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妹が、世界を壊す前に  作者: ピザやすし
第二楽章 真実を求める者たち
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第10話 一夜でできた空白

帝国の滅亡は、世界各国に動揺と混乱を引き起こしていた。

鉄道が消え、電波通信も届かない。


最初に異常を察知したのは、魔導技術を推進するアルケマリア技術連邦だった。

魔力派の定常観測データが、膨大な魔力波形を記録していた。

「帝国全域での異常な魔力波形。それに、これは特異点?」

特異点なんて観測史上初だ。

何が起きたのかを確認すべく帝国に通信を送る。

帝国からの応答は無かった。


貿易を主とする商業国であるエスペランディア自由同盟では経済の混乱が始まっていた。

線路が消失し、帝国経由の物流が遮断されていた。

帝国に近い交易都市では、早くも物価が高騰していた。


宗教国家である聖フィルデア神政庁は難民支援の準備を始めていた。

帝国領土内の全ての教会と連絡が取れなくなっていた。

大聖堂では祈りが捧げられていた。


自然信仰の強いツァラ・ユグド樹霊連邦では、そこに住まう竜たちが異変を訴えていた。

古老が帝国領土に対し言う。

「そこはもはや、踏んではならぬ地である。」

皆、それに従うのであった。


ルーヴェルミュール錬金公国では、帝国との国境付近での変性した土壌の報告が急増していた。

それは、国境付近で急激な温度変化があったことを示していた。


東国オウゲツは冒険者ギルドから各国に通達された、帝国滅亡の報で知ることになる。

「かの国の王女は、我が国の血脈を継いでおります。」

血脈と忠と義を重んじるその国は、事態を重く捉えつつも、心情的には王国に傾いていた。


そして、王国では閣僚たちが緊急会議を開いていた。

戦勝の報はあったが、帝国の消失はあまりにも異常な結果であった。

「帝国は、何らかの災厄に見舞われたのだ。我が王国も、それに巻き込まれた。」

そう主張する老臣の言葉に、異論は出なかった。

王女の暴走、と言う事実は、少なくとも今は隠さねば案らない。

一国を一夜で滅ぼす程の戦力を保持し、それ制御できていないとなれば、王国の立場は危うくなる。

国際的な責任を問われることになる。


その一方で、各国は既に動き出していた。

ギルドが保護した民間人や、救助に当たっていた冒険者から、あの場の証言が集まっていた。

ある少女はこう語る。

「すっごく綺麗だったよ。空に誰かが落書きしてて、女の人が光ってたの。」

一緒にいた老女は、あれは神罰だ、と俯いて呟く。

その場にいた旧帝国兵は、語っているうちに錯乱し始める。

「ただ、浮いていたんだ。月が二つあって……空が割れて、みんなが……みんなは……」

証言の信憑性が低かったが、その目に刻まれた恐怖は否定できなかった。


王城の一室。

シアは私室で椅子に座って窓の外を眺めていた。

あの夜のことを思い出せない。

ただ、気が付くと兄の胸の中にいた。

その温もりが、今も胸の中に残っている。


誰も彼女を責めなかった。誰も何があったのか教えてくれなかった。

「お兄様……」

厳重に魔術遮断された扉に隔たれた部屋で、外の暖かい日差しを感じていた。


各国がまだ混乱の中、技術連邦が動き出す。

彼らは数日後の国際会議を提唱。

その場で観測データを開示する、と。

「帝国の消滅は、世界規模の魔力災害によるものである。」


王国内ギルド医療施設の白い寝台に、未だ意識を戻さないジンが横たわっていた。

ギルドの依頼中の事故として、その身柄はギルドが保護していた。

背には二本の焼け爛れた傷痕。

医務官は内部からの高エネルギー放出による裂傷及び火傷、と、診断していた。

天使の羽のようだ、と、それを見た誰かが呟いた。

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