アルメの悲劇
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数年前。まだ国王がアンジュだった時代。アンジュは国民全員が豊かな国を理想とし、それを実現する為に国造りに力を入れてきた。だがそんな中、彼の頭を悩ませる出来事が起こった。それは貴族や城下町に住む民などの主に裕福な家庭から金品が盗まれる、いわゆる窃盗事件である。兵士達が事件についての聞き込みをしていると、犯人らしき人影を目撃したという住民に会った。兵士達はその目撃情報を基に似顔絵を作成し、王国中を走り回る。その間も窃盗事件は続いた。事件発生から数週間後、兵士達はある村で似顔絵に似た人物を捕える。窃盗を繰り返していた犯人と思われる人物、それはアルメ村の村長ドミニクだった。兵士達がドミニクを問い詰めると、彼は犯行を認め、全てを正直に話してくれた。
アルメ村は、王国の他の村々に比べ貧しい村だった。金銭的に余裕がなく、ご飯が食べれない日が何日も続くというのはざらにあったという。このままでは死んでしまうと考えたドミニクは、城下町に足を運んだ。そこには豪邸が建ち並び、人々が来ている洋服も豪華な物だった。自分が来ているボロボロな服とは大違い。街行く人々がボロボロな自分を見て笑っている気がした。そこでドミニクは思う。
僕達がこんなにも苦しい思いをしているのに、どうしてここに住んでる人達は笑っているんだ? どうしてこんなにも差が生まれるんだ?
そんなことを思っていると、沸々と怒りが湧いてきた。
王様はこの現状を何とも思わないのか? 王様は何をしているんだ?
それは国王アンジュに対する怒りだった。そして、彼はある決断をする。
夜の城下町。皆はもう寝ているのか広場には誰もいなく、ドミニクだけが立っていた。点いている灯りは街灯だけで、建物の灯りは消えている。ドミニクは一つの建物に目を付け、窓ガラスを割った。中には豪華な品がたくさん置いてあった。冷蔵庫の中にも今まで見たことのない高級そうな食べ物が。ドミニクは持ってきた袋がいっぱいになるまで食べ物などを詰め込むと、入ってきた窓ガラスから外に出て、アルメ村へと帰っていった。
翌日、アルメ村。この日は朝からドミニクが村人達の家を周り、昨日盗んできた金品や食料を配っていた。
「村長、こんなに高価な物貰っちゃっていいの?」
「いいよ。いつも皆には不憫な思いをさせてるから」
「村長さん、あたし達にはこういうの不釣り合いだよ。もっと大人な人にあげてよ」
「不釣り合いとか難しい言葉どこで覚えたんだ? それに、子供がそんな気を遣わなくていいよ。君達は早くに親を亡くして大変なんだから。僕達も余裕がなくて助けてあげられなくてごめん。これを売ってせめてもの生活の足しにして」
「うん。ありがとう、村長さん」
ドミニクは笑顔の村人達を見る度に思った。
皆の笑顔を見るのはいつぶりだろう。やっぱ皆は笑っている顔の方が似合うや。
皆を見ていると自分も幸せな気持ちになる。ドミニクはこの時、もっと皆の笑顔が見たい、と思うと同時にもっとたくさんの品を盗まなければとも思うようになった。
それが今回の窃盗事件の経緯だった。
「なるほどな。事情は分かった。あとはアンジュ様にも話を聞いてもらおう」
兵士達がドミニクを城へ連行しようとした時だった。一人の子供に声をかけられた。
「ねえ、村長さんをどこに連れて行くの?」
「オーラル城だよ。彼は盗みを働いた悪い人だからね。それなりの処罰を受けてもらうよ」
「ちょっと待ってください」
子供に次いで、村人達がぞろぞろと集まってきた。
「お前達も何か言いたいことがあるのか?」
「村長は貧乏で碌にご飯を食べれてないわたし達の為に自らの手を汚してくれたんです」
「彼から聞いた。いくら村人の為でも盗みは犯罪だ。アンジュ様に裁いてもらわないと」
「元はと言えばアンジュ様が悪いんじゃないですか? アンジュ様が王国中に目を向けていればこんな貧富の差が生まれることはなかった。王家の方達は何をしているんですか?」
一人の村人の言葉にカッとなった兵士は、槍をその村人に向ける。
