表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹が、世界を壊す前に  作者: ピザやすし
第1楽章 果実が落ちない理由
8/24

第7話 魔法少女☆なんてね

空は青く澄み渡っていた。

気持ちの良い空に似つかわしくない焼けた臭いと、硝煙の匂いが辺りに漂っていた。

「止まれっ!」

王国軍の下士官に制止を命じられる。

「ギルドからの依頼で生存者の捜索、及び救助のために参りました。」

と、ギルドの依頼書を渡す。

下士官は依頼書を確認しながら言う。

「助かる。本来ならば、我らが救助の任に当たるべきなのだが……」

こっちだ、と前線基地に案内される。

「ギルドからの救助人員を連れて参りました!」

下士官が良く通る声を発する。

一人が立ち上がり、こちらへと歩み寄って来る。

「助かる。ここの指揮官だ。早速で悪いが、この地図を見てくれ。」

机に広げられた地図には村の位置に印が付けられていた。

「君にお願いしたいのはこの村だ。」

両国軍の睨み合っている地点からあまり距離が無いな、と思いを巡らせる。

「見ての通り、危険な地点だ。直接巻き込まれる可能性も無くはないだろう。危険を感じた際は自分の身を優先して欲しい。」

「はい。」

……顔に出ていただろうか。

「では頼んだ。既に何人か、救助を行っているはずだ。合流してくれ。」

「はい。ご武運を。」

指揮官殿は笑顔で送り出してくれる。指定の村へと駆け出していた。


会議室では、宰相が重い口を開く。

「王国は、帝国の要求に応じない。」

閣僚一同が息を飲む。

「既に布陣は終えている。」

解消は顔を伏せる。帝国軍を止める戦力はそこには無い。

一人が言葉を発する。

「……王女殿下の魔力なら。」

そうだ、王女殿下なら、とあちこちから声が上がる。

「ダメだ!」

宰相の言葉に一瞬の静寂が生まれる。

が、直ぐになぜ、と言う声が湧き上がる。

「王女殿下は、まだ不安定でおられる。」

城内の凍結事件を知らない者はいない。

「しかし、それではただ、何もせずに帝国に敗れるだけです。」

そうだ、そうだ、と声が上がる。

しかし、王女殿下が魔力を制御できない、と言うことを他国に知られる訳にはいかない。

周囲の声に、重い溜息を吐き、宰相が言う。

「……分かった。前線の崩壊が避けられぬ場合に限り、王女殿下にご出陣いただく。」

僅かでも時間を稼げば、王女殿下はまた魔力を制御できるようになるかもしれない。

ただの願望であることは分かっていた。

閣僚たちは王女殿下であれば、帝国から王国を守ってくれると信じていた。

いや、信じたかっただけかもしれない。

ただ、王女殿下が、王国の最大戦力であることは間違いない。

気が緩み、談笑を始める閣僚たちを見ながら、振り子時計の時を刻む音を聞いていた。


指定の村は焦土と化していた。

まだ、あちこちから黒煙が立ち上がり、人だったと思しき黒い塊。

異様な臭いに顔をしかめた。

「お!追加の人員かい?」

「はい!生存者の捜索と救助に参りました。」

声をかけられ、それに答える。

「早速で悪いけど、ちょっとこっちに来てくれ。」

ついて行くと、五人ほどが瓦礫をどかしていた。

「下に生存者がいる。塞がって動けなくなっちまったみたいなんだ。」

子どものしくしくと泣く声と、この子だけでも助けておくれ、と懇願する老女の声が聞こえた。

「っ!任せてくれ!」

瓦礫に魔力を込め、どかしていく。

「すごいな、魔術で浮かしているのかい?」

「まあ、そんなところだ。」

話ながらどかしていくと、隙間で女の子が泣いていた。

手を伸ばし、その子の手を掴む。

「もう大丈夫だ。」

「奥におばあちゃんがいるの。」

「ああ、任せてくれ。」

女の子の安全を確認し、瓦礫の撤去を進める。

倒壊した柱に脚を挟まれた老女を見付ける。

「ばあさん、女の子は助けた。次はあんただ。」

そう言って脚を挟んでいる柱に魔力を込める。

その間に仲間に老女を救出してもらう。

「ありがとう。本当に、ありがとう。」

