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A.S 新天地を目指して  作者: 飛守 ツヨシ
第一章 過去からの贈り物
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第八節 陰で動くモノ

「う、うぅ……」

 地上との温度差が全然違う地下洞窟の中。風は無く、冷気が立ち込めるそこで綾が目を開ける。

 何時間ほど気を失っていたのだろうか? 目を開けた先には地上から落ちてきた縦に長い穴がみえ、そこから太陽の日差しが彼女の顔をめがけて一直線に注ぎ込む。彼女の顔はその光で輝いている。

 落ちた時はちょうど日の出の時間だったので、六時間ほど経過しているだろうか? 綾はその間ずっと仰向けの状態で気絶していた。

「何でこうなったんだっけ? あ、そうだ。涼が地割れに足を踏み落として、一緒に落下してきたんだ」

 綾は体を起こし、落下してきた縦穴を覗き込みながら思い出す。縦穴の長さは十メートルほどか、それよりも深い。

「それにしても寒いよ……。調査の時はそれなりの防寒具ぐらい着てたんだけど、今は白衣だし……。それにここはレイサス文明の遺跡の一部かな?」

 そういって視線を周りに向ける。しかしそこは暗闇が広がっていて何も様子を伺えない。落ちてきた竪穴だけから光が注ぎ込んできている。

 そして自分の体の上にブレザーが掛けられているのに気付く。国枝が身につけていた服だ。

「あれ? 涼は?」

 ここでようやく国枝の姿が見当たらないことに気づいた綾は、とっさに今後のことを自分と相談する。

「この暗闇の中どこに行ったんだろう? ここにずっといろって事なのかな? まあここだと太陽の日差しが注ぎ込んでいるから暖かいし……。で、でも調査団の私が行かないと涼にとったら意味ないし……。ていうか涼だけが先に進む意味ないじゃん!」

 一人でぶつぶつと悩んでいると、真上から注ぎ込んでいた太陽はあっという間に傾き始め、洞窟内に注ぎ込んでいた明かりが弱まっていく。それと同じくして急激に温度も低下していく。それらを踏まえたうえで綾は国枝の後を追っていくことを決断し、体の上に被せてあったブレザーを肩に軽く掛けなおす。

「で、涼ったらどこに行ったんだろ?」

 綾は万一のためにウエストバックからメモ帳をとり出し、そのうちの一枚に伝言を書きとめると、それを勢いよく破って気絶していた場所に置いておく。

「これで涼がここに戻ってきたときは何とかなりそうだね」

 不安が少し和らいだところで、早速装備していた予備の懐中電灯に小さな明かりを灯す。そして何本にも広がるように伸びている洞窟の通路のうち、一番大きく分かりやすい通路を突き進んでいく。


 ――その通路の先からは何やら怪しげな音が鳴り響く――




 そのころワシントンD.C.にある宿場の寝室に、大きなノックの音が響き渡る。

「三浦副大臣。起きてください!」

 どうやら日本人のようだ。声は女性だろうか、とても綺麗な声質をしている。しかし深夜だという時間からしてどうやら急用のようだ。

「山本か? まて、今いく……」

 三浦も慣れたようにベッドから起き上がり、そして明かりを灯すと扉のある方に向かっていく。

「た、大変です。方舟計画のプロセスが次の段階に進みました。とにかく研究室まで……」

「ああ分かった。でもちょっと待って、後ですぐに向かうから」

「では僕は先に研究室に向かいたいと思います」

 声の持ち主は男性の研究員であった。何とも清々しい顔つきをし、白衣を見事に着こなしているその姿は、女性と間違えてもしょうがないほどの美男である。

 三浦はとっさに部屋に戻り、赤ちゃん用のベッドで寝ついている生後一歳半ほどになる赤ちゃんを一目見ると、その小さな足で蹴り飛ばした小さな掛け布団をそっと掛けなおし、急いで部屋の外へ飛び出す。そしてこの宿場の地下にある研究室へと向かう。