「貴様、アンジュ様を愚弄するか。二度とデカい口を叩けないようにしてやる」
兵士が村人に向かって槍を振り上げた。周りからは悲鳴が上がる。それを見ていたドミニクが
「待ってくれ」と兵士を制した。
「僕の大切な人達を傷つけるのはやめてくれ。全部僕が悪かった。どんな罰でも受け入れる。だからその槍を降ろせ」
兵士がハッと鼻で笑う。
「かっこいい村長さんだ。さ、行くぞ」
「待って村長さん。行かないで」
「泣くな。僕は必ず帰ってくるから。それまでいい子にして待ってるんだよ?」
「……うん」
ドミニクは泣いている子供の頭を撫でると、兵士達と共に村を後にした。
オーラル城、謁見の間。
縄で縛られたドミニクが跪き、玉座にはアンジュと王妃が腰をかけている。アンジュの側には二人の息子であるベレトが立っていた。普通罪人を裁く際には子供は同席させないが、アンジュはいずれ国王になるベレトの為に明るい部分も暗い部分も全て見せようという教育方針をとり、ベレトが幼い頃から同席させていた。果たしてその教育がベレトに良い影響を与えるのか、悪い影響を与えるのか。
「……村人の為に窃盗を繰り返していたということだな?」
「はい」
アンジュに問われ、ドミニクは短く返事をした。次いでアンジュが口を開くと、彼から出てきたのは意外な言葉だった。
「申し訳なかった」
彼から出てきたのは謝罪の言葉だった。聞き間違いかと思ったが、
「わたしのせいで君に犯罪に手を染めさせることになってしまった。本当に申し訳ない」と再度謝られたので、聞き間違いではないようだ。
「わたしは君を許そう。そして、アルメ村には今までの分も含めて物資を送り続けよう。だから、もう窃盗はしないと約束してくれるね?」
「勿論です。どんな罰も受け入れる覚悟だったのに、許してくれた上に施しまで。嬉しい限りです。本当にありがとうございます」
アンジュの指示で、兵士はドミニクを縛っていた縄を解く。自由になったドミニクは叩頭するとアルメ村に帰っていった。その足取りはどこか軽快だったという。誰もが平和的に解決したと思う中、ただ一人だけつまらないと感じていた少年がいた。
アルメ村。
城から戻ってきたドミニクを村人総出で出迎えていた。
「おかえりなさい」
「結構早かったな。……で? やっぱり処罰とかあるのか?」
「皆で考えたんだけど、処罰はわたし達も受けようと思って。だって村長はわたし達の為にやってくれたことだから。村長だけ痛い目に遭ってわたし達だけ助かるなんてことできない」
「皆ありがとう。でも心配はいらないよ。アンジュ様はお優しい。事情を話したら僕を許してくれた。それどころか、僕達に施しまで与えてくれるって」
「それはそれは。アンジュ様は心が広いな」
「アンジュ様の時代に生まれて良かった」
村人達は笑い合い、釈放されたドミニクに対して、そしてドミニクへの日頃の感謝を込めて、その日は一日中パーティーを楽しんでいた。
オーラル城、謁見の間。
ドミニクを釈放した後、部屋にはアンジュとベレトだけが残っていた。
「父上、何故犯罪者に施しを?」
「犯罪者といえど、大切な国民だ。貧しいから犯罪に手を染めたという理由も理解できる。同じ国なのに大きすぎる貧富の差を作ってしまった自分が情けない」
「では、あの者を許すのですか?」
「ああ。悪いのは彼ではない。このような社会を作ってしまったわたしが悪いのだ」
アンジュは自分を卑下しながら部屋を出ていく。ベレトはその小さな背中を見て
「父上、貴方は甘すぎます」と呟いた。
犯罪者にはそれ相応の罰を与えなくてはならない。それがベレトの考えだった。アルメ村に赴きドミニクに処罰を下したいが、そんな権限は王子にはない。ならば手っ取り早く俺が国王になればいいじゃないか。ベレトは城の地下へと向かった。
地下は薄暗かった。本当に同じ建物なのかと思うぐらいの差があった。地下は両脇に地下牢が並んでおり、奥に何かしらの部屋がある。ベレトはランプに灯りを灯すと、通路を真っ直ぐ進んでいった。部屋にたどり着くと、いつから掃除されてないのか、中は埃だらけだった。
「長年使われていない感じ。掃除をしたいけど、時間が惜しい。まずは必要な道具を揃えないと」
