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妹が、世界を壊す前に  作者: ピザやすし
第四楽章 断絶

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第19話 希望の再演

ギルドへと足を運ぶと、リリィ嬢が明るく声をかけてくる。

「ジンさん指名の依頼ですよ!技術連邦で行われる実験に立ち会う、陛下の護衛の依頼です。」

王国からの依頼です、と、嬉しそうに言う。

「こないだはギルドからの指名、今度は王国からか。」

溜息を吐きながら答える。

ぐったりと疲れたような身振りで顔を伏せ、考える。

――王国が今さら、俺に何の用だ?

「勿論受けますよね!移動には転移魔法陣を使って良いそうですよ!」

私、転移したことないんですよ、と羨ましそうにリリィ嬢が言う。

「……碌でもなさそうな依頼だが、断ることはできるのか?」

「ダ、メ、です!絶対に受けてください!」

やれやれ、と言った身振りをして、受領のサインをする。

「陛下がご移動される時間は明示されておりませんが、実験の日程は決まっています。本日中に移動しておいてください。」

仕方ないな、と、言う顔をして依頼書を受け取り、ギルドを後にする。

一応身なりを整えておかねばならないな、と、着替えるために宿へと戻る。


技術連邦に着くと、実験の準備が進められていた。

その中にシアを見付ける。

「シア、どうしてここに?」

一瞬緊張が解けたような声を上げるが、直ぐに冷静に答える。

「お兄様!……いえ、対災厄、その制御実験として、私の魔力が、災厄の魔力に与える影響を調べるそうです……」

そう言うシアの顔には、不安が浮かんでいた。

「……大丈夫だ。俺がいる。」

妹を実験材料にする、と聞いた兄の拳は強く握られていた。

災厄の魔力には、合同調査の際に捕縛した獣から取り出した、魔力の影響を受けて変異した肉片が用いられるらしい。

この魔力に対し、妹の魔力が抑制する力を示せば、今ある希望としての仮説が強化される。

そういう実験であった。


転移魔法陣が輝く。

シアがここにいる以上、転移してくる者は一人しかいない。

道を開け、頭を下げる。

転移魔法陣から出てきた人物は、ジンの前で歩みを止める。

「……今はジンと、名乗っているのであったな。」

「はっ。」

短く答える。

「……すまなかった。」

「……は?」

思わず素っ頓狂な声とともに顔を上げてしまう。

そこには、威厳と優しさを湛えた父がいた。

「シアを、セラフィアを頼む。……娘が心を許すのは、お前しかおらぬ。」

そう言うと、父は――国王陛下は――実験棟へと歩き出す。

その後ろ姿を呆然と眺めていた。


実験の準備が着々と進められていく。

万一に備え、物理的にも、魔術的にも隔てられた強固な防壁に囲まれた中に、シアが座っていた。

調査官たちはあちこちに指示を出し、計測の準備をしていた。

防壁は中が見えるようになっており、まるでシアを実験動物として扱っているように見えた。


シアは、静かに震えながら俯いていた。

不安そうな表情を浮かべるシアがこちらを向く。

目が合うと、ぎこちなく笑って手を振って見せる。


そうして、実験が開始された。肉片の入れられた箱が置かれると、災厄の魔力波形が観測され始める。

シアの魔力がその魔力波形を打ち消すと、おお、と歓声が上がる。災厄の魔力に対する干渉と、災厄を打ち消す可能性が高い、と、記録されている。

シアは、不安を滲ませたまま、こちらをちらちらと見ていた。


その様子に奥歯を噛み締めていた。

「ジン殿。」

不意に声がかけられる。

合同調査の時の調査官だった。

「君の反転魔術だが、幾つか検証したくてね。もしかしたら、魔力をより遠くに伝達されられるかもしれない。」

それは、触れなければ発動できない、と言う制約を、取り払えるかもしれない、と言う希望であった。

「あと、王女殿下が反転魔術を模したときに、負荷を逃がせる、と、言っていたね。あれも、もしかしたら魔導装置で再現できるかもしれない。いや、それどころか、その負荷を、エネルギーとして再利用できるかもしれない。」

冷静に、しかし熱を込めて語る。

「あの負荷が何か、分かったのか?!」

「これは仮説なんだが……」


計測機器を見ていた技官が伝える。

「魔力波不安定化傾向有り。」

シアの目は技官と話し込む兄に向けられていた。

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