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15・七村邸集合

また放置してたと思ったけどギリギリ一カ月経ってなかった。

 前日の文化祭の片づけを終えたその夜に、明音の携帯に愛沙から連絡があった。

「うぃーっすもしもし、何すか?」

「あ、明音? ちょっといいかしら」

 溌剌として透き通った女の子の声で再生されただらしのない声だが、聞き慣れでもしたのか愛沙は表情を一ミリも変えなかった。今から言うことに負い目でも感じているのかもしれないが。

「打ち上げのことなんだけどね……私が考えてたお店、予約がいっぱいでとれなかったの……それで」

「おーい、勝利。お前明日用事あるだろ?」

 前置きだけを聞いた明音は、それ以上聞こうとせずに弟を呼びつけた。

「は? ねーよ部活も休みだし」

「分かったじゃあどっかで遊んで来い。あ、うち明日誰もいないんで気兼ねなく使っていいすよー」

「あら、いいの? じゃあ他のみんなにもそう伝えておくわね」

 愛沙はそう言って通話を切った。相手は話を半分しか聞いていなかったが、自分の言いたいことは充分伝わっているのでそれで満足だった。

「えあのいやちょっと待っ」

「おっしゃー打ち上げーっ!」

 弟の抗議を聞き入れずに明日のことばかりを考えている明音だった。ついでに弟の目の前で堂々と十八禁のPCゲームをしていた。


 翌日午前十時。

「いやあのさ、課題ないし部活ないし大体こんな田舎町で遊べっていうのが無理な話なんだが」

「彼女でも連れてどっかいきな、ほれ」

「いると思ってんのかよアホ!」

 もちろん思ってません。そう心の中で言って私は弟を玄関から蹴りだした。家にいてもいいけど、どうせ邪魔――――ではないが肩身が狭いだろうし、外にいた方がいいだろ。昨日通販でポチッたエロゲは明後日以降に届くはずだし、母さんは出張で来週までいない。さて、打ち上げの準備でもするか。

 そんなことを考えていると早速インターホンが鳴った。

「はいはーい。今行きまーす」

 玄関を開けると、門戸の向こうからノゾミを連れたアイ先輩が手を振っていた。

「お邪魔しまーす」

 私が何も言わないうちに二人は門戸をくぐった。

「ん? ノゾミンはクラスの打ち上げじゃないの?」

「その渾名で呼ぶなっつってんだろ」

 低い声とともに私を睨むノゾミを傍目に笑いながら、アイ先輩はさっさと玄関の中に消えていった。私はノゾミの手を引いて家の中に上げた。彼女は初めての場所で戸惑っているのか、顔を赤くして俯いていた。あー超可愛い。でもここで襲ったら眼鏡壊すしアイ先輩飛んできてボコられるしで得しないのが関の山だからやめておこう。

「他に誰かきます?」

 ノゾミを和室まで案内して二人を座布団の上に座らせて麦茶を出した。

「んー? えっとねー、神垣さんかな」

 神垣? っていうとあのヤンキーの先輩か。あれどういう理由で髪染めてんだろ。

「あの……どっちがくるんですか」

 ?

「え? あ……どっちも」

 ?? どっちも?

「そっか、明音は知らないんだったわね」

 分からないでいると、アイ先輩は私の方を見てこう言った。何だこの人、知らない人を家に上げさせる気か。いや構わないけど。

「神垣さん、双子の妹がいるのよ。神垣調(しらべ)さん」

「まじっすか!? 美人!? いやあのヤンキー先輩の妹さんなら美人ですよね!? おっぱいあります!?」

「うわきも」

「……」

 なんで私のテンションは心ない四文字で片づけられたんだろうか。アイ先輩ですら苦笑いを浮かべている。

「いやまあ、顔は良い方じゃないかしら……貧乳は二人で間に合ってるし、多少は、ね?」

「……そこで何で私を見るんですか」

「いやまあ、奏よりまし……」

 と、そこでまたインターホンが鳴った。私は睨む目から逃げるように部屋を後にして玄関へ向かった。件の双子かな?


「ぶち殺すぞ」

「痛い痛い痛ぁい! 何で!?」

 玄関のドアを開けた瞬間奏に顔を掴まれた。アイアンクローが痛い。

「いや……なんか馬鹿にされてる気がしたから」

 そう言って奏はやんわりと手を離した。気のせいとは言えません。つらい。

 奏は薄手のワンピースとその他諸々に包まれた自分の胸に目を落とした。

「……ごめんなさい」

「ん?」

「いや何でもないよ、行こうか」

 と言って私は奏の手を引いて。部屋へと向かった。

「そーいやさー、さっきアンタの弟と会ったんだけど」

「そう? いやまあ二十分くらい前に邪魔だったから追い出したんだけどな」

「おい姉」

 私は笑いながら部屋のドアを開けた。

「……」「……」

 アイ先輩がノゾミに馬乗りになっていた。

 真顔の奏と顔を見合わせると、静かにドアを閉めた。

「あら……」

「ちょっと待て! 言い訳させろ頼むから!」

 と、ドアの向こうからノゾミの声が聞こえてくる。それ言うべきはアイ先輩の方じゃないかな。

「オイコラ閉めるな! 違うから!」

 望は凄まじい剣幕でドアをこじ開けようとしていた。寧ろここまでされると開けるのが億劫になる。奏も手伝って、私たちはノゾミを押し返そうとしていた。

「あ……いやえっと大丈夫だよ! 私たち順番まで別室で待機してるから!」

「だから違うっての!」「望、落ち着いて」

 ……順番?

