プロローグ
入れ替わった相手の方、どうなるんでしょうか・・・。
青く澄みわたった3月の青空。
卒業式日和とはまさにこういう日の事を言うのだろう。
周りを見渡せば、今までお世話になった教員と
写真を撮る生徒や、友達同士泣きながら抱き合ったり
両親と楽しそうに話している生徒等様々な人で溢れかえっている。
そう、今日は私が3年間通い慣れた中学校の卒業式だった。
式はついさっき終わって、卒業生は体育館から退場後
中庭に集まり、こうして写真撮影等を行っている最中なのである。
私、斉藤春菜の家は母子家庭。
家庭の収入は少なく、正直もう高校に行けないだろうことは
早い段階で私にも分かっていた事だった。
今日、この卒業式の日であっても私の母親は出席
することができなかった。
仕事があったから・・・。
だから、私は中学3年間ずっと仲良くしてくれた
数人の友人と何枚か写真をとったり、いくらか
他愛のない思い出話に花を咲かせた後は、もうすぐに
家路につくことにした。
まだ中庭ではたくさんの生徒達が楽しそうに騒いでいる。
その声を背にうけつつ、私は一人寂しく校門を出た。
小学校、中学校と春菜はあまり目立たない少女だった。
一言で言うなら地味。
これといって特徴のない平たんな顔立ちも
日本人特有のもので、体型にしてもごくごく一般的。
髪の毛の色も茶色かったりする事なく、ごく普通の黒髪だ。
だから自然とつるむ友人も似たような、クラスでも地味めな
子が多くなり、実質的に彼女の世間的存在位置も
「クラスに何人かはいる、特にいてもいなくてもどっちでも良い的存在」
になっていた。
別にそれに不満を覚えたことはない。
正直クラスの中心的な、派手でキラキラした様な同級生達の
テンションにはついて行けない所も多々あったから。
でも自分の家庭環境と、ふいに比べたりした時等には
彼女達を「羨ましい」と感じた事もあった。
なぜなら彼女達はいつだってキラキラしていたから。
未来への期待や希望に溢れていたから。
それは自分にはないものだったから、だから羨ましかった。
自分以外の人間の安定した未来はほぼ容易に想像がついた
けれど、今日生きていくのもギリギリの切り詰めた生活の
自分には「未来」なんて「将来の私」なんて全く思い浮かばなかった。
―――――――――――だから、今日この日春菜に起こった出来事は
きっと神様の手違いだったのだ。
それは誰にも想像し得なかったであろう「春菜の未来」だったのだから・・・。