EX-05 侍女サクラの私記
……あの夜の夢を、また見た。
焼けた空気のにおいと、あの子の泣き声。泣き声のようでいて、泣き声ではなかった。あれは、命が生まれるときの音だった。……けれど、それが二人の命を連れ去った。
私は見ていた。母があの子を取り上げた瞬間に、腕ごと焼かれるのを。それでも、母は手を離さなかった。赤子が泣くより先に、母があの子の名を呼んだ。王妃様も母も、焼かれながら笑顔を崩さなかった。私たちは、王妃様の力に守られていた。
そして、私は知っていた。生まれる前から、私がその子を見守るように、と、王妃様から母に伝えられていたことを。母も、私にそう言っていた。
「お姉さん代わりになってあげてね。あの子は、独りぼっちになってしまうかもしれないから。」
だから私は、あの子を『姫』と呼ぶけれど、心では『妹』だと思っている。本当は、もっとずっと遠いものの筈なのに。
けれど、あの子は普通じゃない。嬉しい時も、悲しい時も、起こった時も、魔力が漏れる。心と命が、きっと地続きなんだと思う。だから怖い。だから、目が離せない。
……私はジン様のことを警戒している。あの方が、王家の血を引く人であることは知っていた。忘れられた王子。けれど、姫様があの方をどれだけ慕っているかも、知っている。
あの子の魔力が荒れるのは、あの方のことになる時だけ。あの方に拒まれることを、想像するだけで崩れてしまいそうになる。あの方の手が、もし別の誰かに伸びたなら。あの方の目が、あの子を見ていないと知ったなら。
あの子は、自分で自分を焼いてしまう。
だから、私は願ってしまう。どうか、あの方には近付かないで欲しい。あの子が、あの方に恋をしてしまったその日から、私の胸の中には、恐怖と罪と、それでも逃げられない祈りがずっとある。
私は姫様を愛している。けれど、守りたいのは命ではなく、心だ。そして、その心を、壊す鍵を持っているのが、ジン様なのだ。
私はきっと、これからも傍にいるだろう。焼かれても、拒まれても、それが母に託された、姉としての私の役目だから。




