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妹が、世界を壊す前に  作者: ピザやすし
第1楽章 果実が落ちない理由
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第8話 王女殿下、やりすぎでございます。

戦場に突如現れた魔術師は、夕暮れの赤の中にひと際目立つ蒼として存在していた。

思い出したように帝国兵が叫ぶ。

「う、撃て!敵魔術師だ!」

止まっていた時が再び動き出すように銃撃音が響く。

銃の斉射も、確実に狙いを付けた砲撃も、蒼い魔術師の周囲に展開された障壁に阻まれる。

突如、空を裂くように稲妻が走る。

轟音に応じるように、帝国軍後方から爆音が続き、火柱と黒煙が上がる。

後方火薬庫と大砲が落雷で引火したのだ。

そしてそのまま戦場に電撃が走る。

車に乗せられた大砲も、銃も、戦場にある火薬が次々と引火し爆発していく。

「ひっ、火薬が!」「雷だ!」「あれは魔術だ!」

怒声と悲鳴が交錯する。

「あっ……」

帝国兵の一人が空を見上げると、数多の巨大な氷柱が浮かんでいた。

狼狽え、後ろに下がるが、腰を抜かして尻餅をついてしまう。

降り注ぐ氷柱が迫って来る。

――彼は、氷柱に当たる直前で意識を失った。

降り注ぐ氷の質量が帝国兵を圧し潰し、そのまま大地に楔として撃ち込まれる。

氷柱から氷が広がり、直撃を免れた帝国兵の脚を凍らせていく。

次の瞬間、凍てついた大地に火球が落ちた。

ぼうっという鈍い爆音の後、空気が揺れる。

氷が瞬時に蒸発し、膨張する熱と圧力が敵陣を吹き飛ばす。

衝撃波が王国兵にまで届く。

近くの者は瞬時に炭化し、崩れ落ち、離れた者も熱波に喉を焼かれ、焼け爛れた手を喉に伸ばす。

更に離れた位置で、熱波を免れた兵たちが言葉を漏らす。

「……は、はは、化け物だ……」「こんな、こんなことができる人間など……」「女神よ……」

味方兵にも畏怖が芽吹く。

「ははは!王女殿下、万歳!万歳!」

狂ったように歓声を上げる兵もいれば、恐怖に目を見開いたまま立ち尽くす者もいた。


帝国軍は混乱の中にいた。

電撃によるパルス干渉で通信が断絶。

指揮系統が瓦解。

前線の兵は蒸発し、指揮官を失った部隊は錯乱したように逃げ惑う。

「退け!退けぇぇぇぇ!」

圧倒的な暴力の顕現に、戦意を保てる兵などいなかった。

兵士たちは我先に、と退却列車に乗り込み、去っていく。

それほどまでの力を見せ付けた。


完全に勝利は決していた。

直前まで、退却していたのは王国軍であった。

それを、たった一人の魔術師が戦況を返した。

その光景に、ある者は王女を称え続け、ある者は恐怖に震え、ある者は呆然と立ち尽くす。


誰の心にも『終わった』と言う安堵が浮かんでいた。

ゆっくりとシアが顔を上げる。

戦場の一角、崩れかけた廃屋の陰に、負傷者を背負う兄の姿があった。

刹那、轟音が響く。

破損しかけた大砲の一基が、燃え盛る炎に炙られ暴発した。

「その先にはお兄様がっ!」

放たれた砲弾の周囲が歪み、圧縮され、爆発する。

だが、砲弾の破片の向かう先までは予想できなかった。

破片が兄へと向かう。咄嗟に背の負傷者を庇い、破片を受ける兄の姿を、シアの目が捉えていた。

「あっ……あ……」

シアの周囲の温度が下がる。

空気中の水分が凍り付き、彼女の周りをキラキラと飾っていた。


会議室は戦勝に沸き、王女を称える声が響いていた。

王女殿下万歳!救国の守護者万歳!と。

宰相もようやく緊張から解放され、安堵の溜息を吐いた。

先程まで同じく称賛の声を送っていた魔術通信が沈黙していることに、その場の誰も気付いていなかった。

空は赤から夜の闇へと姿を変えていた。

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