俺と幼馴染の距離
「やっぱ黒川さんとお前付き合ってんの?」
高校の昼休み。周りが仲の良いグループで机を囲み談笑する中、俺は口に含んでいた飲み物を吹き出しそうになる。急に友人、田中大地が変な事を言って来たからだ。
「うわっ汚ねぇ…」
「お前が急に変な事言うからだろ!?」
「いやいや、別に変じゃねぇだろ。どうなんだよ?」
「別に、付き合ってねぇよ」
「へー。美人で明るくて面倒見良くて、オマケにあのスタイル。知らないかもしれないけど黒川さんめちゃくちゃモテてるんだぞ?」
「…(知ってるっての)」
牛乳をストローで吸いながら、チラッと愛の方を見る。黒川愛俺の幼馴染で、家も隣同士。高校に入る前までは、毎日の様に俺の家に来ていた。でも、最近は時間が合わないから疎遠になっていっている。…むしろ、今は少し距離を作りたかった。日に日に女の子らしくなっていく愛に、俺は意識する様になっていた。
昔から、よく告白されているのは知っていたが、俺自身その時は何とも思わなかった。まだそういうのに疎かったし。だけど…最近、アイツが他の男に告白されるのは良い気分じゃない。もしかして俺、アイツの事好きなのか?
「モタモタしてると他のヤツにとられるぞ〜」
「…うっせ」
「あーあ。俺に彼女居なかったら黒川さん口説いてんのにな〜」
「へ〜大ちゃん愛ちゃんの事好きだったんだ〜」
「ッ!み、美耶…」
「この浮気者!私という彼女が居ながら他の女の子をそういう目で見るなんて!」
「違うって!俺は和人にだな…!」
「はいはい。どうせ私は邪魔者ですよー」
橘美耶大地の彼女で、愛と仲が良い女の子の1人。
「相変わらずラブラブだねお二人さん♪」
「あ、愛ちゃん!こっちこっち〜」
愛がこっちに来る。昼休みはこの4人でいつも過ごしている。大地が変な事言うから、俺は愛の顔を見れないでいた。
「何の話してたのー?」
「聞いてよ!大ちゃんが…」
「わーわー。言うなバカ!」
「バカって何よ!」
「デリカシー無いからバカって言ってんだよ!ほら、良い子だから」
大地と美耶ちゃんのラブラブが始まる。人目も気にせずにこの2人、ほんと、よくやるよ。
「2人とも、忘れてるかもしれないけどここ学校だからね」
「「はい…わきまえます」」
「…」
「どうしたのカズ君?私の顔に何かついてる?」
「あ、いや…何でもねぇよ」
「えー気になるじゃん!教えてよ」
「いつかな」
「今知りたいの!どうしたの?」
「愛ちゃんこそ、イチャイチャしてるじゃん」
「えっ…!し、してないよ!」
「いーえ!してました!ね、大ちゃん」
「ああ。いつもの光景かって感じで見てたけど」
「私、いつもあんな感じなの!?」
「「うん」」
「ひどいよ〜カズ君、2人がいじめてくる」
「あんまり愛をイジるなよバカップル」
「バカップル…それは褒め言葉だぜ和人」
気がつくと、最近は愛を目で追ってる気がする。良く目が合ってその度に反応してくる愛が可愛いとか思ったり…。
大地の言葉が頭を過ぎる。モタモタしてると他のヤツにとられる…か。
放課後。
今日は時短授業で、いつもより早めに終わった。いつもなら部活に行っている愛と美耶ちゃんだが、今日は部活が無いと言う事で俺の家で集まる事になった。大地はお使いを頼まれているようで、美耶ちゃんは大地に着いて行った。残された俺と愛は先に行って待ってる事になった。
「かえろ?カズ君」
「…ああ」
久々に一緒に帰る。高校に入ってからバスケ部に入った愛とは登下校が一緒にならなかったので、なんだか久々な気分だ。
帰る途中、男子からの嫉妬の眼差しが凄かったが、愛は気付いて無い様だった。
帰り道。