そう言う老女の脚は折れているのだろう。

自力での歩行は困難と判断し、仲間の一人が老女を背に負い、女の子の手を握って安全な場所に誘導する、と去っていった。

その後も救助は順調だった。また一人、また一人、と生存者を見付け、助け出した。

もうここにいるのは、俺と最初に声をかけてきた女の二人だけだった。

「この人はあたしが連れていくよ。」

そう言って負傷者を背負う。

「あたしじゃ瓦礫はどかせないからさ、せめて背負うくらいはね。」

細身の体で意識の無い男を運ぶのは大変だろうに。

「あんたも、無理しないで離れなよ。」

そう言って歩いていくのを見送った。

正直、身体は限界だった。

骨が軋み、眩暈がしていた。

しかし、まだ生存者がいるかもしれない、と、おーい、と声を出す。

意識があれば反応してくれるかもしれない。

声を聞いて意識を戻してくれるかもしれない。

そう思いながら生存者を探した。


指揮官は懐中時計を見つめ、呟く。

「もうすぐ定刻だな。」

両軍の緊張が高まる。

帝国の方を見ると、大砲が並んでいるのが見える。

開戦と同時にあれらが火を噴くのだろう。

魔術師隊で迎撃できるだろうか。

あれを突破できなければ勝利は無い。

懐中時計と心音が、それぞれ違うリズムで時を刻んでいた。


もう、生存者はいないのだろうか。

分からない。

が、自分もそろそろ離れないと危険だろう。

日は傾き、夕暮れが近付いてきている。

ドーンと大きな音がして空気が震える。

思わず伏せる。帝国軍の砲撃が開始された。

「くっ、開戦時刻か。」

轟音が響き、空気がびりびりと震える。

もうこれ以上は危険だ。

撤退しよう。

「……ぅ……」

声が聞こえた。

「誰かいるのか?!」

「……ぁ、こっちだ……助けてくれ……。」

はっきりと声が聞こえた。

生存者だ。

「待ってろ!今助ける!」

轟音の中、声を聞きとれたのは幸いだった。

肌に感じる空気の振動を受けながら、がれきの撤去を再開した。


帝国の砲撃の雨は、想像以上の質量を撃ち込んでくる。

魔術師隊が何とか破壊しようとするが、その数の多さに半数も防げない。

歩兵隊は近付くことすらままならない。

ただ、向かって行っても、無駄に命を散らすだけだ。

突如、轟音が止む。

何事かと確認をする。

土煙の向こうに、大砲を積んだ車を中心に、銃を構えた歩兵隊が見えた。

魔術師隊を見ると、彼らは既に疲弊している。

「撤退だ!退け!退けぇ!」


会議室には魔術通信によって逐一戦況だ伝わっていた。

「宰相!王女殿下を!宰相!」

目を瞑り、深く息を吸い、吐き出す。

「……王女殿下に、ご出陣いただく。」

「かしこまりました。」

サクラが礼をし、退室していく。

これが王国の切り札だ。

そう思いながら伏せていた目を上げる。

窓から見える空は赤く染まり、まるで戦場のようだ、と、思った。


前線は完全に崩壊していた。

帝国軍の進軍を止められるものは、ここには存在していなかった。

犠牲を少なくするためだけに、王国軍は動いていた。

突如、光柱が天を貫き、夕暮れの空の一角を白く染め上げる。

突然の出来事に両軍の動きが止まる。

光が収束すると、誰かが声を上げる。

「人だ……。」

その声に皆が一斉に視線を空に向けた。

そこにいたのは戦装束に身を包んだ一人の少女。

長い黒髪が風に舞い、青い外套が翻る。

王女セラフィア・ヴァルデリア。

王国最大の切り札。

王国最強の魔術師。


戦場に転移し、最初に感じたのは兄の存在。

――お兄様がここにいる。

魔力探知で兄の存在を確かに感じていた。

ちらりと兄の姿を見る。

そして目を閉じ、自身の役割を言い聞かせる。

私は王国を護る魔術師。

お兄様、これは、私の戦いです。


赤く染まった空に突如現れた蒼い魔術師。

「シアか……?」

救助した人を背負い、退避しようとしていたジンにも、その姿ははっきりと見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