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訓練と日常

骨折が治り、約束通りボクシングの訓練をすることになった。

放課後、彰人はボクシング部の部屋へと向かう。


「まずは体づくりからよ。見た感じ、へなちょこな体ね」

茜が腕を組んで冷ややかに言う。

「ボクシングは腕より足腰。私は練習の前に必ずスクワットジャンプをしてるの」


「……うわ、いきなりハードモードだな」


「当然でしょ。じゃあまずはスクワット百回!」


(ひゃ、百!?)


彰人がスクワットを始める。久々の運動で、足が早くも悲鳴を上げる。


「余裕そうね……じゃあ私が乗るわ」


「は? 乗る!?」


「65kgの重り、いっきまーす♡」


「おい! しれっと体重公開するな…!」


茜が本当に背中に乗った。


(おいマジかよ…こいつも綾香と同じく、男を誤解させるタイプだな)


「ほらほら〜いーち!」


「にーい!」


「さーん!」


(ごめん、無理!)


彰人がそのまま崩れ落ちる。


「へなちょこめ〜」

茜が半笑いで見下ろす。

「でもまあ、最初はそんなもんね」


(いや最初から乗るやついねぇよ!)


茜は指を鳴らした。

「どれだけ筋肉が必要か、教えてあげる。ヘイ、ライバル! ちょっと背中乗って」


「……逆じゃない? まぁいいけど」


金一が茜の背中に乗る。

茜は軽々とスクワットを十回こなしてみせた。


(そこまでの筋肉必要ねぇだろ!)


「こんくらいになりなさい。そしたら、少しは殴り合う資格ができるわ」


そして次は腕立て伏せ。茜が当然のように言う。

「パンチは足腰が命。でも、腕の力も必要。——じゃあ私が乗るね」


「えっ……また?」


「文句言わずやるの!」


茜が彰人の背中に座る。

「いーち、にーい、さーん……」


ガタン!

彰人が潰れた。


「お、おも……重い! 早く降りてくれ!」


茜はため息をつく。

「そりゃあんたがへなちょこだからでしょ。——はい、乗らないから普通にやって」


ジト目で見下ろすその顔には、

「重いんじゃない、あんたが弱いの」と書いてあるようだった。

……でも、妙に説得力がある。


やっとのことで、スクワットと腕立て伏せを終える。彰人はヘトヘトだった。


「一回休憩。はい、水」


ドカンッ!

※音は誇張しています。


(2リットル×2本!?)


「一回の練習で2リットルくらい普通に消えるわよ。今はまだ汗かいてないけど、打ち方覚えたら動きが激しくなるからね。——今のうちに休憩しときなさい。」


二十分後。


「パンチの打ち方よ。まずは基礎中の基礎、ストレート」


茜が口頭で説明した


「ストレートの基本的な打ち方は、体の回転を利用し、後ろ足で踏み込んで腰・肩を回しながら腕をまっすぐ伸ばして、パンチが当たる瞬間に拳を返して握る。体幹を意識して、脱力しつつも当てるときに力を込めることが重要。螺旋的に動くイメージをすると良いかも」


「肩を回すってどういう事なの?茜」


彰人が聞く


(あぁそこからね…)茜が心の中で呆れる


「肩を回すって肩の可動域を十分に活かすって事…分かった?」


「お…おう…螺旋的、螺旋的…体の回転…、肩を回す…体幹…」


「ブツブツ言うの気持ち悪いからやめてくれない?」


茜がジト目で遮る。


「動き硬いわ。頭で考えるからそうなるの。感覚で覚えるの。——右スト、左スト、交互に百回ずつ。終わったら休憩、次はジャブね。」


「ひ、百回ずつ!?」


「えぇ、合計二百。文句ある?」


「……ないです」


(これ、地獄だ……)


ガラッ!