「カズ君、最近私の事避けてたよね?」
「…そんな訳ないだろ?」
「嘘。目が合ってもすぐ逸らすし、全然話しかけてくれないじゃん」
「いつも誰かと一緒に居るからタイミングがないだけだよ。それに、すぐ逸らしてないだろ?」
「ホント?避けてない?」
「ああ。避けてないよ」
…否。本当は避けてる。恥ずかしい気持ちもあるが、何より愛を見ると心臓の鼓動が早くなって落ち着かない。
「…そう言えば、この前夏川さんに告白されてたよね?」
「夏川?あーバスケ部の人か」
「…付き合ってるの?」
「はあ?んな訳ないじゃん。相手の事知らないのにすぐ付き合える訳ないだろ」
「そっか」
「愛だって告白されてるだろ?」
「私もカズ君と同じだよ。良く知らない人とは付き合えない」
「へ、へぇ。そうなんだ」
なんか、俺だけ意識してるみたいでバカみたいだ。
チラッと愛の顔を見ると、何だか嬉しそうな顔をしていた。
家に着き、俺と愛は俺の部屋に向かう。両親は今日から1週間旅行に行くとの事だったので、居ない。
「あれ、叔母さん居ないんだ?」
「ああ。今日から旅行だってよ」
「カズ君1人なの?夜ご飯は?」
「適当にカップラーメンでも食べてるよ」
「1週間も身体に悪いよ!…私の家に来て食べたらいいじゃん」
「いや、流石に悪いよ」
「気にしなくていいじゃん!家も隣同士で親同士も仲良いんだから!ママに言っておくね!」
「…さんきゅ」
「うん♪」
「…にしても、大地のヤツ遅いな」
「そうだね」
そこに、俺のスマホが着信を受ける。通知されていたのは大地の名前だった。
『あ、和人?わりー。ちょっと色々あって今日行けそうにないわ!』
『はあ?何かあったのか?』
『いや、大した事ないんだけどざ。って訳で、俺と美耶は今日はパスだ!黒川さんと2人で遊んでてくれ!じゃ!』
『あ、ちょっ…』
電話が切れてしまった。
「大地と美耶ちゃん、今日来ないってさ。…どうする?」
「あーそうなんだ…私、帰った方がいい?」
「いや、居ていいよ。夜までゲームでもしてようか」
「うん!」
…久々だ。愛が俺の部屋に居る。俺の横に座り、必死にゲームをする姿。前は気にもしなかったが、良い匂いがするし距離も近い。ゲームに全然集中出来ない。
「また負けた〜カズ君強すぎだよ」
「愛が弱いだけだって」
「ひどーい。もう一回やろ!」
「ああ。いい…!?」
体制を変えようと足を組み直そうとすると、足がもつれて愛の方へ倒れ込んでしまった。
ドンッと音が鳴る。俺に押し倒される形になってしまい、愛の顔が目の前にある。
長いまつ毛でクルンとしていて、唇はふっくらとしている。制服が少し乱れていて、胸元のシャツから谷間が見える。
「ご、ごめん!大丈夫か?」
「う、うん!平気!」
慌てて起きようとしたが、愛から服の袖を掴まれて起き上がれない。
「愛?」
「…カズ君のバカ」
「いきなり罵倒!?」
「私の気持ちも知らないで」
「愛…?」
「私、こんなに心臓がバクバクしてるんだよ?」
そう言って、愛は俺の手を取り自分の胸元に手を置く。愛から伝わる心臓の鼓動。次第に熱くなる俺の体温。手を退かそうとするが、愛はギュッと俺の手を押し当てているからなかなか振り解けない。
それに、愛から漏れる吐息が俺の顔に掛かって、変な気分になってくる。
「ちょ…愛?俺も男なんだから」
「…知ってる」
顔と顔が近づく。恥ずかしそうにしている愛の唇に、引き寄せられる様だ。唇と唇が触れるか触れないかのところで、インターホンが鳴る。
音に驚き、愛から離れてしまう。
そして、逃げる様に俺は部屋を出る。
