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解けた糸を、結び直す  作者: Kanon


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『魔王リコリス』

 魔族には、角がある。

 それは単なる身体的特徴ではない。力の証であり、血の格を示す象徴だ。

 魔族の多くは一本ツノ。それは戦士としては優れていても、王の器ではない。

 だが――二本ツノの存在が一人だけいる。それが魔王だ。

 魔王は自身のツノだけではなく、歴代魔王が継承するツノをもつ。

 そして歴代魔王のツノを継承できる器のもののみ、魔王の資格を持つ。

 角はただの骨ではない。

 それは魔王の力そのものを受け継ぐ器だ。

 そして、その器となれる存在は――滅多に生まれない。

 その時代、魔王の器と呼ばれた者は二人だけだった。

 一人は私、リコリス。もう一人は――バハムート。

 バハムートは、暴力の化身だった。

 圧倒的な魔力。生まれながらにして戦場を支配する力。

 だが、その力には理性がなかった。


「壊す」

「殺す」

「支配する」


 それ以外の概念を持たない。

 もしバハムートが魔王になれば、世界はただの戦場になる。

 それは魔族にとってすら破滅だった。

 だから私は、決めた。魔王の座を奪うと。

 その日、魔王城の玉座の間には血の匂いが満ちていた。


 前代の魔王が死に、王座は空いた。次の魔王を決める戦いが始まる。


「ハハハハハ!!」


 バハムートは笑っていた。


「お前も来たのか、リコリス!!」


 巨大な体に歪んだ一本角。

 その瞳は、ただ戦いを楽しんでいた。


「来たに決まっておる」


 私は答える。


「お前を魔王にするわけにはいかんからな」

「お前はなぜ魔王の座を狙う?」


 バハムートは何気ない雑談として疑問を投げかける。

 リコリスは答える。


「お前が暴れ出すことが目に見えているからだ」

「当たり前だろう。我は強きものとの戦いを望んでいるんだ。しかし、お前は魔王になりたいわけでは無いのか?」

「当たり前だろう」


 その瞬間、空気が裂けた。バハムートの拳が城壁を砕く。

 私は避ける。魔力を収束させ、刃に変える。


「ならば邪魔をするなぁ!!」

「遅い」


 一閃。バハムートの肩から血が噴き出した。だが奴は笑う。


「いいぞォ!!」


 狂った歓喜。

 だが、それでも私は負けなかった。理性のない力は、いつか隙を生む。

 最後に立っていたのは、私だった。


「魔王の座を望んでいないのに、その座を奪うなど、許さんぞぉ……」


 その発言後、バハムートは倒れ、魔王の力は私に継承された。

 その日、私は魔王になった。世界を守るために。


 月日は流れた。

 魔族は私の支配の下で安定し、人間との戦争も最低限に抑えられていた。

 私は暴君ではない。だが、甘くもない。それが魔王という立場だった。

 そんなある日、勇者が一人で魔王城に現れた。

 勇者は強かった。

 人間とは思えないほどの剣。戦場の流れを読む目。

 だが、魔族を殺さなかった。

 それが理解できなかった。


「なぜ」


 私は聞いた。戦闘の最中だった。


「なぜ殺さぬ」

「できれば殺したく無い主義でね!おかげで王様に背く形になっちゃった!」


 簡単に言う。


「というか戦いじゃなくて話し合おう!そのためにも俺一人で来たんだ!共存、しようぜ!」


 その言葉は、軽さとは反対に妙に心に残った。

 しかし、私は国を背負っていた。

 私の一存で行動を決するなど許されない。

 戦いは魔王城の前で行われていた。

 勇者の剣が私の魔法を斬り裂く。互角だった。

 だがその瞬間――空気が歪んだ。


「うおぉぉぉ!!」


 聞き覚えのある咆哮。背後から現れたのは――バハムート。


「魔王の座を、返せぇ!!」


 奴は一直線に突っ込んでくる。

 狙いは私だ。魔王の座を奪ったことへの復讐だろう。

 仲間だと思っていたものからの奇襲に私は気づけなかった。

 その瞬間――勇者が動いた。

 剣を捨て、私の前に立つ。


「なっ――」


 バハムートの剣が、勇者の体を貫いた。

 血が噴き出す。勇者は、私を庇った。


「……なぜ」

「流石に、ノリで動きすぎた……」


 その言葉を最後に――勇者は動かなくなった。

 私は怒った。怒りで、世界が震えた。


「バハムート……なぜ邪魔をした!!」


 魔力が溢れる。城壁が崩れ、空が裂ける。


「貴様を――殺す」

「黙れぇ!!」


 だが、その瞬間。私は思い出した。勇者の言葉を。


『無駄には殺さない』


 あの男は、敵である魔族を誰一人殺さなかった。その信念を、私は知っている。……だから。


「やめだ」


 私は手を掲げた。魔法陣が広がる。


「貴様は――封印だ」


 光が爆発する。バハムートの体が鎖に縛られる。叫び声が響く。そして――沈黙。

 バハムートは、深い封印の中へ消えた。

 私は、勇者の亡骸の前に立つ。

 しばらく、何も言えなかった。そして小さく呟く。


「……馬鹿者」


 風が吹く。勇者の髪が揺れる。

 私はその背中を見下ろしながら、静かに言った。


「お主のやり方は理解できん」


 だが――


「嫌いではなかった」


 それが、私と勇者の物語の終わりだった。

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