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 今回は、芽依視線です。


 気を引き締めて…いざ!!






 

 「蒼藍! 大丈夫か!?」



 杏達に言われて来てみれば……やはり、この野郎か。今更、蒼藍に何の用だ? まぁ、こいつが蒼藍を呼び出すなんて、目的は一つだろうが。



 俺の少し責める様な言葉に、蒼藍は叱られた仔犬の様に項垂れ、謝った。



 ……別に蒼藍が悪い訳なんじゃない。それはよく分かってる。だけどこんなに蒼藍に当たってしまったのは、嫉妬か。それとも、不安か。



 分かってる。蒼藍が昔どれだけ李苑になついていたとしても、今は俺だけを見てくれてるってこと位。



 分かってるさ。蒼藍が欲しているのは、俺だけだって。

 

 

 分かってるのに……不安になる。俺がこの気持ちに気付いた時みたいにいつか蒼藍が俺を見てくれなくなるんじゃないかって、何処かに行ってしまうんじゃないかって。



 昔から蒼藍を見ていた。蒼藍が李苑を見ていたのと同様に。気持ちに気付いたのはずっと後でも、いつしか蒼藍の隣にいるのは俺であって欲しいと、そう思うようになった。でも、どんなに仲良くなっても蒼藍が見ているのは、『友達』としての芽依(俺)だった。あの事件が起こるまでは。



 


 あの日、俺や杏達で映画を見る約束をしていたのに蒼藍は待ち合わせ場所に時間になってもなかなか現れず、不思議に思い俺が皆を先に行かせ蒼藍の家に行ってみると、まだ家に帰ってないらしい。学校の用事はないはずだが…何だか嫌な予感がして学校に急ぐ。靴箱には靴があった。小さく折り畳まれた手紙と共に。



 嫌な予感が当たった。



 冷や汗が背中を伝うのが分かった。嘘であって欲しいと思いながらも必死で走った。



 ……けれど、予感は当たっていた。



 体育館の倉庫の前には、何処か虚ろな目をした李苑が。そしてその視線の先には悲鳴に近い助けを求める蒼藍がいた。知らない男に組敷かれている蒼藍が。



 床には下着が投げ捨てるようにして置いてあって、元の蒼藍が着けていたとは思えない様な姿になっていた。無惨に破かれたブラウスの下には豊かな乳房が揺れていて、それを時々男が撫で回すように揉んだ。……その薄汚い手で。



 蒼藍が悲鳴を上げた。男が蒼藍の太腿に触れたのだ。その先の行為を知ってか、抵抗していた蒼藍が涙で濡れた顔を歪ませながら後ずさる。その逃げる蒼藍の手を男が掴んだ時だった。俺の中で何かが切れた――。



 気が付くと、男が血塗れになりながら床に倒れていた。自分の手を見つめると真っ赤になっていて、俺がやったんだとそう思った。



 これだけの出血なら相当の怪我だろう。退学になるかもしれない。だけど俺は落ち着いていて、男には目もくれず、震えている蒼藍の傍に行き、自分の着ていたコートを掛けた。肩が震えていたので、少し距離を置こうと背を向けたその途端、蒼藍が俺の背中に飛びついてきた。驚いて後ろを見やれば、困ったように視線を巡らせながら必死に言葉を伝えようとしていたが、ガタガタと口が震えていて言葉を発することが出来ないのが憐れだった。



 けれど、涙に濡れたその顔に、その瞳に俺が映っていたのが嬉しかった。



 ……俺だけを、見てくれた。



 今までのどんなことよりも俺の心は踊っていた。これまでにない達成感と幸福感が胸に溢れていた。



 今だけだとしても蒼藍は俺を、見ている。



 震えながらも目を潤ませながらも、俺を見ている。そんな彼女がどうしようもないくらい愛しいと思った。……もう、逃がさない。



 潤む瞳の彼女が俺のコートを羽織っている。それだけで彼女が俺のものになったみたいで嬉しかった。理性を押さえ込んで、蒼藍の額に触れるだけのキスをした。安心させるように微笑んで彼女を抱き上げる。李苑が呆然とこちらを見ていたが、俺は奴には一瞥もくれず体育館倉庫を後にした。



 * * *



 結局俺は退学にならなかった。蒼藍を襲った犯人の親が警察沙汰になることを恐れたのだ。この学園には結構な金持ちが沢山いる。男の家はちょっとした国会議員の親がいたらしい。自分の地位が危うくなることは避けたいと思ったのだろう。どこまで思考が腐ってるんだか。



 男の家を笑っているのに、何故か自分にも笑えた。



 俺はこの事件のことを恨んでいる。蒼藍にトラウマを抱かせてしまったのは本当に許せないことだとも思っている。……だが、同時に俺はそれで良かったとも思っている。蒼藍が俺の下に来る、なんてこれまでだったらありはしなかっただろう。



 俺は情けない人間だ。


 この事件を本当に恨むことのできない卑しい人間だ。


 彼女の幸せを心から祝うことの出来なかった残酷な人間だ。



 ……だけど。俺は思う。



 俺が彼女を幸せにすると。



 事件のことも忘れるくらい、俺が彼女を愛することを誓う。



 彼女の幸せが俺であるように。



 


 ……誰にも邪魔させない。



 彼女と、俺の――幸せの為に。








 更新遅れました><



 まさかの展開になってきましたね…。


 芽依君には多少ヤンデレの要素が含まれているようです。


 実際にいたら…ホラーですが。


 と、まぁ蒼藍ちゃんの過去が分かってきたところでようやく次の段階に移りたいと思います。


 いつか別サイドでお届けしたい…とは思っているのですが、まだまだ予定ですのでお待ちください。


 3.3 修正致しました。




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