宅配が届いたみたいで、俺は深呼吸をして部屋に入る。中に入ると、愛は起き上がっていて先ほどの事が嘘の様にケロッとしていた。
俺も気にしないフリをしながら、その日はゲームをして過ごした。夜になると、愛の家に行ってご飯を食べる。そこで解散となった。
次の日。学校に行くといつもの3人が教室の角っこに集まっていた。
「おはよう」
「おはよう和人。昨日はどうなったん?ん?」
と煽る様に聞いてくる大地。俺は何も無かったと言うが、美耶ちゃんが入り込んで来る。
「…おやおや、お二人とも顔赤くない?」
「「そんな事ない!」」
「はは、息ぴったし!」
愛の方を見ると、確かに顔が赤かった。俺も、体温が上がっているのを感じる。昨日の事を思い出すと惜しかった様な良かったような…。
まだ、気持ちの整理も付いてないからあのまま流れに任せなくて良かったのかもしれないと自分に言い聞かせる。
放課後。愛と美耶ちゃんは部活に行き、大地は家の用事って事で先に帰っていた。
俺は特にやる事が無く、教室でボケーっとしていた。そして、気がつけば眠っていたようだ。
「おらー起きろ天川。帰宅時間とっくに過ぎてるぞ」
「んあ…やべ寝てた。帰ります」
「おう!気をつけて帰れよー」
時刻は18時30分を回っていて、いつの間にか爆睡していたようだ。見回りの先生に起こされ、俺は鞄を手に持ち帰る。下駄箱で靴に履き替え、外に出る。校門まで向かおうとすると、愛の姿が見えた。部活が終わったのかな?と近づいてみると、もう1人居たようだ。美耶ちゃんかな?と思ったら、男だった。何やら、話しているようだ。遠くて何を言ってるか分からない。ーその時。男が愛を抱きしめていた。胸の奥がズキっと痛む。
「離してください!!」と大きな声で叫ぶ愛。そして、俺に気がついた様だ。
俺は放心状態になり、その場を後にした。愛が何かを言っていたようだが、今の俺には聞こえなかった。
…いつからだろうか。こんなにも愛を1人の女の子として見ていたのは。子供の頃は、家が隣で親同士が仲良いから遊んでいただけだと思っていた。気も合ったし、俺自身楽しかった。だけど、中学生に上がると愛は成長していき、ハッキリと女の子なんだって意識する様になっていた。部活も始め、愛と過ごす時間も減っていた。
「はは…俺、アイツの事こんなに好きだったんだ」
今頃。自分の本心に気がつく。だけど、先ほどの出来事が頭から離れない。もしかして、あの男と付き合っていたのだろうか?そういう浮いた話をあまりしてこなかったから、分からない。
家に着く。誰も居ない中「ただいま」と言うと虚しく自分の声が響くだけだった。
今は何もしたくないし、何も考えたくない。
しばらくすると、インターホンが鳴る。出る気になれず、俺はそのまま眠ってしまった。
「…」
視線を感じる。誰か居る気配がする。だけど、家の中で安心していたのか俺は気にする事なく眠ろうとする。…声が聞こえた。愛の声だった。
「…カズ君。好き」
「…」
「起きてる?…寝てる?…私ね、カズ君が好きなの。今まで素直になれなくてごめんね。だけど、もう自分に嘘はつけない」
「…」
「…ねぇ、起きてよ」
愛の声が震えていた。俺は起きていた。突然の愛の告白に、俺は起き上がるタイミングを逃してしまっていた。だけど、泣きそうな声を聞くと居ても立っても居られなくなっていた。
「…愛」
「カズ君…」
愛を抱きしめる。震えていた身体は次第に落ち着いたのか、俺の胸元に愛の顔がある。
「俺も好きだ。好きで好きで愛の事しか最近考えれなくなっていた」
「ほんと?」
「ああ。中学の頃から多分、好きだったんだと思う。女の子と意識する様になって、愛をずっと目で追ってたし」
