第22話 灯火の下に集う
「くっ……一体、何が……」
瓦礫の中から身体を起こす。
着地の衝撃を反転魔術で殺し、ジンは生きていた。
辺りには雪が舞い、割れた空が夜の闇を漏らし、太陽はその色を白と黒とを反復させていた。
実験が行われた技術連邦の研究都市は、その機能を停止していた。
あちこちから黒煙が立ち上り、地面には亀裂が走っていた。
泣いている子供たちが見える。
その中を、静かに、その中心へと歩く。
「……酷いもんだ……。」
奥歯を噛み締める。
自然と拳を握っていた。
災厄の中心へと辿り着くが、シアの姿は無かった。
まるで、世界と言う譜面に空いた穴が、そこに広がっている様だった。
色彩も、音も失われ、ただ、静寂だけがそこに横たわっていた。
不意に頭上から声をかけられる。
「おーい、無事で良かった。」
ルティだった。
飛竜を操る竜師の後ろ、飛竜の背に乗っていた。
「ツァラ・ユグドの飛竜だ。災厄が発生した、と、ギルドと連携して救助を行っている。」
そう言う顔は悲愴に満ちていた。
それに、と遠くを指差す。
そこではエスペランディア自由同盟が、神政庁、ギルドと連携し、支援物資の配給、避難民の誘導を行っていた。
彼らの持つ交易路が、全て災厄のために開放されていた。
「ここの転移魔法陣、壊れちまってるからさ、近くの転移魔法陣まで飛竜で、そこからオウゲツに飛ぶよ。」
そこで対災厄について話し合われている、と補足する。
その言葉を合図に、もう一頭の飛竜が現れる。
「何があったのか、みんなに伝えるのが、あんたの責務だよ。」
普段の明るい声色を抑え、静かに、真剣な表情で言う。
「……分かった。俺の知り得る限りのことを話そう。」
そう言って飛竜の背に乗る。
近くの転移魔法陣へと移動する間、ルティと話していた。
そう何度も災厄に巻き込まれて生きているなんて運が良い、だとか、そんなことを言っていた気がする。
俺は、シアのことを考えていた。
オウゲツは大陸から離れているため、まだ、直接的な被害は出ていないように見えた。
ただ、同じく空は割れ、壊れた太陽が昼と夜とを繰り返していた。
ジンが会議室に入ると、宰相が立ち上がり頭を下げる。
「シルガルド王子殿下、お待ちしておりました。」
突然のことに反応できず、周囲を見る。
サクラが壁際に控えているのを見付ける。
その姿は、無理をしているように見えた。
「……今はジン、だ。」
「しかし、王家の血筋はもはや……。反転魔術の発見の功績があれば、異を唱える者もおりますまい。」
「ここには、ギルドの一員として来ている。王国の代表は、俺ではない。」
そう言い切り、会議室内に目を向ける。
「災厄について、知っていることがある。」
そう言うと、会議室が沈黙に包まれる。
宰相は静かに目を伏せる。
「俺の、知っていることを、全て話そう。」
ジンの宣言に、各国代表が静かに息を飲む。
狂った世界の中、そこにだけは確かな火が灯っていた。
それは、昼も夜も関係なく、世界を照らす灯りであった。