ベレトは城下町でビーカーや薬の材料など、必要な道具を買い揃えていった。そして道具の準備が整うと、毒薬作りに取り掛かる。レシピなんて物はないが、ベレトは以前にも作ったことがあるかのように試作を進めていく。やがてそれっぽい物が完成すると、試せるものがないか辺りをキョロキョロとし始めた。
「いいものがあった」
ベレトはそこら辺を走っていた鼠を捕まえて、完成した毒薬を飲ませてみる。飲ませた後は鼠を地面に降ろし、しばらく様子を観察してみた。すると、先程まで元気に走り回っていた鼠が、毒薬を飲んだ後は足取りがおぼつかないらしく、フラフラとしていた。更に観察していると、鼠は地面に完全に倒れ動かなくなってしまった。
「よし。完成だ。これを父上に飲ませれば」
ベレトは地下から戻ると、一人のメイドに声をかけられた。
「ベレト様、どこにおられたのですか?」
「ちょっとね。そうだ、これから父上への食後の薬は僕が飲ませるから」
「かしこまりました。アンジュ様もベレト様に看病された方が喜ばれると思います」
「うん、ありがとう」
アンジュの自室。
食事を終えたアンジュは自室に戻ると、ベッドに横になっていた。先程から咳が止まらないようで、ずっと苦しそうにしている。普段の執務では民に心配をかけないよう平気そうな様子を見せているが、アンジュの体は限界だった。故に毎日の薬は欠かせない。
「父上、大丈夫ですか?」
「ああ、ベレトか。どうしたんだ?」
「薬を持ってきました。今日から僕が父上に薬を飲ませるとメイドに頼んだんです」
「そうか、ありがとう」
アンジュはベレトの元に行こうとしたが、よろけてしまう。ベレトは咄嗟に手を差し出した。
「すまないな。普段は我慢しているが、そろそろガタが来たようだな。お前には国王の執務を色々見せてきた。もうわたしの代わりができるんじゃないか?」
「そんな。僕なんてまだまだです。父上の仕事をもっと見て勉強します」
「ベレトは熱心だな。将来が楽しみだ」
「ははは。さ、薬飲みますよ」
アンジュは息子に薬を飲ませてもらうというこの状況をとても微笑ましく思っていた。そんなアンジュとは裏腹に、当の息子はこの時間を楽しんではいなかった。早く毒薬が効いてくれないか、そんなことを考えていた。
ベレトがアンジュに薬を飲ませ始めてから数日が経った。あれからアンジュの体は徐々に衰弱していっている。あともう少しだ、とベレトの勘がそういっていた。
更に数年後。とうとうアンジュは帰らぬ人となった。アンジュ崩御。この事実は全国民に大きな衝撃を与えた。だが、皆が悲しみに包まれる中、反対に喜んでいる青年がいた。
「見ていてください父上、俺がこの国をよりよいものにしていきます」
アルメ村。
ベレトはあの男を罰する為に、アルメ村を訪れた。この村には一度、アンジュと共に訪れたことがある。それは数年前、ドミニクへの処罰を決めた後のことだった。その時はまだ村全体が荒れ果てていたが、王国より施しを受けるようになった今は、見違えるほどに変わっていた。ボロボロだった家々は綺麗に建て直され、色とりどりの花が植えられ、村を綺麗に飾っていた。村人達の服装も少し良い素材の物を着ていた。
しばらく歩いていると、遠くからベレトを呼ぶ声が聞こえた。ドミニクだった。
「ベレト様、お久しぶりです。まさか再びこの村に足を運んでいただけるなんて。今日はどんなご用ですか?」
「ドミニク、今日は君に話があって来たんだ。取り押さえろ」
ベレトは護衛としてつけていた兵士に命ずると、ドミニクの腕を拘束し、地面に押さえつけた。
「ちょっと。何するんですか?」
「何って、お前への処罰だよ。犯罪者が何の罪にも問われないのはあってはならない。それを許してしまうと、被害に遭った方達に失礼だからね。その為にも、犯罪者にはきっちりと罰を与えなくてはいけないんだ。でも、俺もそこまで酷い人間じゃない。ちょっとした罰を与えるだけだ。心配するな、ちょっと熱いだけだよ」
そういうと、ベレトは手に持っていた棒をドミニクの顔に近づける。
「お前達もしっかりと見ていろ。罪を犯すとどうなるか。村長さんが身を持って教えてくれる」