「…嬉しい」
「愛」
目と目が合う。お互いの吐息が掛かり、そのまま唇と唇が合わさる。初めてのキス。
「カズ君、もう一回」
「かわいすぎ」
俺達は何度も何度も、キスをしてお互いの気持ちを確かめる様に求め合っていた。
気付けば、外は暗くなっていた。暗闇で、月の明かりで照らされる愛の顔。美人で面倒見が良くて明るくて、照れると可愛い所とか、全てが愛おしい。
俺の手が愛の胸に触れると、愛はビクっとした。
「カズ君、それはまだダメー!」
勢い良く押され、俺はベッドから転げ落ちた。
「か、カズ君!?ごめん、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。…まだダメって事はもうちょっとしたら良いってこと?」
「…バカ」
お互いに笑う。久しぶりに愛とこんな笑った気がする。
「ご飯食べに行こ?」
「ああ」
次の日。
俺と愛は、手を繋ぎながら学校に行く。今日は部活が休みみたいで、俺と一緒に行きたいとの事だったのでそうすることにした。隣で歩いている愛の手を見て、無性に繋ぎたくなったから愛の手を掴む。
「嫌だったら離してもいいけど?」
「嫌じゃないよ。行こ♪」
学校に近付くにつれて、生徒達の視線が俺達に集まる。男子からの視線が突き刺さる。だが、今の俺は無敵だ。そして、昨日、愛に抱きついていた男が俺と愛の前に来る。
「黒川彼氏居たの?」
「…」
愛の手が震える。男はお構いなく、話を続ける。
「あーあ。彼氏居ないと思ったのに残念。っていうか居るなら居るって言えよな!」
強く愛に言い寄って来る男に、俺は愛を隠す様に前に出る。
「あ?彼氏がなんだよ?」
「あ?じゃねーよ。誰だか知らないけど、俺の愛に手を出してみろ。ぶっ殺すぞ」
「ッ!調子こいてんじゃねーよ!!」
周りに生徒が居るなか、殴り掛かって来る男。向かって来る拳を払い、男の肩を掴み地面に叩きつける。
「いいな?今後愛に近付いたら…命無いと思えよ?」
女子達から黄色い声が飛び交う。騒ぎを駆けつけた先生が来て、その場は収まる事になった。
教室に着くと、大地と美耶ちゃんが駆け寄って来る。
「大丈夫だったか?」
「愛ちゃん大丈夫?」
「「大丈夫」」
「いやーそれにしても見事な投げだったよな」
「見てたのかよ!助けに来いよ!」
「いやいや。必要ないだろ。和人に勝てる男はそうは居ないって」
「うんうん。悪漢から身を挺して守る…男として最高だよね。ね、愛ちゃん?」
「…うん。カッコよかった」
「…そ、そうか?」
「おーい。自分達の世界に入るな〜。その様子だとようやく付き合いだしたって所かな?」
「…ああ。おかげさまでな」
「おめでとう愛ちゃん♪」
「俺に何か奢ってもバチは当たらんぞ?ん?」
「そうだな。大地と美耶ちゃんには感謝してる。ありがとう」
「お、おう。素直に言われると照れるな。…和人、自分に自信を持てる様になったからか、良い感じに変わってるよ」
「そうだね、元々カッコよかったけどますますイケメンって感じ!あーあ、私も今の和人君と付き合いたいな〜」
「…ダメ!私の彼氏だから」
「ッッッ!愛ちゃん可愛すぎ〜」
「もう、やめてよ美耶ちゃん〜」
「俺らの事バカップルって呼べなくなりそうだな?」
「…そうかも」
愛と目が合う。自然と笑みが出てくる。
これからも、色々起こるかもしれない。このまま結婚するかもしれないし別れるかもしれないし、それはまだ分からないけど、今ハッキリ分かる事がある。過ごした時間は消えないし、思い出はこれから作っていける。日々を大切に、ゆっくり歩いていけばいい。俺達のペースで。




