第十二節 蒼き文字の力
話の内容が少し分かりずらいかもしれませんが、後々補完していく予定です。難しいところは必死に理解せずに読んでみてください。
静まった青色に染まる部屋で、その戦いは始まった。
「戦うスペースとしては申し分がないほどに、明るくて広いな。それにアイツの速度もそう大したことはなさそうだし。だったら、ちょうど今みたいな間合いを維持しながら戦えば……」
と、国枝が戦うための情報を整理していると、そんなこととはお構いなしに巨体のゴーレムは攻めてきた。しかし、その予想通りの体格に合った速度から、国枝は落ち着いて間合いを維持する。
「てか、何で俺こんなに戦いなれてんだ? おっと。まあいいか、とっとと終わらせてやるぜ」
目の色を変えた国枝は、右手を天につき刺した。そしてそのさらに上には、直径一メートルほどで紫色の丸い魔法陣が描かれた。
「なるほどね。こうやって能力を発生できるっていうことか。つまりはこの部屋にある文字の力の有効範囲内であれば、こうやって力の影響を受ける」
彼は自分の力の発生する方法をなんとなくだが理解することができた。彼自身も意識して能力を発動するのは初めてのことでもあったし、能力とスライドエネルギーとの関係を完全に理解しているわけでもない。むしろ理解するのは苦手な方と言ってもいいかもしれない。
そんなこともあってか、彼の心は期待と不安から高揚する。そして簡単な剣をイメージしてみる。
すると、描かれた魔法陣の中心からは長さ一メートルを越えるか超えないかぐらいの細い剣が現れた。
「うーん。想像してたのより小っちゃいなぁ。でもないよりはましかな」
国枝はその細い剣をつかみとると、一定の距離をとっていた間合いを突然とつめた。それでもやはり、ゴーレムは何ら反応することなく、変わらぬ表情で国枝を排除するように襲いかかる。
高い金属音が響き渡った。
「って、こいつ思った以上に力あるんですけど……。っていうか、この体格でこの力だったら妥当なのか?」
ゴーレムの右手と国枝の両腕で必死につかんだ剣の間には、激しい花火のように赤い火花を散らす。しかし体勢は圧倒的に国枝にとって不利な状況であった。
「クソッ。これじゃあ完全に相手のペースじゃねぇか! 何か方法はないのか? せめて、こいつの動きを止められる方法は……!?」
国枝はふと気が付いたように目を開ききり、とっさに体を横回転させながらゴーレムの攻撃を回避した。ゴーレムは国枝のいた床に右手を激突させ、その衝撃で粉塵が舞った。
次にゴーレムが国枝の方向を見た時、彼は青く輝く文字の前に駆け寄っていた。
「あいつを止める方法なら、この部屋にあるじゃんじゃんかよ」
国枝は部屋中に書かれた青い文字を見ながらそう言った。しかし国枝が動きを止められる方法を思いついたことにより、ゴーレムは今までが嘘のような俊敏な動きで国枝に迫りくる。
反応の遅れた国枝はゴーレムの右手の強豪なパンチを受け、少し離れた壁にまで吹き飛ばされた。
「ぅ……グハッ」
国枝は壁に手をつきながらゆっくりと立ち上がると、唇からあごに掛ける紅い血流をふき取る。
「……この青い文字を弄られるのがそんなに嫌なのか。ならお望みどおりに」
そういうと、国枝は青い文字に手を触れた。と同時に、ゴーレムはもがき始めた。
壁に書かれた青い文字は、国枝の手が触れる部分からその輝きを失い、それは部屋全体にまで侵食していくように拡がっていく。そして暗闇につつまれた。
「これはたまげた。やっぱりこの文字を書き換えれば力は失われるのか。で、その文字の力で動いていたコイツは動かなくなるってわけか。っていうことは、俺が出したあの魔法陣みたいのも出てこないっていうことか」
国枝は自分の右手を暗闇の中で見つめると、それを天に向けた。しかし驚いたことにその魔方陣は再び現れた。そしてそこからは国枝の想像していない人影、いや人の形をした光が現れた。
「へ? なんでまだ魔法陣が使えるわけ? しかも俺はオマエを想像した覚えはないのですが」
そう言いながら、国枝は魔法陣から現れた人影を、やや混乱しながら覗き込んだ。
自称・神、または妖精と言い張った謎の導き手、ラムは少しあたりを見回すと、今の状況をとっさに理解した。
「そう。あなたは私をこの世界に呼び出してしまったのね。とんだ迷惑だわ」
「ど、どうしてお前がここに現れるんだ?」
「それは今言ったはず、あなたが呼び出したと」
「いや待て。俺は魔法陣が出てくるとは予想していなかったから何も想像していなかったんだぜ。それなのに魔法陣が出て、突然オマエが現れたんだ。こっちのほうが混乱してるんですが」
国枝は光の集合体のような姿をするラムに必死に抗議する。その光の群れのおかげで、部屋の中に明かりを灯すことができている。
「そう。ではこの世界と私の世界の間に発生したバグね」
「バグ? どこがだ?」
「その魔方陣というのは具現を実体化する能力。それはこの部屋のエネルギーの力で動いてるわけではなく、あなたのもともとの能力。つまり、いくら文字の力の有効範囲だからと言って、誰でも魔法陣を出せるわけではないということ」
「いや全然意味が分からないんだが」
混乱する国枝に対し、ラムは補足の言葉を付け加える様子は見られない。
「さて、私がここに来てしまったということは、あちらの世界では少なからず近い間に混乱が発生するということ。早くこの問題を解決しなければ」
「まてまて。いいか、混乱してるのはオマエの世界かもしれないが、俺も結構混乱してるんだ。もう少しわかりやすく話せ」
「分かりました。では簡単に説明します。こっちの世界が滅びます」
「……ん? いや、滅びるのは分かった。だから確か地球から逃げるんだろ?」
「違います。それは地球自身が勝手に滅びる事であって、それ以前に、私の世界の混乱の渦がこの世界にまで及ぼし、そしてこの世界が滅ぶということです」
「……なんか、予想以上にカオスなんだが」
「どうせあなたは何も理解していないのでしょう。しかし、わたしはあなたの導き手。そのチッポケな頭を正解に導くのが私の務めですから、ご安心ください」
「オマエ……。初めて会ったときより俺に対してきつくないか?」
「それはそうと、お連れの方がお見えですが、果たしてこの状況どう説明しましょうか?」
と、ラムの指さす方には、先に逃げて行った綾が戸惑う目をしながら様子を伺っていた。
「あれ? 先に逃げたんじゃなかったのか?」
「え、えぇっと。まあそうなんだけど、ちょっと静かになったからね。音が……」
綾は取り敢えず国枝の質問に恐る恐る返答する。
「はぁ。何かいろいろありすぎて疲れた。取り敢えず俺はこの辺で休んどくから、綾はその暗号でも解いてくれよ」
「でも結構暗いんだけど」
「それならこの光ってるモノを使えばいいじゃねえか。俺の周りに居られても……寝ずれぇし」
「一つ言い忘れたけど、私の姿はあなたしか見えない。この光もお連れの方には見えないです。勿論声も」
そんな事とはお構いなしに、国枝は深い眠りについた。一人残された綾は、そこにいる中で一番混乱していた。
【次回予告】
C9「あっ、副大臣!」
C16「不可能といったのはこういう理由ですか」
C22「で、私にどうしろと?」
C10「この件についてお聞かせ願いますか?」
C26「……それでも納得ができないのであれば、この計画から降りていただきます」
『第十三節 悔やむ心と責任感』