第12話 交差しない想い
会議は終わりへと向かっていた。
議題は出尽くし、結論は曖昧なまま。
合同調査の実施は決定されたが、それは何も分かっていない、と言うのと同義だった。
疲労だけが皆の顔に浮かんでいた。
長く沈黙を貫いていた東国代表が静かに言葉を紡ぐ。
「報告書、一通り読ませていただきました。」
透き通るような声が広い室内に響く。
「報告書にある、この少女。その子は、祈っていたのです。」
黒を基調とした異国風の衣服を纏ったその女性は、静かに目を閉じる。
髪留めの飾りが静かに揺れる。
その姿は、まるで少女の祈りと自らを重ねている様だった。
樹霊連邦代表の老神官が静かに言葉を続ける。
「……風が泣いておったのだ。」
抽象的な物言いに、真意を掴みかねる。
「わが国には竜が住んでおりましてな。彼らが教えてくれるのです。風が泣いていた、と。独りで、泣いていた、と。」
円卓に静寂が戻る。
その神秘的な物言いが、場に沈黙を落としていた。
自由同盟代表の発言は無かった。
彼は地図を見ながら考えていた。
使用不能な交易路の数は幾つで、代替経路はどこが使えるか、と。
祈りも風も、彼にとっては相場変動の一因に過ぎなかった。
会議が終わり、王国宰相は安堵の溜息を吐く。
近衛を呼び、そっと耳打ちする。
「王女殿下のご様子は。」
「はっ。安定されておられる、とのことです。」
静かに答える。
王城の一室。
サクラが茶を淹れていた。
シアは淹れてもらったティーカップを持とうとするが、自分の手が震えていることに気付き、そっと引いた。
サクラがその震えに静かに手を重ねる。
「大丈夫です。お嬢様。安心してください。」
「……ありがとう、サクラ……。」
気付くと震えは止まっていた。
窓からは明るい光が差し込み、白い鳥が空を舞っているのが見える。
その羽根が一枚、風に運ばれていた。




