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A.S 新天地を目指して  作者: 飛守 ツヨシ
第一章 過去からの贈り物
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第十三節 悔やむ心と責任感

「よかったんですか?」

「何がだ?」

「何がって、妹さんを捜しに行かなくて」

「愚問だな。そんな悠長なことをしているほど私も時間がなくてね」

「そうかもしれませんが、未だ行方不明なのに心配とかしないのですか?」

「心配したところで綾が戻ってくるわけでもない。それに私が行くよりも、現地の調査団に捜索の依頼をした方が手っ取り早いじゃないか。ここからオーストラリアのど真ん中まで何日かかると思う?」

「……」

「よし、では私は定例会議に出席する。研究所(ここ)のことは任したぞ、山本。何かあれば呼んでくれ」

「あっ、副大臣! もう、いくらなんでも酷すぎじゃないですか……」

 三浦沙月外務省副大臣は、地球大地震の直後の緊急国連総会で新たな新天地、つまりは外宇宙へ向けた長期的な戦略『方舟計画』を提案し、その計画の直轄する機構『Advancement to Space』を設立、その長に抜擢された。

 元自衛官という彼女の振る舞いは、諸外国からも評価を得ており「サムライ・ウーマン」と称されているらしいが、もちろん本人はそんな情報を耳にするほどの余裕はない。

 彼女には人類という種、また他の地球上の生植物を絶やしてはいけないという激務があるからだ。そんな激務の最中に実の妹が行方不明であっても、人類の未来と一人の人間の運命を天秤に掛ければ、元自衛官である彼女の判断は容易に推測できる。

 周りから見れば、非道な人間と思われるかもしれないが、彼女にも彼女なりの思いというものがあり、心の奥底では自分で探しに行きたいのだろう。最近の会議でも上の空なところがよく目立っていた。


「……で、三浦代表。この件についてお聞かせ願いますか?」

 アメリカ代表のマイケル・フィードは、魂の抜けた三浦に問い詰める。

「すみません。もう一度言って頂けますか?」

「……少し休まれてはどうですか? 顔色も少し良くないようですし、それにここ数日働きっぱなしと聞くじゃないですか」

「いえ、ご心配ありません。日本人は働くことに誇りを持つことがありますので、これくらいで休むわけにはいきませんよ」

「そうですか。では、今考えていらっしゃる宇宙進出の規模をお聞かせください」

「宇宙進出の規模ですか。今のところ計画しているのは、我々のいるこの銀河系の全範囲を想定しています」

「なるほど、以前一個人での宇宙船では不可能といったのはこういう理由ですか」

 イギリス代表のチャールズ・ホックラーはそう訊ねる。

「はい。単なる宇宙船であれば、少なからず数か月若しくは数年のうちに物資や資源の補給を行わなければなりません。しかしもし地球に帰還できない状況であればそれらの補給は不可能となります。なのでできるだけ補給をしなくてもいいような船団を造っていただきたいと思っています。このことは船団を設計するうえでの重要な基準と考えてください。なので簡単な宇宙船ではなく、国際的にしっかりとした船を造っていただきたいと考えているのです」

「しかし、何もかも補給せずにいられる船団を造るのは、ほぼ不可能になるのでは? 少なからず水素や窒素などは人間に、いや動植物にとっても必要不可欠な物質なのですから」

「確かに、その点は現在研究中ですが、一つの案として水や酸素、窒素といった循環可能な資源などは、その船団内でできるだけ循環。鉱物やそれらの資源は、近辺にある小惑星などからの採取というシステムも考えています」

「なるほど、わかりました。関係機関にはそのような考え方で伝達いたします」

「他に質問のある国、地域はありませんか?」

 三浦は他の参加国に意見を求める。

「えっと、南アフリカ共和国代表ですが、我々のような途上国では治安を維持するのが精いっぱいなのです。そんな国民に我々の任務である労働力を押し付ける事は、さらなる治安の乱れが推測できるのですが……」

「で、私にどうしろと?」

「へ?」

「確かに私が作成したグループには、人口、労働力、技術力などを踏まえて振り分けさせていただきました。中でも労働力の分野は、途上国などの人口の集中している国に押し付けているようなものです。反対派が出てくるのもおかしくないでしょう。しかしそれをどうこうするのが、あなたたち政治家の仕事です」

「しかし我々の力量では限界です」

「まだ南アフリカはこれまでの被害が少ない方です。インドや中国を見てください。地球大地震であれほどの甚大な被害を受けたのに、人手を労働力に回すのに必死に頑張っていますよ。あなたの国もこれぐらいの治政を目標としてみてください。限界などというのはあなたが弱腰なだけです。……それでも納得ができないのであれば、この計画から降りていただきます」

「……わかりました。できる限りの努力はします。ですが国連として何らかの支援を我々は望みます」

「いいでしょう。他にも治安維持隊の派遣を望む国、地域はありませんか? あるのなら必要な手続きを得てください。私はあなたたち人類の味方ですから。……ではこれで定例会議を終わります」


 三浦沙月は珍しく会議室に残った。

 自衛官時代の名残が出てしまい、少し言い過ぎたと悔やむ心。しかし、これぐらいの意気込でないと、人類を救うことはできないという責任感。

 まだ始まって間もないこの計画に、焦りと不安が立ち込める。


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