第11話 見えない輪郭
聖フィルデア神政庁の大聖堂は、その威厳を示していた。
技術連邦の提唱した、対災厄を目的とした国際会議が、大聖堂の奥の会議場で始まろうとしていた。
円卓を囲む各国の代表たちは、静かに張り詰めた空気に覆われていた。
静寂を破ったのは技術連邦代表。
「此度の災厄において、我々は連邦内の観測網にて異常な魔力波形を記録しております。」
技術連邦代表が、その線の細い身体から鋭く響く声を上げる。
「お手元の第十三観測局報告をご覧ください。旧帝国全域における急激な魔力干渉。そして、観測史上初となる特異点の出現が観測されております。」
特異点の報告に波紋が静かに広がる。
その中にいた、王国代表として出席している宰相は、眉をひそめる。
彼は、報告書にある、王女の魔力波形類似の記述を見ていた。
対災厄会議と言いながら、災厄は王女が引き起こした、そう言いたいのだな、と、冷静に報告書を眺めていた。
続いて、錬金公国代表が手を上げる。
「災厄における土壌への影響を、限定的ながら実施しております。第八地質調査班報告書をご覧ください。」
錬金公国代表の、落ち着いた声が響く。
「旧帝国領内において、土壌の物性変化と壊滅的な被害が確認されております。」
観測データと調査データ。
客観的資料によって、災厄の規模と被害の大きさが示されたのだった。
技術連邦代表が続ける。
「これにより、我々は提案します。魔力波観測機の各国内設置と、合同調査の実施を。」
即座に王国から宰相が立ち上がる。
「観測とは、即ち保有戦力の開示。王国の、国防機密を他国に晒すわけにはいきません。」
錬金公国代表は頷く。
「我々は賛成だが、確かにその意見ももっともである。」
他国代表も、沈黙を保ちつつ、しかし観測の必要性には理解を示す。
そして、新たに資料が配られる。
証言整理報告書と、その付録として、一次資料となる複数の証言、尋問記録である。
技術連邦代表が説明を始める。
「三つの証言傾向があります。災厄の規模、少女の存在、羽を持つ者による災厄の収束。」
羽を持つ者、と言う言葉に神政庁代表の教皇が一瞬だけ顔を歪め、静かに目を閉じる。
その沈黙が神政庁の立場を示していた。
ざわめきの中、技術連邦代表が続ける。
「この、少女、とは、王女殿下を指すのではありませんか?」
王国宰相は、来たか、と思いながら淡々と答える。
「王女殿下は体調不良により静養中。此度の戦争には一切関与しておりません。」
技術連邦代表は反論する。
「しかし、過去合同演習中に観測した、王女殿下に類似した魔力波形が、災厄発生直前に、戦場付近に出現したことが観測されております。それに、王女殿下は災厄後に、戦場付近で保護された、と。」
各国代表に混ざり同席しているギルド代表に目が向けられる。
「はい。王女殿下を初めに保護したのは、民間人救助のために戦場付近にいた冒険者だと、報告を受けております。」
すかさず宰相が発言する。
「皆様もご存じの通り、転移魔術は座標指定の難しさから、入口と出口を成す対の魔法陣と、術式を支える複数の魔術師を要します。そして、要人移動を始めとするその用途から、その使用は厳密に記録され、共有されていることは、重ねて申し上げますが、皆様もご存じの筈です。」
資料上でも、災厄の魔力波形と過去の王女の魔力波形は一致していない、と報告されている。
「我々としては、王女もまた、災厄に巻き込まれた被害者であると、そう認識しております。」
言い終えると、宰相は静かに席に着いた。
資料との矛盾が無いかを確認する。
一瞬、磨かれたテーブルに映った自分が、全てを見透かしているような気がした。
「いいでしょう。」
と技術連邦代表は咳払いをする。
「では、羽を持つ者について、王国の見解を。」
宰相はわずかに肩をすくめた。
「現時点では、不明、としか。」
技術連邦代表は資料を見ながら顎を撫でていた。
「……王女を最初に保護したのはギルドの冒険者、でしたな。」
ギルド代表が答える。
「はい。保護した人物は酷い怪我を負っており、現在治療中です。が、その件に関し、我々は判断する立場にありません。」
会議は淡々と進む。
それぞれの腹の内を探りながら。
誰もが真実の一面だけを見て、そして、誰もが真実を求めて議論していた。
王国は、最も真実の近くにいながら、最も真実から遠い言葉を語っていた。




