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妹が、世界を壊す前に  作者: ピザやすし
第三楽章 胎動

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第18話 ずれた希望

黒い太陽が消え、降り注ぐ雪も消える。

空は澄んだ青を湛えていた。

異常な光景が生んだ沈黙を破る声が響く。

「……魔力波、安定。災厄兆候無し。正常値です!」

調査官の一人だった。

緊迫した空気に安堵が浮かぶ。

その中心に、涙を流す少女がいた。

「お兄様……ありがとう……。」

そう呟く少女は、涙をながしつつも笑顔だった。

それに応える兄もまた、涙を流しつつも笑顔だった。


周囲が騒めきだす。

異常魔力波形観測から異形の軍勢による襲撃。

更には空の暗転と天候異常に、印象的な黒い太陽。

明確に災厄と呼べる現象が収まったのだ。

「……あれを収束させたのか?!」

調査官が止まっていた手を再び動かす。

何が起きていたのか、自分の記憶がはっきりしているうちに記録に残さなければならない。

皆、混乱の中にいたが、異常現象は全て消えている。

王女の圧倒的な魔力を見ていた者たちにとって、彼女が災厄を抑えた、と信じるには十分だった。


後日、合同調査の報告書の審議会として、技術連邦の会議室で議論が行われていた。

「――以上報告より、王女殿下が災厄を収束させた、と、見做すのが妥当である、と、判断します。」

提出された観測記録、調査官と術技師のメモや報告書、それらが、災厄の収束と王女の関係性を示していた。

錬金公国代表がそれに続けて発言する。

「災厄に対する安全対策として、王女殿下に対し、災厄の制御可能性に関する再現実験を行いたい。」

技術連邦代表が同調する。

「特異存在の検証は、世界安全保障の責務であります。」

王国代表として出席していた宰相が、静かに立ち上がる。

「一つ、確認させていただきたい。」

宰相の声は、冷たく、抑えられていた。

「王女殿下が合同調査に参加したのは、あくまでも、人道的なものであり、実験対象として扱うことには強く、反対いたします。」

それに対し、錬金公国代表が発言する。

「王女殿下は、調査中の獣との交戦において、転移魔術、を、使用していた、との報告があります。」

会議室が騒然とする。

技術連邦が続ける。

「国際協定により、転移魔術の使用には、魔法陣の登録と、その使用を記録する義務がある。宰相も、対災厄会議の場で、そう、仰っていましたな?」

宰相は沈黙していた。

しかし、その拳には力が籠り、静かに震えていた。

「非難するつもりはありません。国際法上記録義務があるのは、転移魔法陣の使用のみ。単独で、それも魔法陣無しでの転移など、常識では考えられない。」

それは、王女が特異点である、と言っていることと同義だった。

宰相のこめかみを汗が伝う。

「王女殿下は我々の知る、魔術の常識を超えた存在です。で、あるからこそ、未曽有の災厄を制御しうる、希望の可能性を、確かめたいのです。」

力強く、かつ、慈愛を含む言葉に、宰相は何も答えられなかった。

王女殿下が制御できるのであれば、王国にとっても利がある。

だが、それはあまりにも、危険な賭けであった。

「対災厄制御実験の実施を提唱します!王国には、王女殿下のご参加を要請いたします。」

その宣言に、宰相はしばらく目を伏せ、そして応じた。

そうする以外に選択肢など無かった。

「……分かりました。我が国としても、協力の意志を表明いたします。ただし、王女殿下の尊厳を損なうような扱いは、決してなさらぬ様、どうか、ご誓約ください。」

そう言って静かに席に着く宰相の顔には、諦めと、安堵が浮かんでいた。

対災厄制御実験は、技術連邦の実験棟で行われることが決定された。

会議が終わる頃には、空は赤く染まっていた。

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