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違和感

台車の様な寝台で運ばれた後、春菜は様々な機械で検査を受ける事になった。


それは主に脳波や脳それ自体を検査するもので

医師は始終難しい表情を浮かべては、春菜の

レントゲン写真を何枚も見比べたりしていた。


検査の結果はやはり異常なし。

知らされたのは翌日になってからだった。

もちろん検査後、春菜は病室に戻っていたので

翌日は医師の方が春菜のいる病室にやって来た。

昨日失神した謎の女性も、医師と共に再度春菜の病室を訪れた。


「検査で異常が見つからなかったとは言え・・・・


 いくつか君に質問したいんだが、体調の方は大丈夫?」


「はい、特には・・・。」


医師が言っていた通り、意識が戻ってからの体のだるさは

今日までにはもうほとんど回復していた。

寝起きも特に異常はなかったように思う。


・・・・いや、異常というか、不可解な点が

いくつかあった事にはあったが。


まず昨日は思うように体に力が入らなかったため、春菜が

事故後初めて身体からだを起こしたのはつい今朝方のことだった。

その時に、寝っぱなしで昨日は分からなかった

自分の変化に春菜は気が付いたのだ。


まず髪の毛が物凄く伸びているということ。


春菜の髪の毛は良くてセミロング、決して長い方ではない。

それなのに今朝彼女が身を起こした際にサラリと

胸元に流れてきた髪の毛先は、座った状態で

春菜のヘソ辺りにまで達していた。

いくらなんでも、3日寝ていただけでここまで

髪の毛が伸びるなんて事があるだろうか・・・?

もちろんその髪の毛が彼女の頭から

生えている物であることはきちんと確認済みである。

加えて不思議なことには、髪の色まで変わっているらしいという事。

元々は黒髪だった筈が、指先でつまんだ髪の毛は

全体的に茶色っぽい気がした・・・。

鏡か何かで見てみない事には断言できないのだが、生憎

この病室及びベッド周辺には鏡やその代わりに

姿をうつせそうな物は見当たらなかった。


他には肌の色や声等、なぜ昨日は気付かなかったのか

不思議なくらい様々な場所に前の彼女とは違う異変をきたしていた。




――――――――これではまるで前の自分とは別人の様ではないか・・・・。




しかも不可解な事は他にもまだある。

昨日はいきなり色々あり過ぎて流してしまったけれど

「姫子」って一体誰のことなのだ・・・。


そして私を心配したり泣いたり、挙げ句の果て


失神までしたあの女性は一体・・・・?


「やはりまだ気分が悪いかい?


 質問はまた後日にしようか・・・・・。」


突然医師の言葉ではっ、と我に返る。

医師の肩越しに昨日の様に、あの女性が

不安そうな表情でこちらを窺っているのが見えた。

顔色が悪い。


―――――また失神しそう、あの人・・・・・


「いえ、大丈夫ですっ。少しぼーっとしちゃっただけですよ。」


努めて明るく答えたものの、医師はまだ若干疑う様にこちらを見ている。

何回か「本当に大丈夫ですから!」を繰り返しようやく納得を得られた様だ。

医師が手に持ったファイルを開いて、質問の体勢に入る。


「では、簡単な質問をいくつかしますね。」


「はい。」


松凪姫子まつなぎひめこさんは――――――」


「??!」


「ん、何か?・・・・・・・・松凪さん?」


「え。いえ、あの・・名前、が。」


「名前?名前が何か・・・・・・・っあ・・・。」


医師は何かに気付いた様に顔を強張らせ、口をつぐんだ。


「私の名前は斉藤―――――」


「そうか、いや分かった・・・。すまなかったね。」


医師の謝罪の言葉を聞きつつ、なぜ私の名前を間違えたのかと疑問がよぎる。


突然医師は首を後方にひねり、後ろに控えた例の女性に声をかけた。


「お母さん、落ち着いて聞いて下さい。」


お母さん?この女の人が?


一体誰の・・・?


「・・・・・・。」


「娘さんはどうやら御両親の記憶だけではなく、御自身のお名前すら


 覚えてはおられない様です・・・・。」


その医師の言葉に驚いたのは何も例の女性だけではない。

同様、いやそれ以上に春菜も驚いていた。


なぜなら自分は名前を忘れたり、記憶を失ったりはしていないからだ。

明らかに医師の思い違いである。

しかも医師の言葉から推測するに、医師側は例の女性を

春菜の母親か何かと勘違いしているらしいのだ。

しかし春菜は目の前の女性の事等全く知らないし、

ましてや彼女の娘だなんてあろう筈がない。


――――――これは早急に誤解を解かなくてはっ!

何がどうなってこんな勘違いが病院側に生じたのかは

分からないけれど、今はそんな事を考えている場合ではない。


「私の名前は斉藤春菜ですっ!


 記憶を無くしたりなんてしていませんっ。そちらの勘違いです!!」


突然声を張り上げた春菜に医師は驚いた顔を見せたが

すぐにそれは哀れみの表情へと塗り替えられた。


「おまけに他人と自分の区別もつかなくなっているらしい・・・。」


医師の呟いた言葉は春菜の混乱にますます拍車をかけた。

見れば、例の女性はもう既に床に座り込んで

泣き崩れている始末・・・・。

もう何が何やら。


「・・・・・っっ、鏡をください!!」


今の春菜が自分の状況を判断するには

もうこの言葉しか残されていなかった。









































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