EX-06 ジークベルト・ブラウハルトの独白録
……ジークベルト・ブラウハルト。帝国ブラウハルト侯爵家の三男だ。四肢のない侯爵家三男、という肩書きが欲しいなら、くれてやる。今の私は、名誉も、未来も、杖すら持てない。
私は、王女を誘拐しようとした男として記録されているらしい。だが、私は王女を狙ったつもりはなかった。『女の魔術師を拘束せよ』と命じられただけだ。誰がどう見ても、私のような家督にも縁のない三男坊が、そんな命令に逆らえると思うか?
功績がほしかった。何か一つ、価値のある手柄を得て、名を残したかった。そう思っていた。
軍の者が言った。
「研究用の素材だ」「危険はない」「ただ捕らえるだけでいい」
ああ、信じたとも。いや、信じたふりをしただけかもしれない。ただ、目の前の好機に飛びついただけなのだ。
準備は整っていた。軍がわざわざ帝国からチンピラを数名連れてきていた。今思えば、相手が王女だと知らない奴が必要だったのだろう。
「予定通り依頼を受けた」と連絡を受けた。闇に身を隠して待っていた。そして、あの少女が現れた。
……あの時点でも、私は彼女が王女だとは知らなかった。いや、たとえ知っていたとしても、あの場にいた私は、同じように動いただろう。
瞬間だった。こちらの人数が優勢だったのに、何もさせてもらえなかった。チンピラどもは皆倒されていた。あれが、王族に仕える侍女の力なのか?今も理解できない。
目が覚めた時には、腕も、脚も、なかった。誰も私を訪ねてこなかった。帝国からも、家からも、何の使いも来なかった。まるで最初から、私はいなかったかのように。
帝国が滅びたと聞いたのは、その医務室でだった。最初は嘘だと思った。だが、地図が塗り替えられ、通信は途絶え、そして、家の名も記録から消えていった。ブラウハルト侯爵家は、私がこうして生きている間に、静かに焼き尽くされたらしい。生き残りはいない。私を訪ねる者も、家名を口にする者も、もういない。
再生術式の話はあった。けれど、王国はそれを拒んだ。当然だ。私は『王女に危害を加えようとした者』なのだから。口封じされると思っていたが、帝国が無くなったのだ。もう殺されることはないだろう。
私は、誰かの棋盤の上に置かれた、どうでもいい駒だったのだ。成功すれば褒められ、失敗すれば捨てられる。だが、それを理解していなかった。
……私は、ただ愚かなだけだった。
王女があのとき何を思ったかは、知らない。けれど、ただひとつだけ言える。私は、誰の味方でもなかった。帝国のために戦ったわけでも、王国に仇なすつもりだったわけでもない。私はただ、自分の名前を残したかっただけだ。
その結果がこれだ。
まあいい。せめて誰かがこの記録を読むなら、それでいい。私は捨てられた者だが、何も残さなかったわけではない。焼かれても、捨てられても、私の声だけは、まだ生きている。




