第20話 かつての面影
反転魔術の負荷は、反転させた際のエネルギーの差分が負荷としてかかっているのではないか、と言うことだった。
そして、それをエネルギーとして転用できれば、世界の常識が変わる、と。
技官は熱く語る。
それを確かめたい、と言う言葉に、正体を知りたい自分も頷いた。
別室に機材があるのでついてきて欲しい、と技官が言う。
「ですが……。」
自分はギルドから、陛下の護衛の任で来ている。
勝手に離れるわけにはいかなかった。
「構わぬ。」
シアを見たまま、威厳と優しさを帯びた声で陛下が言う。
「反転魔術と言う、稀有な魔術の発見。それはこの国にとっても有益なものである。」
少しだけこちらに目を向け、直ぐに視線をシアに戻す。
それに、これまでの事は全て知っておる、と声を潜めて言う。
「っ!分かりました!ありがとうございます!」
陛下に頭を下げ、技官について行く。
その姿を、見開いた目で追う少女がいた。
「魔力波異常!危険です!」
実験中止が指示される。
災厄の魔力を放つ、箱を回収しようと技官が動く。
直後、防壁に亀裂が生じる。
その光景に、皆の動きが一瞬固まる。
防壁が砕け散り、観測室に暴風が流れ込む。
書類が風に舞い、計測機器の数値が乱高下する。
負荷に耐えきれなくなった計測機器が、小さな破裂音を鳴らし、黒煙を上げる。
観測室の壁が凍り付いていく。
その異変の中心で、少女は何かを抑え込む様に、その身を抱き締めていた。
「セラフィア。」
国王陛下が、その魔力の奔流を打ち消しながら歩み寄っていく。
「っ!来ないでっ!」
その言葉に応じるように、一層風が吹き荒れる。
少女は顔を逸らす。
その動きに涙が飛び散る。
魔力の奔流に晒され、耐えるだけで精いっぱいな技官の中、同じく魔術師であり、王家の象徴でもある陛下だけが、その魔力を打ち消し、ゆっくりと進む。
「セラフィア、すまなかった。お前にばかり――」
急に声が途切れる。
困惑しながら、ゆっくりと父の方へ顔を向ける。
そこにあったのは、上半身を失った身体。
それが何であるか、分からなかった。
力を失った下半身が、ゆっくりと倒れる。
倒れる音が聞こえた気がした。
顔に生暖かいものがかかる。
その、倒れたものが、一瞬、かつて同じ様に自分に近付き、そして自分を抱き締めてくれた存在と重なって見えた。
その瞬間、胸の中で、何かが割れて崩れていく音が聞こえた。
別室で、ジンは反転魔術を使っていた。
技官がその様子を記録していく。
魔力を伝える素材を作ってみた、と、紐の様なものを手渡される。
「これの端をこの箱に触れさせて、反対側から魔力を込めてみてくれ。」
言われるがまま紐に魔力を込めると、箱が浮き上がり、そして床に落ちる。
技官が興奮気味に語る。
「旧帝国の鉄道網が魔力を伝搬させていただろう?!あれで思いついたんだ!」
こっちも試してくれ、と、何かの装置に繋がった上着を着せられる。
「それを着て、反転魔術を発動させてみてくれ。上手く行けば、負荷を逃がしつつ、エネルギーが回収できるはずだ!」
反転魔術を発動させると、装置に明かりが灯る。
成功だ!と技官が叫ぶと同時に何かが割れる音が聞こえた。
「シア?!」
言うと同時に駆け出していた。




