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解けた糸を、結び直す  作者: Kanon


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7/13

救うための強制、情を捨てた判断

 リコリスが話を終える。

 アネモネがゆっくり言う。


「つまり世間から見たら」


 リコリスを指差す。


「勇者を殺した魔王」


 リコリスが頷く。


「そうだ。でも実際は」

「裏切りの魔王だ」


 沈黙。

 そして。

 アネモネが頭を抱えた。


「……何それ」


 俺も言う。


「ややこしすぎない?」


 リコリスは平然と言った。


「だから言っただろう。説明が面倒だと」


 アネモネがため息をつく。


「……はぁ」


 そして小さく呟いた。


「まぁ大体わかったわ」


 リコリスを見る。


「いいわ、そのバハムートとやらを倒すまでは共闘してあげる」


 結果として仲直りしてくれたようだ。

 こうして俺たちは再び北を目指して歩みを進める。

 北へ向かう道中。

 森を抜けたところで、俺はまた指先を見る。リコリスと繋がる一本。アネモネと繋がる一本。そして、


「まだあるの?」


 アネモネが話しかける。


「ある」


 俺は肩をすくめる。


「しかも全部北」


 リコリスが静かに言う。


「残りの仲間だろう」

「……前世の仲間、ね」


 アネモネが少しだけ顔を曇らせる。

 俺は笑った。


「まあ、いいじゃん。会えるなら会おうぜ」


 だがリコリスは何も言わなかった。


 数日後、小さな町に着く。教会の鐘が鳴り、穏やかな空気が流れている。

 そして俺の指の赤い糸はまっすぐ教会に伸びていた。


「……ここか」


 アネモネが呟く。


「教会?」


 リコリスは少し考える。


「前世で教会に縁がある者は一人だ」


 俺は首をかしげる。


「誰?」


 リコリスは言う。


「聖女」

「……リナリア?」


 俺の頭の奥が少しだけ疼く。

 白いローブ。優しい声に笑顔。


「思い出せん」


 俺は頭をかいた。

 教会の中では白い修道服の女性が子供に薬を渡していた。柔らかい笑顔。穏やかな声。

 俺の指の赤い糸はその人に繋がっている。

 アネモネが小さく言う。


「……間違いない」


 リコリスも頷く。


「前世の聖女だ」


 女性は俺たちに気づき、微笑む。


「こんにちは。旅の方ですか?」


 普通の声。普通の反応。前世の記憶なんて――何もない。

 俺は少しだけ考えて言う。


「薬、もらえる?」

「はい」


 彼女は優しく答えた。


「怪我ですか?」

「いや、胃が」


 後ろの二人のせいで。

 彼女はくすっと笑う。その笑顔を見て。

 俺はふと思った。――この人。今、幸せそうだな。教会の子供たちが彼女に懐いている。町の人も信頼している。静かで、平和で、普通の生活。

 俺は振り向かずに小さく言う。


「……やっぱやめとこう」


 アネモネが眉をひそめる。


「え?」

「前世の話」


 俺は肩をすくめた。


「思い出させる必要なくね?」


 リコリスが俺を見る。


「理由は?」


 俺は言う。


「だってさ」


 教会の中を見る。


「前世を思い出した時、アネモネ泣いてたろ?俺はお前らを不幸にしたいわけじゃないんだよ」


 沈黙。

 アネモネもリコリスも何も言わない三人はそのまま町を離れた。その夜、森の野営地でアネモネがぼそっと言う。


「マキア、ほんとにいいの?」

「いいって、前世の記憶とか戻ってもあの人は辛いだけだろ」


リコリスが静かに焚き火を見ている。その時だった。空気が凍る。リコリスが立ち上がる。


「……来る」


 アネモネも魔力を展開。


「何?」


 次の瞬間。ドォォォォン!!!!森が吹き飛んだ。爆風。土煙。そして――二つの影。一人は細身の男で黒いローブを着こなし、性格と同じくらいに捻じ曲がっているツノが一つ伸びている。もう一人は全身鎧。男が笑う。


「見つけた」


 低い声。


「裏切り魔王」

「……四天王のムラクと……誰?」


 前世では二人しか会わなかったのよねぇ…とアネモネが呟く。男が拍手する。


「ご名答、私は四天王のムラク。もう一人は新参の四天王のシュラだ。グラディウスの反応が消えたのを確認してな」


 にやりと笑う。


「調べたら」


 指を指す。


「ここにいた」


 そして二人が同時に動いた。


「死ね」


 巨大な魔法が放たれる。

 アネモネがすかさず魔法を放ち、相打ちをとる。

 その隙をついたリコリスの魔法が前衛の全身鎧を襲う。

 しかし全身鎧は魔法を全てくらいながら突っ込んでくる。


「うっそだろ!?」


 全身鎧が一部だけ欠け、そこから見えたのは――骨と爆薬だった。

 使い捨ての自爆攻撃だろう。

 意識外からの攻撃に、リコリスが目を見開く。


「まずい!」


 俺は二人の前に出た。


「マキア!?」


 ドォォォォォン!!!!

 世界が白く弾けた。気づいた時、俺は地面に倒れていた。体が動かない。血の匂い。


「マキア!!」

「まずい、呼吸が浅い……!」


 俺はぼんやり思う。


(あー……反射で行動しすぎたー……)


「やっぱりだ。仲間を護るために身代わりになった。君がこのパーティの中心なのに、ね?」


 遠くでムラクが笑う。


「簡単に引っかかってくれて助かるよ。シュラには隠れてもらっているんだ。自爆はさすがに予想外だったようだね。これで終わりかな?」


 その時、リコリスが静かに言った。


「……仕方ない」


 立ち上がる。


「予定変更だ。しばらく一人で耐えろ」

「何する気!?」


 リコリスは言う。


「聖女を呼ぶ」

「は!?」

「相手にはアンデッドがいて、マキアも瀕死だ。となるとやつの力が必要だ」


 そして、魔法陣が展開され、光り出す。


「綺麗事を言う余裕はもうない」


 顔には焦りが見られた。


「緊急だ。悪いが強制的に」


 目が冷たい。


「前世を呼び起こす」


 アネモネが叫ぶ。


「待って!!」

「《記憶解放》」


 遠く。町の教会で――白い光が空へ伸び、聖女の封じられた記憶が無理やり目覚める。

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