第24話 願いを胸に
雪が降っていた。
大陸からは離れた東国。
夏だと言うのに気温は低く、積もった雪が溶ける様子は無かった。
吐く息は白く、壊れた世界の色彩に、雪と共に落ち着いた白を重ねていた。
各国が対災厄の準備を進めていく。
オウゲツ代表がジンに声をかける。
「ジン殿。我が国には反転に似た術が御座います。」
目を閉じ、祈るように、静かに語る。
「時間がありません故、術者を同行させます。役立ててください。」
技術連邦代表が歩み寄る。
「試作の装備だ。ワイヤーは、既に確認しているね。」
そう言いながら、実験レポートに目を通す。
「差分エネルギーだが、ある程度はこちらで請け負える。が、全てではない。」
諦めにも似た笑顔を浮かべながら続ける。
「エネルギーの逃げ道を示すだけだ。魔導ワイヤーも、同じような逃げ道として機能するだろう。これは外に放出するだけだが。いずれにせよ、多過ぎれば機能しない。」
ああ、そうそう、と、最後に魔導収束砲の説明をしてくれる。
錬金公国代表は、迷いを表情に浮かべながら話しかけてくる。
「……我が国の秘薬の一つだ。必要に応じて、使ってくれ……」
そう言って、丸薬の入った袋を渡される。
「ある程度、話は理解しているつもりだ。それは、ある種の痛み止めだ。しかし、副作用も強い。」
できるなら、使わないで欲しい、と言って準備に戻っていく。
自由同盟代表はにこやかに話しかけてくる。
「民衆の避難、支援。失敗した際の退避。全て任せてくれ。世界の全てを君に託そう。」
そう言って笑いながら去っていくが、すぐさま各員に指示を飛ばし始める。
ギルドも自由同盟と共に動くようだ。
祈りを捧げる教皇が目に入った。
近付くと、祈りを止め、静かに話し始める。
「……我々は、王女を象徴として利用しようとしました。」
そう言って目を瞑る。
「白い羽を持つ者に守護され、裁きを成す。神話そのものです。」
間を置いて、続ける。
「……利用しようとした我々に対する罰でもあるのでしょうが、我々は、この試練を乗り越え、真に団結することを試されているのだと、そう、感じるのです。」
教皇の祈りは、王女に、世界に、区別なく向けられていた。
接近には技術連邦の開発した飛行船を、突入には飛竜を使う。
王国の転移魔法陣は既に機能していないことが分かっていた。
飛竜の下に向かうと、樹霊連邦の皆が、飛竜の世話をしていた。
「……王家の血は、自然の理に反するもの。それに対する揺り戻し。これもまた、あるべき姿なのです。」
そう言いながら世話を続ける。
「ですが、この子たちは諦めていない。我々が滅ぶときは、今ではない、と、伝えています。」
その言葉を、静かに受け止めていた。
「王城には地脈が通じております。一時的にではありますが、ジン殿の魔力を上げられるでしょう。」
そう言うと、樹霊連邦の皆は世話の道具を片付けていく。
今、まさに、世界対災厄の、総力戦が開始されようとしていた。
世界の想いが、願いが、その全てがジンに注がれていた。
希望の象徴として、災厄を止め得る唯一の可能性として、そこに立っていた。
「……シア……」
声が出ていた。
ずっと考えていた。
止めるための方法を。
もう、殺す以外にないのか、を。
その問いに答えは出なかった。
ただ、妹を止められるのは自分だけだ、と、そう言い聞かせ、飛行船に乗り込んでいく。
その表情は、よく見えなかった。