「で? 次のプロセスとは?」

 三浦は研究室に入ると、早速部屋の正面の壁にある複数のモニターを真剣なまなざしで覗く。この研究室は少年の憧れそうな秘密基地みたいな部屋だ。

「はい。順を追って説明すると、今まで電子機器の使用が不可能になったりしたのは、地磁気喪失の影響で太陽風から地球を守っていた磁気圏と呼ばれるバリヤーのような存在が無くなったために、精密機械など様々な電子機器が故障したりしたことが原因です。つまり地磁気が消滅することにより、世界的な“磁気嵐”が発生してしまったのです」

 例の美男の研究員が答える。モニターにはその解説が3DCGで描かれている。

「普通は太陽が活発化した時に発生するんだろ?」

「そのとおりです。通常なら太陽が活発な時期にフレアに伴ってプラズマの塊が放出され、地球の地磁気と衝突し、強ければ地上にまで到達して大きな損害を与えるというものです。しかし、一年半前の地磁気の消滅によって、それとは逆に“地球側が磁気嵐を受け入れている”という状況になったのです。だから現在は電子機器をはじめとす――」

「それで? 次のプロセスっていうのは?」

 三浦が急かすように、ややきついぐらいの大きさで声を張り上げる。磁気嵐やら何やらは三浦にとって何度も説明を受けた事なので今更説明など不要であった。

「あ、はい。それで電子機器などが使用できないのは先に述べましたが、実は先ほどオーストラリアの中央部、レイサス文明の遺跡付近から正体不明の微弱な電子信号を確認いたしました!」

「何?」

 これには三浦も顔の色を変える。人類が使っていたエネルギーは一般では通信は使用不可能になっているからだ。

 例外があるとすれば、ここのように世界を代表する研究所では、小さな模擬地球をつかって疑似の地磁気を作り上げている。それにより磁気嵐からの影響を護っているところなどである。

 しかし現在レイサス文明の遺跡付近には研究所は愚か、研究員の生存すら確認されていない。そもそも研究員の信号ならこちらで内容を確認できるはず。内容もなくただ発信される信号、まるで救難信号のようにその存在を発信したような形である。

「となると、綾が?」

 三浦は左手をあごに持ってきて、考え込むようにモニターを睨みつける。そこにはオーストラリアの中央部に赤い点で目印が付けられている。

 しかし三浦には疑問がある。いくら自分の妹だからと言って、電子信号を発信できるはずがない。

「綾じゃなければ、恐らくはレイサス人の使っていたエネルギーが見つかったのだろう」

「はい。ですので、予定より早いですが方舟計画の次のプロセスに進む準備が必要だろうと……」

 研究員はモニターから目を離し、三浦の方を向く。三浦も断定でないとはいえ、未知のエネルギーが見つかったと思われることは大変うれしいのだが、なにか腑に落ちないところがある。

「……よし! まず本調査団オーストラリア支部の生存者はどれぐらい確認できている?」

 三浦が決心して研究室にいる別の研究員に訊ねる。

「現在100人以上の生存を確認しております。アリススプリングスで待機しているので、遅くても明日までには遺跡付近に到着できるだろうと……」

「わかった。こちらも各国に連絡して応援を要請する! それから、信号の発信地をもっと詳しく調べられないのか?」

「はい。それに関しては何度も試したのですが、もう一度発信されればちゃんと特定できる……そういったところです」

 再び美男な研究員が答える。

「なるほど、そこは人員を使って手当たり次第に遺跡を探していくしかないな」


 ふと三浦が研究室内にある振り子時計を見ると、針は午前二時を回ろうとしている。


 ――いったい誰が信号を放ったのか――


   【次回予告】

 C16「導き手?」

       C21「これはおよそ一万四千年前からの決定事項」

      C1「ここは?」

 C9「そしてあなたは選ばれし者」

 C7「私は人ではありません」

           C13「……最後に、あなたは他のヒトとは比べ物にならない能力を身につけている」



   『第九節 彼方の時空』

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