「あああああ。熱い……! 顔が焼け落ちる! もうやめてくれ。もう窃盗なんてしないと誓う! だからお願いだ!」
ベレトは棒の先端を熱すると、それをドミニクの顔に押し当てる。これは古の時代、まだ奴隷制度のあった王国で使われていた奴隷の顔に焼印をつける為の道具である。『服従の焼印』と呼ばれ、これを付けられた者は主に反抗することはできない。ちなみに、焼印を付ける為の棒は各貴族に一つあり、どの家の奴隷なのか分かるようにそれぞれの家紋や紋章が刻印されている。
ドミニクの断末魔が村中に響き、次第に彼の美しい顔は爛れていった。村人達が目を背けたりベレトに対し怒りを向ける一方で、ベレトはただ一人笑っていたという。
*
現在。ルーンの占いで娘が生きていることを知ったベレトは、再びアルメ村を訪れていた。ドミニクの家で、二人は向かい合うように座っている。
「服従の焼印がよく似合っているな。より男前になったと思う」
「揶揄うのはやめてください。それで、今日はどういう用件ですか?」
「君に頼みたいことがあってね。まずはこれを見てくれ」と、ベレトはドミニクに一枚の写真を見せる。そこには美しい紫色の髪の女が写っていた。
「綺麗な女性ですね。どなたですか?」
「俺の娘だ」
「娘? ベレト様のお子様はシャルム様だけのはずじゃ?」
「王族にも色々あるんだ。野暮なこと聞くなよ」
「はぁ、すみません。それで、この女性をどうするんですか?」
「分からないか? この娘を殺してほしい。それが君への頼みだ」
「……っ!」
ドミニクは言葉を失った。それと同時に、ベレトに対する恐怖心を覚えた。人を殺してほしいなど、本来ならそんなこと思い付かないだろう。ましてやそれが実の娘なら尚更だ。本当にこいつは悪魔のような男だと、そう思った。
「……この女性がベレト様に何か危害を加えたんですか?」
「いや、何も? ただ、この娘は生きる価値のない人間だ。生きているだけで人を不幸にする」
「生きる価値のない人なんていませんよ。それに、何もしていないのに殺されるなんて可哀想だ」
「可哀想? お前が盗みに入った家の人間も、何もしてないのに大切な物を盗まれて可哀想だと思わないのか?」
「それは……」
ドミニクは言葉に詰まった。
「犯罪者が綺麗事を語るな。奴隷が口答えするな。犯罪者のお前なら殺人など容易いだろう?」
机の上には短剣が置かれていた。ベレトが置いていったものだ。ドミニクはその短剣を手に取ると、まじまじと見つめながらぼうっと考えていた。
人を殺したくはない。だがこの焼印がある限り、ベレトの命令に背くことはできない。僕はすでに犯罪に手を染めた。今更怖いことがあるものか。
そう自分に言い聞かせ、ドミニクはエルディア城へと向かった。
エルディア帝国、帝都ロージア。エルディア城。
夜。門前に見張りの兵士が誰も立っていなかったばかりか、城の中は妙に静かだった。それに暗い。ランプを持っていないと進めないような暗さだった。ドミニクはオーラル城にあの時連行された一回しか入ったことはないが、城というものは数人の兵士が常に徘徊しているものだと思っていた。あの時がそうだったからだ。なのにエルディア城には人の姿はどこにも見当たらない。
何故見張りが一人もいないのかと不審に思いながら、ドミニクは城の最上階を目指した。というのも、よく見るファンタジーの絵本では姫の囚われている場所は城の最上階というのが多かったからだ。歩いていると、螺旋階段が見えてきた。階段を上ろうとした時、グニュッと、何かを踏んだ感触がした。
「……っ!」
ランプで足元を照らすと、ドミニクは声にならない悲鳴をあげる。それは兵士の腸だった。こんな所から退こうと後ろに下がった時、何者かにぶつかった。振り返ると、そこには女が立っていた。ドミニクは、その女に見覚えがあった。
「もしかして君、ラルーチェか?」
「え? ドミニクさん?」
「驚いたな。どうして君が帝国に? しかもお城にいるなんて」
「ドミニクさんの前で言うのも何ですが、もうアルメ村で暮らしていくことは無理だと思ったんです。でも帝国に来たところで行くあてがない。そこで城下町の店から商品を盗もうとしたところをイリス様に捕まり、お城で働くことになったという流れです」
