表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹が、世界を壊す前に  作者: ピザやすし
第三楽章 胎動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/38

第14話 再会。そして――

ギルドの会議室に入ると、覚えのある顔を見付けた。

「お!あんたも参加するのかい?」

民間人救助の時に、声をかけてきた女冒険者だ。

「ああ、ジン、だ。また会ったな。」

そう言って軽く握手をする。

「あたしはルティーナ。ルティで良いよ。」

笑いながら、快活な声で話し出す。

「しっかし、よく無事だったねぇ。何でも神の裁きだ、とか言われているそうじゃないか。」

その言葉に、神政庁から来ている治癒官がわざとらしく咳払いをする。

あちゃっと照れ笑いをしながら、声を潜めて尋ねてくる。

「王女殿下を救ったんだって?お手柄じゃないか。」

「……そうらしいな。悪いが、覚えていないんだ。」

一瞬驚いた後、少しだけ目を伏せて、彼女は笑った。

「ホントに、無事で良かったよ。」


話をしている間に、続々と調査に参加する面々が集まって来る。

先に着いていた神政庁の治癒官に、技術連邦の調査官、錬金公国の術技師。

今回の調査の重みが言わずとも伝わってくる。


そこに、足音が一つ、部屋に響いた。

現れたのは王国の魔術師。

その特徴的な長い黒髪と蒼い外套。

誰もが知るその姿は、王国第一王女、セラフィア・ヴァルデリア、その人であった。

「ご列席の皆様、王国より、此度の合同調査に参加いたします、セラフィア・ヴァルデリアです。以後、お見知りおきを。」

完璧な礼法、透き通る声、隙の無い表情。

侍女のサクラが一歩引いて控え、周囲の目線を丁寧に受け止める。

技術連邦の調査官がわずかに眉をひそめる。

錬金公国の術技師は、これはこれは、と興味深そうに王女を観察する。

「王女殿下自らとは。驚きました。王国も、この調査に全面的にご協力くださる、と言うことですね。」

神政庁の治癒官が穏やかに問うと、王女は一礼し、凛とした声で答える。

「未曽有の災厄を前に、我々は手を取り合わねばなりません。私もまた、あの場にいた者の一人として、この目で確かめねばならぬのです。」

室内がしんっと静まる。

誰もがその決意の重さを感じ取っていた。

そうして、今回の調査の目的が共有される。

異常魔力波形の観測。

それが災厄の兆しであるのか、またはその爪痕なのか。

それらを明確にするための調査である。


休憩時間、ブリーフィングの場を離れ、調査団の面々が食事や準備に散っていく。

ギルドの食堂に、ジンとシアの姿があった。

サクラは料理人との打ち合わせのために席を外していた。

「……ちゃんと王女様しているんだな。」

「あら、お兄様、ご存じなかったのですか?私は、王女、なのですよ?」

ふふっと控えめに笑う。

「お兄様が参加されるだなんて知りませんでしたわ。嬉しく思いますわ。」

頬を緩ませ、上機嫌で語る。

いつものシアがそこにいた。

サクラが戻ってきて、簡易な食事を並べる。

「申し訳ございません、お嬢様。調査中のお食事は、満足なものとは言えませんが……」

「構いませんわ。お兄様と同じものを頂けて嬉しいですわ。」

サクラは軽く礼をし、無言でシアの後ろに控える。

シア、だな、と、心の内で再確認する。

何か心にざらつくものを感じたが、何かは分からなかった。


翌朝、調査団は出発の準備を整えていた。

魔導機器、観測装置、錬金術的分析機器などが馬車に積み込まれていく。

観測ポイントに向かう道中の、旧帝国領内の影響調査も兼ねた合同調査である。

ギルドからの護衛として来ているジンは、周囲に気を配りながらも落ち着いていた。

「ジン様。」

……油断していたわけではないのだが、背後から突然声をかけられる。

「サクラ、驚くだろうが。」

「常に気を張っていてください。護衛なのですから。」

抑揚を抑えて言い放つ。

「ジン様、お嬢様をお願いします。お嬢様には、ジン様でないと、ダメなのです……」

声に、次第に悲痛な祈りがのり始める。

「……ああ。分かっている。」

出発の準備は着々と進んでいく。

もうすぐ出発することになるだろう。

遠くの雲を見ながら、朝の陽ざしを感じていた。


一行は旧帝国領に向けて出発した。

シアは馬車に乗らず、ジンの隣を歩いていた。

「……お兄様、私、あの夜のことを思い出せないの。」

そう言うシアの手は震えていた。

「……俺も、なんだ。気付いたらギルドの医務室にいた。」

そう言って震える手を握る。

シアは一瞬驚いたが、直ぐに握り返す。

「……お兄様が居てくだされば、安心できます。きっと、大丈夫だと信じられます。」

手はもう震えてはいなかった。

歩幅も自然と揃っていた。

青空の下、一行は進む。

雲が、まるで導くかのように、ゆっくりと浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