鏡越し
鏡にうつった少女は見た感じ元の春菜と
それ程年齢に差が無い様に思われた。
良くて15、6歳といったところ。
糸の様に細く癖のない真っ直ぐな髪は、丁度腰までの長さがある。
この数日ろくに櫛さえとおせていないにも関わらずサラサラだ。
そして印象的な大きな目とそれを縁取る長い睫毛。
蛍光灯の光を映し込んで少し潤んだ様に見える瞳は
それこそ宝石の様に美しい。
その下には小さく整った鼻梁と薄桃色の愛らしい唇が配置され、
キメ細かい色白な頬にはにきびの一つも見当たらない。
唯一挙げるとすれば、右目のやや斜め下にうっすら見える
ほくろの様なものがチャームポイントと言えるかもしれない。
最終的にはそれら全てが、小さく整った
輪郭の中に絶妙のバランスで収まっている。
髪や瞳の色素が薄く、光の中で溶けてしまいそうな程
淡く柔らかい色味だからか、整った顔立ちと相まって
生身の人間では無い様な錯覚を起こしてしまう。
試しに春菜が鏡に向かって笑いかけると
その少女も優しく微笑み返してきた。
本当に「天使の様な女の子だ」と改めて感動するのと同時に、
この少女が今の春菜自身なのだという受け入れがたい
現実に、彼女はしばらく鏡の前から動く事ができなかった。