「A・KI・TO・KUN!」


綾香が焦っていた…名前の呼び方が迫真すぎた。


「彰人君、彰人君、彰人君、彰人君、彰人ノ命神君」


綾香が繰り返し名前を呼ぶ


「『彰人君』は一回でいいぞ…あと変なの混ぜないで…何?その『あきとのみことしんくん』って…で、そんな焦ってどうした…」


綾香が息を整えて、伝えた


「委員長が稽古すっぽかされたって、怒ってたよ…」


「え?なんで?」


彰人が聞く


「彰人君は、あなた、約束してましたよね?…葵委員長と…放課後稽古つけてもらうって…」


綾香が問い詰めている


「したけど…あれ一ヶ月前の事だろ?もしかして…まだあの約束続いてたのか?」


彰人が驚いたように言う。


「そうみたいです。私もあの約束失効していたかと思ってまして…葵委員長は、本当に信用できますよ…あの人一回した約束最期までやろうとしますから…取り敢えず、委員長の怒りを鎮めましょう…彰人ノ命神君」


「俺は神じゃねえ!神みたいな名前で呼ぶな!」


彰人が突っ込む。


剣道場にて…


「よく来たねぇ…彰人君…約束したよねぇ?ボクが稽古をつけてやるってさ…」


葵が笑顔で、しかし怒りが感じれる笑顔でそう言った。


「茜との時間は楽しめたかい?ボクは厳しいから、休息は与えないよ?ただひたすら打ち合うよ…極限までしごいてあげる…」


(昭和の体育教師みたいだな)


「あのぉ〜私達は見学してって良いですか?」


茜がそう言う。すると、葵が出てけと言わんばかりの圧をかけた。茜達は怖気づいて出ていった。葵が無言で剣道場の扉を閉めた…ずっと笑顔だった。


「じゃぁ彰人君、しばいてあげる♡…」


パチンッという竹刀が当たる音が鳴り響いた…

2時間後、まだパチンという音がなっていた。流石に心配になった茜が見に行った。まだやっていた…彰人はほとんどヘトヘトだった…相変わらず、葵は元気だった…


「休憩は?」


彰人が聞く。

 

「まだだよ?」


葵が笑顔で言った。


「まだですか!?」


茜が2時間後くらいに来た。たぶん自主練終わったついでだろう。剣道場からまだ音が響いていた。(まさか、彰人、2時間ぶっ通しで…?これは止めないと…彰人疲れで体幹崩れてきてるじゃない!彰人はまだ、クソザコ体力なんだから!)


「先輩!休憩を上げてください!彰人はまだ、骨折治ったばかりなんですよ!水分補給もさせないと、脱水症状で倒れます!」


それを聞くと葵がこう言った


「水分補給は流石にさせてるから安心して…流石のボクもそこまで鬼畜じゃないよ…あと、骨折治りたてなんて関係ないよ。だって治ってるじゃん…」


何にも返せない。茜は悔しかった。


「でも、休憩は上げてください。無理なら私が無理矢理持ち去ります!無理矢理戻すなら抵抗します!彰人はまだそれを耐えれるほど体力は無いんです!」


葵はそれを聞くと「ふーん」と言って


「そこまで言うなら、特別に休憩良いよ…」


と言った。休憩中、彰人の隣に茜がいた。


「はい、お水…あんたがクソザコ体力だから心配したよ…」


葵(あれ?あれれれ?これってもしかして…恋愛の匂い…ボクこういうの見るの好き!)


「ちょっと茜ちゃん、来て来て♡」


「何でしょうか先輩…」


「茜ちゃんって、もしかして彰人君のこと好き?」


すると、茜が真顔で答えた


「いや。他人より好感度が良いだけ…中身男のトランスジェンダーの癖に身体的な性別と頭の性別は同じなのね。恋愛脳委員長」


「確かに、1ヶ月前はドキッとした。けどその時は、自分のせいで彰人を骨折させたようなもんだから、罪悪感で、精神弱まってて、あいつの褒め言葉のおかげで、立ち直れて気分が高ぶってただけよ…今は平常運転の茜ちゃんよ」


葵が少し悲しそうな顔をしていた。でも葵は諦めが悪かった


「本当?一回ドキッとしたんだよね?そしてなんであんなにも、正妻ムーブをするの?」


茜がまた真顔で答えた


「あいつ体力クソザコだもん。私なら2時間ぶっ通しても大丈夫だけど、あいつはたぶん無理…それで本当に心配なだけよ…くれぐれも勘違いはやめてよ」


顔を見る感じ、茜は本音だった。葵はがっかりして戻った。


「あっ言い忘れた…明日伝えようと思ったけど、今伝える。今度、この映画の撮影でしばらく委員長の座開けるんだ〜なんせアメリカだからね…ハリウッドの本場だよ〜!呼ばれちゃったぁ…」


(あっそうだ…忘れてた…いつもの大女優の面影もないこの人見てると…世界的な大アクション女優である事を忘れてしまう…)


