表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹が、世界を壊す前に  作者: ピザやすし
第四楽章 断絶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/38

第21話 届いたはずの手と、零れ落ちた想い

観測室のドアを開くと暴風が噴き出した。

室内では機器は壊れ、技官は吹き荒れる風に飛ばされまい、と、身を低くし、防壁だった残骸にしがみついていた。

その異常の中心にシアが居た。

俯いたまま、静かに立っていた。

その、特徴的な蒼い外套が赤く染まっていた。

その姿の前に、倒れている脚が見える。

「シア!」

そう叫ぶが反応は無い。

荒れ狂う風は、近付くもの全てを拒んでいた。


瓦礫にしがみついていた技官の腕が凍り付き始め、その顔が恐怖に染まる。

思わず手を離すと、風圧に飛ばされ、壁に叩きつけられる。

壁は生きているかのように脈打ち、技官を飲み込み始める。

「ひっ、た、助け――」

発言を許さない、と、言わんばかりに、その身体は壁へと飲み込まれていった。

明確な異常事態。

災厄が起きていた。

壁に飲み込まれる技官を見ていた者たちの顔に恐怖が張り付く。

ここでは、世界の常識が壊れていることを、本能的に感じ取っていた。

恐怖を張り付かせた顔の一つが突然膨張する。

「ぐっ……」

苦しそうに、自分の顔へと向けられた手は、対象に届くことなく、パンッと言う破裂音と共にだらりと下がる。

周囲に赤が撒き散らされる。

力の抜けた肉体が、ゆっくりと倒れる。

倒れた肉体が、その色彩を失い、砂になっていく。

怒り狂う風の前に、その砂は消し飛ばされていく。

「ひっ、ひあ、あああああ。」

もうそこに、正気を保っていられる者はいなかった。


入口から動けずにいたジンは、風圧に逆らい、その手を前に突き出す。

そして、その手に自身の持つ、僅かな魔力を滾らせる。

――反転魔術

ジンを圧す風圧が、吸引力へと変わる。

バランスを崩しながらも、その目はその中心に向けられていた。


その一瞬は、とても長い時間に感じられた。

確実にその中心へと引き寄せられた手は、シアの肩に触れる。

肩を触れられたシアが、ゆっくりと、その赤く染まった顔を上げる。

今、助けてやる、と、もう片方の手にも魔力を込め、前に出そうとする。

シアは、ジンの顔を見て、しばらく考えていた。

目を伏せ、何かを掬い上げようとするが、割れた心から零れ落ちていく。

そうして、ゆっくりと、口を動かした。


――だれ?


何を言われたのか分からなかった。

その言葉は確実に耳に届いていた。

けれど、その意味が分からなかった。

理解を拒んでいた。

動揺が静かにジンを蝕んでいく。

その手に込められた魔力も、決意も、もうそこには無かった。


次の瞬間、床が崩落した。

それに飲み込まれ、浮かんだままのシアを見ていた。

そして、実験棟全体を爆発音と煙が包む。

吹き飛ばされながら、どこで間違ってしまったのか、とジンは考えていた。


崩壊した技術連邦実験棟から空に亀裂が走り、その表面をバリバリと剥がしていく。

青空はその傷から闇を漏らしていた。

亀裂が全世界を覆っていく。

太陽がその色を反転させ、戻り、昼と夜とを繰り返している様だった。

周辺地域では風が吹き荒れ、雷が落ちる。

落ちた雷が、そのままの形で氷になる。

その氷も色彩を失って崩れ落ちていく。


そうして、対災厄のための制御実験は、世界規模の災厄を引き起こした。

世界は、完全に壊れてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