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妹が、世界を壊す前に  作者: ピザやすし
第二楽章 真実を求める者たち

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EX-03 生存者の尋問記録

尋問記録 #47:C大隊 生存者


発信:アルケマリア技術連邦 安全保障局

宛先:対災特別対策室・内部解析班

機密区分:高秘(転写禁止・複製不可)

記録責任者:局員アステリ・レンツァ(第5聴取官)


一、証言者の身元および保護経緯

本証言者は、旧帝国軍地上部隊C大隊に所属していたと自称する生存者である。

災厄発生後、冒険者ギルドによる救護活動中に単独で発見・保護された。


発見時、証言者は意識混濁・脱水・熱傷の状態にあり、身元確認まで複数日を要した。

詳細な発見地点は記録されていないが、証言者は「焼け跡の上を、まっすぐ歩いていた」とされており、その痕跡は旧帝国の鉄道網跡に由来する可能性がある。


ギルドによる通報を受けた本局は、証言の重要性を考慮し、保護の上で正式な聴取を行った。


二、尋問記録(逐語・抜粋)

尋問官: 氏名と所属を述べてください。


証言者: ヴァルグ・デラン。帝国軍、C大隊所属。下士官……でした。今となっては、もう軍隊が存在しているのかどうかも……。


尋問官: 発見時、あなたは焼け跡の上を歩いていたと報告されています。どこへ向かっていたか、覚えていますか?


証言者: どこかへ、というより……戻っていた気がする。

焦げた地面が線になって、まっすぐに続いていた。枕木もレールもなかったけど、「そこに線路があった」と体が覚えていた。

誰にも言われていないのに、そこしか歩けないような気がして……あの道を、ただ、前に。


尋問官: 災厄の発生直前、部隊の状況を教えてください。


証言者: 命令があって、布陣を広げた。前進する予定だった。でも、そのとき空気が変わった。

息が苦しくなって、鼓膜が震えた。空が黒くなって……光が落ちてきた。

(間)

光の中に、誰かがいた。人に見えた。見たと思う。でも思い出せない。

後ろの兵が「神だ」と呟いた。誰だったかは……もう覚えてない。


尋問官: 何が起きたのか、順に話してください。


証言者: 覚えているのは、音が消えたこと。何も聞こえなくなった。

視界が白くなって、あたたかくて、冷たくて、焼けていて、何もなかった。

気づいたときには、誰もいなかった。

仲間も、装備も、地面にあったはずの影すらも、全部……なかった。

ただ、焦げ跡だけが続いてた。


尋問官: あなたは光を見たと言った。それは何だったと考えていますか?


証言者: ……わからない。光が強すぎて、なのか、覚えていないだけなのか……

ひとつの光じゃなかったような、そんな気もする。でも……いや、そんなはずはない。

あれは太陽だった。そうに決まってる。昼だったし、空も……いや、……空に、何か……。

(長い沈黙)


尋問官: 空に『何か』が?


証言者: ……影が、ふたつあった気がした。でも、それは……違う。見間違いだ。俺は疲れてたし、血が出てたし、……それに、そんなこと、あるわけない。


尋問官: どうやって生き延びたとお考えですか?


証言者: わからない。歩いていた。気づけば立っていた。

自分の意思で動いたのか、誰かに引かれていたのか、それすらはっきりしない。

誰かが、先に歩いていたような……そんな気がした。ずっと、誰かの背中を追ってたような。


三、観察記録・尋問官所見

証言中、証言者は一部視覚記憶について言及しながらも、不自然な否定的再評価を繰り返している。

特に「光源が複数だった可能性」や「影の数が一致しなかった」という発言においては、直後に「見間違い」「気のせい」と自己修正を挿入しており、記憶補正または自己検閲的抑圧の傾向が認められる。


災厄発生時の強烈な魔力によって、高次知覚処理に異常が発生していた可能性も否定できない。

対象が「何を見たのか分からない」という感覚そのものを証言することは、災厄の異常性の間接的指標となる。


四、結論と文書評価

本調書は、災厄を知覚的に経験した人物による証言として、参考価値が高い。

証言の内容は主観的印象に基づくものであり、正確性に関しては留保を要するが、災厄時に発生した異常現象(音の消失、対象の消滅、空間感覚の混乱等)を一次的に示す資料としての有効性を認める。


必要に応じ、災異心理解析班・視覚魔力波再構成班への転送を推奨。

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