第26話 英雄の歌
「……良いのかね。我々は君に感謝している。何も、遠慮することなど無いのだよ。」
教皇は、ジンの失った手足に対する、再生術式の無償提供を申し出ていた。
ジンは静かに首を振り、答える。
「……これは、あいつとの思い出だから。あいつがいた、証明だから。」
――俺からシアとの思い出を奪わないでくれ。
そんな悲痛な願いが滲んでいた。
「……これから、どうするのかね。」
教皇は優しさを湛えた声で問う。
「……分からない。ただ、この世界を見て回ろうと思うんだ。」
そう話すジンの顔に迷いは無かった。
「この世界を見て、失われなかった色彩を、この心に満たしたいんだ。」
そう言って、英雄は歩き出す。
失われた脚の代わりに杖をつき、ゆっくりと歩んでいく。
その先には、雲一つない青空が広がっていた。
王国は王家を失い、他国からの介入を受け入れた形での暫定統治評議会の設置、民主制へと移行していく。
崩壊した王都には、少女を抱く四枚の羽をもつ少年の像が建てられ、救済の像として設置されることとなる。
王都はその壊滅的被害から遷都を余儀なくされたが、旧王都に設置された救済の像と、英雄誕生の地として国は残り、旧王都も各国の支援を受け、再建されていく。
彼らの物語は、一つの英雄譚として語り継がれていく。
かの者 四つの翼を広げ
少女を護りて 闇を討つ
空から 光の羽根が舞い
その奇跡を示す
そして その英雄は――
世界を救ったその物語は、今日もどこかの街で、吟遊詩人が歌い継いでいく。
人々の心に、彼らは生き続ける。




