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 『どうしてあの時…』


 悔やまれる過去。


 でも、もうそれが変わることはない。



 




 ――いつまでも傍にいることを誓う。


 病めるときも、健やかなるときも。


 いつだってお前の傍にいることを誓おう。


 だから、俺と。


 俺と、


 俺と……


 

 

 「俺と付き合え」


 長い前髪に隠れた眼鏡が微妙に動き、その中の瞳が大きく見開かれたのが分かる。


 言ってしまってから、物凄い後悔が俺を襲う。


 どこの俺様いじめっ子だよ!と一人ツッコミ。


 ……何で言えないんだろう。こいつにだけは。



 その答えは自分が一番知っているのに……。



 「……蒼藍! 大丈夫か!?」


 「芽依君!」


 ムカつく男が来た……舌打ちをして男を一瞥する。


 「杏達から聞いたぞ、呼び出されたんだって?」


 少し批判気味の声音である。


 お前には関係ないだろ……。


 だけど蒼藍は、肩を落として「……ごめんなさい」と謝った。


 垂れた尻尾と耳が見えそうだ。


 こんな奴に謝る必要なんてないぞ!!


 そして奴はそんな彼女を見て、「……これからは俺に相談してからにしろよ?」なんて言って彼女の頬に手を…彼女は彼女で奴の手が添えられた頬を染めながら「……うん」なんて言って目を閉じて、そこに奴の顔が覆いかぶさるようにして…


 わーーーーーーー!!!



 やめろぉぉぉぉぉ!!!



 告った奴の前ですることじゃなくね?


 てか、こいつら俺のこと忘れてね……



 いやいやいや!!!


 そんなことはないはず!!


 取り敢えず、止めないと!!



 「……あの」



 あぁぁぁぁぁ!!!



 俺の馬鹿!!!何卑屈になってんだよ!!


 確かにこの中じゃ俺は浮いてるけども、もっと堂々と行けっ!!


 「……何してんの? 俺の前で。」


 そうっ!!そんな感じだ!!


 多少やっかみみたいになったのはスルーするが……


 「あ?」


 うわー睨んでるし。


 何だ、その「いいとこなんだから空気読めよみたいな」表情は!!


 てか、蒼藍は顔真っ赤にしてるし……可愛いけど、絶対俺のこと忘れてたよな……。


 一人悲しみに浸っていると、奴が殺気立った目をして俺を睨む。



 「何? 蒼藍に話って。話なら俺がいるとこでしてくんない?」



 その言葉にカッと血が頭に上るのを感じた。



 「お前には関係ないだろ!!俺は蒼藍に……」



 そこまで言ったとき、何かが顔の横を掠めた。


 頬に血が伝う。


 足元に小さなカッターが落ちていた。


 どうやらこれを投げたらしい。



 奴の表情を見てゾクッとなった。


 これが、怒り……


 地に響くような低い声。


 「……次は外さない。蒼藍がこうなった原因を作った張本人が、よくもそんなことを……。俺は絶対にお前を許さない。それと、蒼藍の名をお前が呼ぶな、穢れる。」


 そう吐き捨てるように言って、彼女の肩を大事そうに抱き去っていく背中を見つめながら、俺は地面に崩れ落ちた。


 俺の方が先に蒼藍を好きになっていたのに……


 振り返ることなく去っていく背中を見つめながら、もう一番欲しかったものは手に入らないんだと気付いて嘆いた。


 

 幼い時、いつも俺の後ろを付いてきた蒼藍。


 その時は今みたいに奴(芽依)なんか出る幕のないくらい蒼藍は俺に懐いていた。


 昔から蒼藍は可愛くて、前髪も普通の長さで伊達眼鏡なんかかけていなかった。


 俺はそんな蒼藍が大好きだった。



 『蒼藍!』そう呼ぶと、すぐに来てくれる君。


 『蒼藍。』そう呼ぶと、小首を傾げるようにして応えてくれる姿も愛おしい。


 『蒼藍…』そう呼ぶと、俺の泣きそうな目をじっと見つめてくれる君。


 そんな蒼藍が大好きだった…。



 奴が言った「蒼藍をこんなふうにした」事件なんかなければ。



 * * *



 美人なのに決して気取ったりせず、人一倍努力しようとする彼女は中学に入っても人気だった。


 俺とはたまに話すくらいになっていた彼女はちゃんと自分の居場所を作っていて、俺がいなくても一人で何でもやってしまえるほどだった。


 奴(芽依)も今とは違い、無口ではあったがちゃんと周りと仲良くしていたし、何より蒼藍の“隣”にはいなかった。そもそも好きだという気持ちにさえ気付いていないようだった。


 あまり話さなくなっても、蒼藍の“隣”は俺だけの場所だった。



 『……嫌です。お願いですからやめてください』


 あの時の蒼藍の震えるような声がまだ耳に残っている。


 嫌だと思う。思い出したくないと思うその心音とは裏腹に自然とあの時の情景が目の奥にフラッシュバックする。


 助けを求める蒼藍の悲痛な声。


 背中越しでも分かる。欲情した男の邪な視線が組み敷いた彼女の躰に向けられているのだろう。


 荒い息。布ずれの音。彼女の悲鳴。


 『どうして、どうして助けてくれないの』彼女の目がそう言っているのがわかる。


 でも俺は動けず、ただそこでじっとして彼女が男に抱かれそうになるのを、冷めた目で見つめていた。


 何故動けなかったのか。


 どうして彼女を助けなかったのか。


 分からない。


 俺が知りたい。


 その後、奴(芽依)が血相を変えて走って来るまで俺はそこで動けなかった。


 血塗れになり無惨に床に転がった男の呻き声を聞きながら、壊れてしまった蒼藍を大事そうに、まるで壊れ物を扱うように抱き去っていく芽依に一瞥もされず、ただ俺は立ち尽くすだけだった。


 そんな俺が蒼藍に話し掛ける資格はないって?


 分かってるさ。


 そんなことぐらい。


 自分が一番、分かってるさ……。




 

 三作品目で御座います。


 拝見してくださった皆様に心より感謝を申し上げます。


 作者より。



 天弥 李苑(amami rion) : 学園一のイケメンで、蒼藍が好き。芽依とは因縁の仲。好きな子に意地悪してしまう…典型的なツンデレ王子。嫉妬深く、独占欲が強い。愛情表現が下手。少し猫っ毛であるが艶のいいブラウンの髪、金色を思わせる瞳。♂。


 姫路 蒼藍(himeji sora): 本当は美形だが、昔のトラウマで人間不信に陥ってしまう。芽依と親友だけが秘密を知っていて、それ以外の人間との関わりを恐れる傾向あり。自傷行為もしばしばで、自分の容姿に自信が持てなくて長い前髪と伊達メガネで隠している。現在芽依と付き合っている。まっすぐな黒髪に長く伸ばされた前髪、眼鏡。本当は、真っ白い肌にほんのりとした桃色の頬、アーモンドナッツの様な瞳。♀。


 犬飼 芽依(inukai mei) : 野球部のエース。蒼藍のことが一番でそれ以外はどうでもいい。美形だが、蒼藍にしか笑顔を見せず、蒼藍に危害を加える人間は容赦なく叩き潰すので恐れられている。蒼藍の恋人で、昔の事件のことで蒼藍を傷つけた李苑のことを憎んでいる。事件から蒼藍を救った。現在進行形で蒼藍の家で同棲中。銀髪に日焼けした肌、鋭いグレーの切れ目、セクシーホクロの持ち主。♂。


 3.3 修正致しました。








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