休みが終わると訓練を茜は見学していた。


午後7時。訓練は終わった。


「おつかれぇ〜また明日ね〜」 


葵と茜と彰人が帰路につく。


「もう七時だし、食べに行こっか…」


葵が提案する。


茜「賛成〜二郎、二郎」


茜が喜ぶ


「なら行こう!ボクが奢るね」


葵がそう言うと流石に申し訳なかったので、断った


「いや…結構です…流石に平気です」


「遠慮しないでよ〜ボクの口座には月300万とか入るんだから〜」


「さ…300万?」


茜と彰人がビビる。


彰人「高校生でそんな稼いでるの…か…?」


(そうだ忘れてた…こいつ大女優だった…)


葵「月1000万とか稼いでるよ…なんか子役時代から今の時代まで何故か知んないけど、人気になっちゃって…子役で辞めるつもりが…あとに引けなくてねぇ…結果が年収一億になっちゃった…ボクは普通に暮らしたかったんだけどねぇ…運が良いのか悪いのか…恵まれた見た目と、身体能力で生まれてきちゃった…見てよこの予定表!」


葵がシフト表を見せた。撮影なり番組出演、ラジオ出演など、パンパンだった。そして次の月に3週間のアメリカ撮影。


「委員長、3週間埋まってますけどこの間誰が委員長の座につくんですか?」


彰人が聞く


「明日決める」


委員長は歩きながら、話していた。


「大女優もなかなか大変ですね…」


彰人がそう言うと、明るく返答した


「もう本当に大変…ただでさえ、性別偽るから辛いのに、この量だと身体的なストレスも溜まる!今思えば、親の反対は正しかったと思うよ〜」


その顔は、彰人でも分かる…作り笑顔と…


「ついたよ〜」 


葵が言う

店の名前は、和食島田庵と書いてあった…


「えー二郎じゃないの〜?」


茜が嘆くと


「ボクここにしか入れないから!家族と良くここに来るの!夜遅くなったときもここで食べるんだよ!他の場所に行くとチヤホヤされて、疲れるからいつもここだけ…だから!我慢して!」


葵が小声で茜の耳元に囁く


「ふ~んなら仕方ないね…でもここ美味しんだよね?」


茜が聞く


「もちの論!白米、味噌汁おかわり自由!味も美味しい!そして安い!なんとコスパの良いお店なのでしょう」


葵がニコニコして答える。答え方がまるでレビュアーだ…


ガラッ…チリン!


「おじさーん!3名!ボクはいつものね!」


(随分と馴れ馴れしいなおい…)


「アイよ!その2人はお友達かい?」


「そうだよ!」


葵と店長らしき人がまるで従兄弟と話しているように喋る。


「あらあら葵ちゃん…今日もとっても元気ねぇ…」 


「あっおばさん!もらった梅干し美味しかったよ!またくれる?」


(ちょっと待て…あまりに馴れ馴れし過ぎないか?梅干し貰うとか…)


「この店ね、うちのおじさんとおばさんがやってるんだよね〜」


従兄弟だった…


(あぁ通りで馴れ馴れしい訳だ)


彰人は心の中で思った


「朝ドラ見てるぞ〜やっぱり葵ちゃんが主演か〜演技良かったよぉ〜」


一人の常連客が、葵に話しかける


「それは良かった〜でもまだまだ改善点はいっぱいあるから、これからもっと良くするから期待してて!」


葵が親指を立てる


「あれ以上良くしなくても良いだろうよ〜!所で、その連れ2人は誰なの?」


「うちの委員会の後輩!で友達!彰人と茜って言うんだよぉ〜」

 

