目覚め
3年間も通り慣れた道だっただけに
多少の油断があったのかもしれない。
とにかく私は少し上の空で歩いていたせいもあって
右の曲がり角をこちらに向かって走ってきたバイクに
気付く事ができなかった。
しかもその時私のすぐ後ろを、別の学校の
制服を着た女子生徒が歩いていた。
バイクが、曲がり角の死角から出てきた私に
そのまま突っ込んできた時、後ろの女子生徒も
体が強張って動けなかったのか・・・。
結局その事故には一切面識の無い、その
無関係な少女も巻き込まれてしまったのだ。
目を開けて最初に飛び込んできたのは
白い・・・ただただ白い視界。
けれどそれが病院の天井だと気付くのに
それ程時間を必要とはしなかった。
「・・・・ん・・。」
少し重だるい体に力をこめて
なんとか首だけは動かすことに成功する。
広い病室には私が寝ているベッドだけが
置かれている様で、人の気配は一切ない。
すぐ脇に点滴がぶら下がっていて、その先は
きっと私の腕に繋がっているんだろうと理解する。
すぐ手の届く所にナースコールがあるのが見えた。
徐々になぜ自分が病院のベッドで寝かされている
という状況に陥ったのか、その原因が思い出されてくる。
「そうだ・・・・・・。事故、バイク・・・。」
私は中学校の卒業式の帰りにバイクに追突されたのだ。
―――――と、言っても私が覚えているのは
「跳ねられるっ!」と思って固まった寸前までで
実際にはあの後追突されたのだろう、と推測するしかないのだが・・・。
ガラッ
突然何の気配も感じなかった病室の扉が開いたので
私は一瞬本気で心臓が飛び出るかと思う程驚いた。
入ってきた人は若い女の人・・・30代くらい?
―――――――なにしろ私の母親はもう50代なので、彼女を見慣れた
私にとっては30代女性なんてまだまだ若い部類に入るのだ――――
彼女の顔には疲れの色が滲んでいる。
お化粧も少しはげているし、髪の毛も元々はもっと綺麗に
結い上げていたのだろうに、今はあちこちほつれて
グシャグシャになっているのがまたさらに痛々しい。
「―――――っっ!姫子っ、気がついたの?!」
女の人はそう叫ぶやいなや、ベッドの上の私に向かって
突進する勢いでかけ寄って来た。
えぇ~と・・・。
姫子さん?
え、誰ー・・・??
一人混乱する私を置いてきぼりに
かけ寄って来た女の人はナースコールを押しながら
「良かった・・・。良かったぁ・・・・・。」
と言ってベッドの縁にうずくまって
ボロボロ涙をこぼしている。
間もなく病室にはナースコールを受けた看護師と医師がやって来た。
そこで、泣いていた女の人も立ち上がって私のベッドから離れる。
医師は黙々と私の体の点検(?)を始め、看護師は点滴の方を
何やらごそごそしているようだ。
やがて「うむ。」と言う様に頷いた後、医師は私に向かって
優しく笑いかけてきた。
「大丈夫。
幸い運ばれてきた時も君はどこも骨折していなかったし、目立った
外傷もそれ程無かった。念のために今点検したけれど、どこか具合の
悪い所はあるかな・・・?」
医師の言葉を受けて一番安心したのは、後ろに控えた女の人の様だった。
また泣いている。
私は女の人から医師に視線を戻した。
「具合というか・・・体がだるい感じが。」
「あぁ、それは君、丸3日間寝続けていたんだからね。
大丈夫、すぐに元通りになるよ。・・・他には?」
私はここでちらり、と医師の後ろの女の人を
もう一度見た。
「あの、そこにいる女の人は・・・誰なんですか?
私のお母さんは・・・・・?」
私がそう言った瞬間医師は驚愕に目を見開き、
その後ろで泣いていた女の人はその数秒後に泡を吹いて
気絶してしまった。
えっ?・・・・っえぇ??!
一人焦る私の事等お構いなしに、突然医師が声を張り上げた。
どうやら脳?検査のためにこれから移動させられるらしい。
それより倒れた女の人を放置したままで良いのだろうか・・・?
とにもかくにも、私は看護師数人の手によって
ベッドから台車?の様なものに乗せ代えられて
そのまま病室を後にした。