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1・優等生と劣等生

 三界町は海沿いの小さな町で、周囲を山に囲まれ、外部とのコネクションは鉄道と一本伸びた県道一本である。十二世紀に作られた政治組織、鎌倉幕府の拠点も似たような地形に作られたと言われる。鎌倉幕府ではないが、仮に時代が戦国や幕末などの動乱の時期であれば、重宝されるような拠点となるだろう。その弱点はと言えば、一つにあげられるのが他地域との交流が足りないということであろうか。

 さて、高校生になってやっと携帯を持つという人間でさえ進んでいると言われるこの町の高校は、姫雪奏(ひめゆきかなで)にとっては今一つ物足りなかった。青嵐高校を受けると中学三年生の秋に宣言したとき、教師陣はもっと上の高校を目指したらどうかと進言した。彼女がそれを断ったのは、青嵐高校以外を除くと、最も近い高校であれ電車で一時間かかるというのが理由だったが、今となっては一時間のタイムロスがあってもいいかもしれないとは思うのだった。

「奏ー、宿題写させてー」

 クラスメイトに突然言い寄られて、渋々ノートを広げた奏。

「やってないの? 木村先生怒るよ?」

「怒られたくないから写すんじゃん」

 と言って、二次方程式の平方完成を映し終えて笑うのは七村明音。アクティブな顔立ちの少女の顔を暫し見つめて、反対にインドアな印象の漂う少女は、数学のノートをひっこめた。

「え? ちょっと、奏!」

「やっぱやめたー。簡単だし、案外自分でやった方が早かったりするかもよ」

 少し意地の悪さを、表情に浮かべた。

「写させてよ、友達じゃん」

「やだ」

 明音は手を伸ばし、身を乗り出して奏のノートを奪おうとした。しかし奏はその手を巧みにかわす。彼女の手の動きになかなかついていけない。痺れを切らした明音。咄嗟に奏の胸を鷲掴み。

「へっ!?」

「頂き」

 気がつけば、奏は額を明音の指一本に抑えられていた。そういえば、人間は座った状態で額を抑えられると立てなくなると聞いたことがある。

「明音、ちょっと? 離して」

「ちょっと待ってー、後一問だから」

「怒るよ?」

「はいはい、終わった!」

 指を離そうと頑張っていた奏の目の前にノートが置かれ、指が離された。

「もう……」

 痛む部分を抑えながらノートに目を落とす。恐らく開かれているページが、彼女が写した部分なのだろう。そこを見て、奏は思わず吹きそうになった。

「? どうかした?」

「なんでも」

 慌てて、無愛想を繕ってそっぽを向いた。気付かれないようにさり気なく、数学のノートを閉じながら立ち上がる。

「じゃ、売店いく?」

「おごって「調子に乗らないでね」」

 自分の欲求を一刀両断されながら、明音は笑いながら教室を出た。

「そういえばもうそろそろ冷やしうどんの時期じゃん?」

「六月だもんね。あと十日ってところじゃない?」

「十日かー。その気になれば世界一周できる期間だな」

「いや、飛行機使おうよ……」

 七村明音とは中学時代からの付き合いだ。切っても切れないだろうし、切ろうとも思わない。背が低い、子供っぽいと弄られたり宿題を写されても。

 ところで、奏も明音も教室にいる時間をあまり好まない性格で、食堂にいると昼休みが終わる時間まで居座る。次の時間は数学。昼食を終え、教室に戻ってきた折に奏は楽しそうに切り出した。

「ああ、明音。さっき写すとこ間違ってたよ」

「は?」

 明音は、奏が数学のノートのことを示唆しているとは考えつきもしない。美化すれば、今を生きているという言い方になるのだろう。

「さっき明音が写したやつの前のページだっけ、今日の課題はそこだよ?」

「え……え!? ちょっと待って、そこ写してな」

「怒られないといいねっ」

 それだけ言うと飛ぶように自分の席に戻っていく奏の胸を、サイズが倍になるまでもみしだいても罰は当たるまいと筋違いな恨みを抱きかけたが、まずは数学の宿題を埋めるのが先と勇んだ。

「奏のやつ、今度会ったら……今度会ったら……」

 具体的に何をするかまで考えが浮かばないまま、本鈴がなった。埋まるべきページは空白。次のところをしたと言い訳にすればと思ったが、そんな言い訳が通用する数学教師ではなかった。


今更ですが新しく書き始めました。はい。

今までちょっとあれな雰囲気のもんばっかり書いてたので楽しい学園モノでも! と思って。はい。一話一話切っていくつもりですけどところで次話の内容が思いつかないんですがどうすればいい

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