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12・青蘭フェスティバルⅢ

タイトル変えました。

「うぅお……」

 段ボールで区切られた狭く暗い通路の中を、私は呻き声をあげながら目の前に現れた人に向かって歩いていく。お客さんは最初は戸惑ったようだったけど、私の姿を見て反応の取り方に迷ったようで目を泳がせていた。

 しかし、文化祭とは言えお化け屋敷に一人で入る客も珍しい。相当の期待はしてくれたんだろうけど、残念。目の前にいるのは低身長の幼児体型のとても怖いとは言えない幽霊だった。

「え、えっと……うわあ……!」

 棒読みで驚かれているのがとても悲しい。

 明音の前ではちゃんと役を立ててみせると言ったものの、その後トイレの鏡で一旦自分の姿を確認してみた。自分はこんなお化けが出ても絶対驚かない。そのくせ自分では可愛いとも思えないのだけど。

 とはいっても、何もしないわけにもいかないので私は低い声をもっと低くして相手を脅かすように務めたのだった。

「のろってやるう……(ちょっとは怖がってくれないかな……お願いだから)」

 と言ってみたが、その後の言葉を考えていると何もないところでつまずいてしまって、私は無様に手をついた。

「いたたた……あれ」

 顔をあげると、さっきのお客さんは別の道を選んだのか見えなくなっていた。私は立ち上がって浴衣に着いた埃をぱたぱたと掃いた。

「……他の人達はどうしてるかな」

 どこに誰が潜んでいるのかはなんとなくわかるけど、教室内は暗くて、人を脅かすとき以外は誰も喋らない。廊下から聞こえてくる喧騒がその静けさを余計際立たせていて容易に歩けなかった。

「明音、どこ行ったんだろ。全く」

 こんなときに、明音は仕事をほっぽってどこかに行ったと聞いた。構わない。帰ってきたら思いっきり怒ってやろう。

 それにしても、文化祭でこんな悶々とすることってあるのだろうか。他の高校はどうなのか聞いてみたいが、中学時代の友達とは明音以外に連絡先を知らないし、知ろうとも思わない。いいや、どうせ他校の文化祭なんて私とは疎遠な世界だ。私は目を擦ってまた持ち場についた。

「はい、三名様ご入場ですね。……んえ!?」

 すると、受けつけの人が誰かを案内している声が聞こえた。今朝、私のメイク係を担当した人だ。三輪崎さんだったかな。驚いたような声をあげたけど、どうしたんだろう。

 さっき入ってきた人達を待つこと一分、足音が近づいてきた。三輪崎さんが三人と言っていたけど、随分とお喋りな集団で、話している内容がここまで聞きとれた。

「この辺で会ってるのよね?」

「んー、多分あってますよ」

「多分ってなんだよ……確かそこの角を曲がったところです」

 あれ、この声って……。

 私は一瞬躊躇して、踏み出すのが遅れた。そんな私の目の前に、アイ先輩が現れた。

「ホントだ、カナちゃんみーっけ」

「ふぇっ!?」

 出会いがしらに抱きつかれて、額に柔らかい塊が押し付けられた。

「お、当たった! ノゾミンすげーな」

「……ふん」

 そして、この場に来るのが著しく困難な人の名前がここにいるのが当然のように呼ばれていた。

「ちょっと、離して下さい! ぷっはあ……」へばりついてくるアイ先輩を押しのけて、ノゾミと目を合わせた。彼女は苦笑を浮かべて、時計を見て言った。

「……おはよう。ごめんな、サボるなんて言いだしてさ」

「あ、謝る必要ないよ……どうやってここに来たの?」

「私が連れてきた!」「で、どうやって来たの?」

 明音の言葉はスルーしてノゾミに問い詰めた。

「いや、七村の言ってることが本当だよ。こいつと二人乗りしたの」

 ノゾミが平坦な口調で言うと、明音は心底嬉しそうな顔でピースを掲げた。よく見ると、浴衣が皺だらけで髪が汗で濡れている。

「……ご苦労様」

 私の言葉に明音は勝ち誇った表情を浮かべた。それを見て、安堵と涙が一度に私を埋め尽くした。感極まったところに委員長が来なかったら、私は客の前で泣いていただろう。

「おーい、交代の時間だけど……あれ、線原さん?」

 ノゾミはばつが悪そうにうつむいた。

「へへっ、私が連れてきたんだぜ」

 だが、委員長は大して驚きもせずに、

「七村、段ボールは?」

「……あっ」

 段ボールって、何の話だろう?  ひょっとしたら、セットの一部が破壊されてるのは……。

「……おい」

「え、えっと倉庫に二枚くらいあるからそれ使って! じゃ!」

 と言って明音は私の手をとって教室を飛び出した。

「あ、明音!?」

『ちょっと待て、二枚で足りるはずないだろーが!』

 後ろから追いかけてきたのはアイ先輩とノゾミだった。


 私たちは図書室の机を一つ占領していた。といっても誰もいないけど。

「大変だったんだぜ? 奏のやつがノゾミンがいないとやだーって泣くもんだからさ」

「ホントか?」

「泣いてないから。変なこと言うな」

 私はどんな顔をするべきか分からずに自販機で買ったジュースを飲んで照れを隠したつもりでいた。

「あはは、まあそういうことで、外出する口実を作ってチャリを飛ばして隣町まで行ったってわけで。委員長には迷惑かけたけど。段ボール隠しておいたらなくなってたなんて思いもしなかったわー」

 と、明音は苦笑い気味に言った。アイ先輩は立ち上がってパンフレットを手にとった。

「じゃあ、次は神垣ちゃんのとこにでもいこうかしら」

 とたんに、明音とノゾミが顔をひきつらせた。


もうす受験もあるので活動休止するかもしれません。

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