葵が当然のように紹介する。


「ほぇ~ここに友達つれてくるなんて、珍しいねぇ!」


「今日遅くなっちゃったから、ついでに奢ろうかなぁって!」


葵が言う


「葵ちゃん!その男の子は彼氏?そしたらBLねぇ!」


別の女性の常連客が聞く


「違う違う!そうじゃない!ボクと彰人はあくまで、委員会の付き合いで友達付き合いの範疇…どちらかと言うと、茜と彰人がくっつきそう!」


少し茜が顔を赤くして


「ちょっと委員長…変なこと言わないでよ」


そして、葵が煽り気味にからかうような笑顔で


「あっそうごめんごめん…」


と言う。


「てかさ、その女の子何処かで見たことあるんだよね…その隣の、体がしっかりしてるけど女の子らしさを失ってない子!ちょっと顔見せて!」


茜の肩をポンポン叩く。そして茜が振り向く。


「あぁっ!茜ちゃんじゃん!ボクシング中学生大会関東大会ベスト8の子!」


茜もその顔を見て思い出したようで


「あっ!関東大会の主催者の綾子さんじゃないですか!ご無沙汰してます〜」


茜がペコリと挨拶する


「なんか茜ちゃん丸くなったね!昔のあの鋭い目つき変わったね…なんかあった?もしかして…その男の子が好きとか?」


それを聞くと茜が、真顔で


「いいえ違います…ただの信用の置けるやつです。友達です!」


「なるほどねぇ…友達出来たわけか…この子、こう見えて暴力的だから、怒らせないようにね…あと調子乗らせないようにね…気をつけてよ葵ちゃん、お友だちくん…」


綾子さんが言う。


「承知の事実です…あと彰人です…」


彰人が笑いながら答える。


葵「何にしようか…茜ちゃん決めた?」


茜「私?カツ丼、超大盛り、味噌汁付き」


葵「え?超大盛り?綾香ちゃんなら分かるけど…茜ちゃんも結構大食らい?」


茜「私夜はよく食べるから…夜になると無性に食欲が湧いてくるのよ…食べ足りないと今度は性欲。なんつってね…普通に食べ足りないなら足るまで食べるわよ。ここは結構都合が良い…」


葵「その、性欲って冗談、キツイよ…こんなに人がいるんだから、そんな事言うのはやめてよね」


葵が突っ込む。


葵「彰人は?」


彰人「俺は…まぁ鯖の味噌煮定食かなぁ…」


葵「あっボクと同じだ!ここの味噌煮本当にうまいから!」


葵が少し喜ぶ。しばらくして、頼んだ物が来た


おじさん「お代は要らないぞ!いっぱい食べてくれ!茜ちゃんと彰人くんもな」


おじさんが言う。


葵「いや結構だってばおじさん!美味しい物にはちゃんと金払わないと!それにボクはブラックカードだよ?こんな太客からお代一つも貰わないって商売としてどうかと思うよ?ボクお金有り余ってるんだから…高校生は月300万なんか普通は使わないよ!贅沢して10万とかだよ?だから払う!」


おじさん「良いよ良いよいとこなんだから…」


葵「いや!払うね!断固として払う!」


微笑ましい会話を聞きながら、彰人と茜はご飯に手を付けていた…


「超大盛りこんくらいね…楽勝ね。いただきます」   


茜がバクバク食べる。見るだけで彰人は胃がもたれがしてきた。


「いただきます!」


彰人と葵も手を付ける…


彰人「あっこの味噌煮美味しいです!味噌が程よくて、身がふわふわで最高です…漬物も美味しいです!今度家族ときますね!」


彰人が感想を言う。茜は無我夢中で食べている。美味しいのだろう。


「店長!おかわり大丈夫ですか?」


茜がおかわりを要求する。


おばさん「よく食べるねぇ…超大盛りをぺろっと食べておかわりする女の子は初めて見るよ…おまけにカツ3切れ!」


茜「え?良いんですか?」


茜が目を輝かせる。しばらくして


一同「ごちそう様でした…」


みんなの食事が終わった


茜「流石に調子に乗って食べ過ぎた…まぁ美味しいから仕方ない!」


茜がお腹をさすりながらいう。


葵「茜ちゃん、本当によく食べるねぇ…普通の人は無理だよその量…夜だけなら綾香ちゃんより食べてるんじゃない…」


葵が半分ビビっていた…


「いや…そんな事はないよ…お腹押されたらすべてリバースする自信がある…」


(普通の人は押す必要無いんだよ!)葵が心の中で突っ込む…

ーーー

おじさん「えーと…カツ丼超大盛り900円+丼飯10杯…2000円と、鯖味噌定食1000円×2つ+おかわり2杯で400円…合計5700円…お支払は?」


葵「クレジットで」


葵がブラックカードを出す。やはり富豪は違う…ただこのカードは並々ならぬ努力の結晶…決して生半可な覚悟で貰えるものじゃない…それなりの努力をしたものだ…彰人は自分ももう少し頑張らないとと思った。


おじさん「ありがとうございました」























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