「ごめん、今の無し」

「ですよねー」

 ひょっとしたら知らぬ間に奏を毒していたかもしれないという罪悪感から力が抜けて、ドアが開いた。


「……だから、さっきのは先輩がこけただけで……」

「あ、あの、何回も言わなくても分かってるから」

「ごめんなさいね、こんなに騒がせて」

「ああ、いやお構いなく……」

 ノゾミは俯いてボソボソと懺悔したまま動かない。アイ先輩は奏の隣に座ってべったりくっつこうとしている。奏は正座のまま座布団を動かして必死に逃げようとしている。

「で、これで揃ったの?」

 奏が四人を見渡して言った。

「いんや、あと神垣シスターズが来るって」

「? 神垣先輩のこと?」

「そだよ。双子なんだって」

「へー……そっかー」

 奏は表情もあまり変えず二、三回頷くだけだった。別に特段驚くようなことでもないのだろう。私も同じようなものだし。

「あれ、反応薄いわね?」

「ひっつかないで下さい……」

 ついにアイ先輩が奏によりかかり始めた。このロリコンに対する良策を奏は知らないらしい。ちょっと危険かもしれないし、ノゾミの顔が怖い。

 そう思っていると、三件目の来客が飛び込んできた。インターホンが鳴った瞬間に、奏は立ち上がって

「あ、私が出てくるね!」

 と立ち去った。残されたアイ先輩の目とノゾミの表情がまさに正反対だった。

「……そんなに嫌かしら」

「いやあそこまでされるとさすがに……」

「……神垣先輩ありがとう」

 神垣シスターズが上がりこんでくるのを待っていたら、なぜか奏が一人だけ戻ってきた。

「……明音」

「ん?」

「知らない人しかいないんだけど」

「は?」

 そう言われて、私は奏についていった。


「はーい……」

 恐る恐る玄関のドアを開ける奏に続いて外に出ると、一人の女性が苦笑い気味に立っていた。この人が神垣調か。肩のあたりまで無造作に髪が伸ばされていて、茶色ではない。

「あ、ヤンキー先輩の妹さんっすね!」

「え……あ、あぁうん! 七村さんの家で間違いないですか?」

「うぃっす! 奏、戸開けて」

 ただし、ヤンキー先輩とこの人が坊主で裸になって並んだら多分見分けがつかない程度には似ていた。ヤンキー先輩と違って普通のカッターシャツにハーフパンツというシンプルな格好をしている。ヤンキー先輩の普段着なんて知らないがあの様子だとゴスロリあたりなんじゃないだろうか。もしくはメイド服とかもありかもしれない。

「明音……今アンタが友達であることがすっごい恥ずかしいかもしれないんだけど」

「?」

 調先輩を連れて廊下を歩いていると唐突にこんなことを奏から言われた。


「それにしても暑いねー」

「そっすねー。もうすぐ七月ですしねー。ゴスロリなんて着てる人は大変っすよねー」

 調先輩との会話は他愛なかった。奏は話さない。初対面相手だと普通の対応なのでどうということもなかった。

「ゴスロリねー……。そういえば七村さん、私の姉のことヤンキー先輩って呼んでるの?」

「ん、まあ髪茶色なんで」

「あはは……まああれでも良い奴だし絡んでて害はないと思うから、仲良くしてあげてよ」

「分かってますって」

 奏の影が異様に薄い気がするがどうしようもない。しかしなんでこの人ゴスロリで姉を思い出すんだろうか。まさか本当にゴスロリとか……。

 と思っていると、インターホンが鳴った。

「あ、ちょっと出るんで先行っといて下さい。奏案内しといて」

「うん」

 私は玄関に出て期待半分ドアを開けた。もうヤンキー先輩以外に来客はないはず。まさか本当にゴスロリだなんてことは……!

 ドアを開けてみると、そこには茶色い髪を頭の横で束ねたヤンキー先輩がいた。朗らかな顔でニッコリ笑った。外見はとても可愛らしいんだけど、着ている服は調先輩と色が違うだけの特徴のないものだった。

「ちくしょおおおおおおおおおっ!!」

「え、ちょっとあの、七村さん?」

 絶望のあまり床に膝と手をついてしばらく動けなかった。



 二次元の夏は好きです。二次元の夏は。

 三次元の夏とかくさくて暑くて焼けるだけなんだよなぁ

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