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A.S 新天地を目指して  作者: 飛守 ツヨシ
第一章 過去からの贈り物
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第一節 入国と疲労

 二〇一四年六月、あれから一年と六ヶ月が過ぎようとしていたころ、世界各国では大小さまざまな戦争が繰り広げられている。理由は国民の行動力の低下、それに起因する政治力、経済力などを維持するために、各政府は他国の領土に進撃し、その土地の作物などを強奪。終いにはやられたからやり返す、という悪循環がこの問題をより複雑化しているからだ。

 その後の航空機について言うと、全く使えなくなったわけではない。飛行中に電子化していた計器を指針のある、つまりは旧型の計器板で表示すれば可能ではある。が、需要が無くなったにも等しい航空業界は失墜の道をたどるのみであった。


 そんな中、一人の男性がまだ戦争の起こってないオーストラリア大陸に上陸した。

 日本からやってきた彼は航空機で上陸したわけではもちろんない。船と陸地を使い、まるで近世のころのようなやり方で渡航してきた。船といっても方位がほとんど一定でないため、陸地からできるだけ離れないように、そして何度も寄港しなければならない。

 以前より世界は広く、長く感じられる。


 幸いにも島国であった日本は戦争に巻き込まれてはいない。日本政府や自衛隊、国民はもしものことを想定しながら日々を過ごしていたが、敵となる国にとって戦闘機も役に立たず使えなくなった現在では、かの最強の戦艦を所有していた日本国への攻撃は悩みどころだったからだ。

 そのため日本は宇宙に進出するための研究により一層努力することができた。後に日本は世界の先頭に立つきっかけがうまれる。


「ハー……。飛行機使えないとか勘弁してほしいよ。あれ以来ホントに仕事無くなっちゃったし……」

 オーストラリア大陸の北側に位置するダーウィン港に到着した青年は、長旅の疲れから早速愚痴をする。しかし目の前には入国審査の手続きを待つ群衆の列が二重三重ズラリと並び、これにもまたため息をつくような素振りを見せる。

 この群衆の多くは、オーストラリアもまた安全な地だと思った東南アジア諸国の難民が入国してきているのである。

 ときおり難民に紛れて犯罪者や怪しい人物が職員により連行させられている様子を、青年は目撃する。

「……Next.」

 そういわれるとようやく彼の番がやってきて、彼は女性で小太りの入国審査官にパスポートと入国審査書を提示する。

「……Ryo Kunieda?」

「Yes.」

 国枝(くにえだ)(りょう)はシャキッとしない声で返答する。彼の眼は審査官の肩につけられたワッペンにいく。妙に気になるようだ。

「Why did you enter a country?」

「アー、Travel……Tour……」

 彼には英語力が並よりてんでダメで、とりあえず単語を言えば分ってくれるだろうと思う。

「Right.………………」

 そういうと審査官は手元のパソコンを巧みに操る。何度か国枝の顔をチラリと覗き込むも、そのたびに国枝は心拍数が上昇するのを感じられる。彼自身が彼の事を不審者だと認めているからだ。こんなご時世に観光目的でオーストラリアに来る人はまず見当たらない。

「…………OK. Have a nice day.」

「ユ、You too…….」

 何事も無く、大きく安堵を見せた国枝はパスポートを受け取ると、早速入国ロビーへと足を踏み入れる。しかしその顔には次なる不安の表情が浮き彫りになる。

「……やばいな。予定より二十分も遅れてるよ。これじゃあ――」

「遅い!」

 出し抜けに、ロビーからは一人の女性の声が聞こえた。だが姿は簡単には確認できない。事態を把握した国枝は気づいてないふりをして、あちら側から勝手に出てくるのを待つように先にターミナルの出口に歩く。

「あっ! ちょっと、何勝手にしかとしてるのよ?」

 ようやく声の主が人ごみの中から飛び出てくる。

 女性は黒く艶やかで綺麗な髪をしている。またスタイルも抜群に良く、過去にコンテストに入賞したことがある、と本人はことあるごとに話す。研究服の白衣がやや大きめに見えるのも、彼女なりの身だしなみなのだろう。

 普通にしていれば完璧な、そして理想的な女性であるのだが、なぜか性格が非常に不安定なところがある。それについて国枝は多くのアニメを昔のころに見ていたことが原因だろうと推測する。これもやはり彼女なりの理想があるのだろう。しかしそれでいても彼女のスタイルと性格がツボになっている熱狂的なファンがたまにいるのだが、今国枝にとって彼女のことは特に興味を持っていない。

(あや)ぁ、もっと普通に出てこられないのか?」

 国枝は今までのたまりにたまった不満を、少しずつガス抜きするような態度でその女性に話しかける。

「うるさいわね。一時間も遅れてるんだよ。反省しなさい! それに綾じゃなくて日野(ひの)と呼べって言ってるでしょ?」

「ッ! 悪かったですね……」

「謝ればよろしい」

 国枝は一時間も遅れてない事や、つい最近まで下の名前で呼ばされていたと激しく反抗したいものだったが、これまでの疲労と反抗した後の無駄な体力浪費の事を考えると、素直に謝る事しかできない。

 もちろんこの行為は彼にとって敗北を意味し、一番避けたいパターンだったが、今はそんなところではない。

「で、ここからどこに行くのか聞いてないのだけど、とりあえずホテルでも……」

「ホテルって! ばっかじゃないの? あんたここに何しに来たのよ!」

 国枝はそういうつもりで言ったのではなく、ただ疲れを取りたいためにホテルに行きたいと言ったのだが、綾は別の意味でとらえたらしい。彼女の顔は熟れた赤野菜のように色づく。

「だから、どこに行くのかも聞いてないのにそんなもん分かるはずないだろ? 取り敢えずゆっくり休ませてくれよ……」

「そ、それだったら残念ですね。この後はさっそく汽車に乗ってオーストラリアのど真ん中まで行きますよ~だ」

 綾は腕を組むと、さらにおちょくりの言葉をかけ、国枝の疲労はたまるばかりであった。


   【次回予告】

    C2「なんだか楽しみだなぁ」

C27「はぁ?」

          C3「バカ言ってるんじゃないわよ」

           C22「! め、滅亡するっていうこと?」

       C31「それはお楽しみ」


   『第二節 列車の中で~出発~』

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