ラルーチェはここまで説明すると、息を整えた。
「あたしからも質問いいですか? こんな時間に何のご用ですか?」
「誰からのとは言えないけど、帝国のお姫様殺害の依頼を受けたんだよ。失敗できないんだ。そこをどいてほしい」
「隠さなくても、服従の焼印のことは王国の人間なら誰でも知ってますよ。その紋章、王家の方からの依頼でしょう? ベロニカ様とどのような関係性なのか分かりませんが、ベロニカ様を守るのはイリス様から仰せつかった大切な役目。そのお願いは聞けません。それでもお帰りいただけないのなら、あたしが貴方を殺します」
ラルーチェはドミニクに剣を向けた。ドミニクも懐から短剣を取り出す。
「ドミニクさん、人殺したことないでしょ? 構え方が素人のそれですよ」
「ラルーチェ、君は人を殺したことがあるのか?」
「ええ。ここに来るまでにたくさんの兵士が死んでいたでしょう? あたしがやったの。だって、ベロニカ様の命を狙う悪い人達だから」
ラルーチェがドミニクの短剣を弾く。その衝撃で短剣を落としてしまった。
「お願いですから早く帰ってください。村の為に罪まで犯した貴方にはとても感謝しています。だから貴方を殺したくはないんです」
それを聞いたドミニクは言い返す。
「僕だって早く帰りたいよ。でも、命令は絶対なんだ。失敗して帰ると、僕が何をされるか分からない。だからそこをどいてくれ」
「いいえ、できません。ベロニカ様は帝国に、そしてあたしにとってとても大切な人。殺させる訳にはいかない」
ラルーチェは剣を振り下ろす。ドミニクはすんでのところで短剣を拾うと、ラルーチェの剣を受け止めた。そしてラルーチェの背後に周り、倒れている兵士の腰から剣を抜き取る。その勢いのままラルーチェに突っ込むと激痛が走った。下を向くと、ラルーチェの剣がドミニクの体を貫き、床には血がボタボタと垂れていた。同時にドミニクの剣もラルーチェの体を貫き、同様に床に血がボタボタと垂れる。
「……ごめんなさい、ベロニカ様。どうかあたし達の分まで生きて……」
オーラル王国、王都レプタ。オーラル城。
ベレトがドミニクにベロニカ殺害を依頼した翌日。まだ彼は成果を報告しに来ない。そんな彼に対してのイライラに、ベレトの足を揺する音が大きくなる。
「父上はどうしてあんなに怒ってるんですか?」
「さあ、分からないわ。とりあえず、今は一人にしてあげましょう。そのうち落ち着くわ」
城下町、ルーンの店。
「あらベレト様、今日はどんなご用で?」
「早速だが、こいつが今どうなってるか見てみてくれ」
そう言うと、ベレトはドミニクの写真を差し出した。
「分かりました」
ルーンは水晶に手を翳し、何かを唱える。すると、水晶は淡い光を放ち始めた。水晶の中には靄がかかり、次第にそれは晴れ人影が浮かび上がってくる。そして現れたものは……。剣で体を貫かれ、血溜まりの中に倒れるドミニクだった。その隣で同様に血溜まりの中に倒れる女の姿がある。
「この方は亡くなっているようです。場所は……、帝国のお城ですね。……ベレト様?」
ルーンはベレトの顔を覗き込む。何やらブツブツと呟いているようだ。
「ベレト様、そんな怖い顔をしてどうされたのですか?」
「ああ、すまない。君には関係ないことだよ。世話になったね。ありがとう」
ベレトはルーンに礼を言うと、店を後にした。
「あの無能め。しくじりやがって」
オーラル城。
ルーンの店から帰城したベレトは、帝国に行く為身支度を始めた。
「ベレト、どこ行くの?」
「帝国に決まってるだろ? 娘はまだ生きていた。殺さねば。そうしない限り、災いは降りかかり続ける」
「ねえ、本当にあの子を殺すの? 考え直して。わたし達の娘なのよ? どうして我が子を殺すという発想ができるの?」
イザベラはベレトの腕に縋り付くが、
「うるさい! 元はと言えばお前のせいだ! お前があの時ちゃんと殺していれば、災いが起こることはなかった。悪魔を野放しにした自分を恨め」
ベレトはイザベラを振り払う。その衝撃でイザベラは頭を打ち気を失ったが、そんなことはお構いなしに帝国に向け出発する。




