われる。それも終わって休み時間になると、私は十数人の人間に囲まれて質問攻めにされた。どこからきただとか、趣味はなんだとか。その中には小学校時代の友達も何人かいて、自分のことは覚えてるか、とも聞かれた。正直顔と名前もあまり一致していないけど、勘で当てていく。小学校、と言えば一番仲が良かった友だちはどうしているだろうか。名前が、七村……なんとか。背が低くて、泣き虫だった。大人しくてつまんなかったけど実害はないだろう、なんて思ってたけど。今年の冬も年賀状をもらった気がするけど、住所が変わってないからいるとすれば多分この学校だと思う。自己紹介するときに、教室を見渡したけどそれっぽいのはいなかった。

 夏休み明けの半ドン授業で学校はすぐに終わってしまった。帰宅部の人が一緒に帰ろうと誘ってきたけど、早く帰らないといけないから、とさっさと教室を後にしてしまった。少しだけ後悔。ひょっとして冷たい、と思われただろうか。下駄箱に上履きを突っ込んで靴を履き替える。そのまま昇降口から外に出ると、後ろから肩をトントン、と叩かれた。

「はい?」

 返事をしながら後ろを向くと、セーラー服のリボンが目に入る。視線を上げると、髪を後ろで結んでいる女の顔が目に入る。そういえばこの人、クラスメイトだったかな。見た感じ大柄だったから印象に残ってる。

「えっと……姫雪さん、だよね?」

「そうだけど」

 答えて、ふとその人の顔に見覚えがあることに気付いた。小学校が一緒なのか? でも、こんな大きい人、見覚えが……。

「私のこと、覚えてる?」

「え」

「小学校一緒だったんだけど」

「うーん……」

 十歳から十五歳までの空白はとてつもなく大きい。私は小学校五年生の平均のまま身長が止まってしまったから、ずっとチビのまま生きてるけど、さすがにあのときこんなに大きい人がいたなら覚えている……はず。

「ごめん、分かんないや」

「そっか、いやいいよ。私、君が引っ越すとき君より背が低かったからさ」

「えっ?」

 大女がそういうものだから、呆気にとられてしまった。

「私、七村だよ」

「七村?」

 大女が名乗った苗字を数回反芻して思考を巡らせる。

 七村? っていうと、ちょっと待て、今年も年賀状のやり取りをしたアイツ? いやいや、おかしい。最後に見た七村というと、私がどんなにあやしても一向に泣き止まずに、ずっと行かないでと喚いていた。子どもみたいだったし、私よりも背が低かった。背が低かったはず。今は私より頭一つ分以上も大きいけれども。というか、胸に抱えたその爆弾はなんだ。私なんて未だに水平線だというのに……ッ!

「ご、ごめん。分かんないや」

 変わってしまった驚きと、私より色々手に入れてる恨みが、変な一言を私に吐かせてしまった。


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