第0話 終わった世界
「ここも、ダメだったか……」
世界は色彩を失い、その役目を終えたことを伝えていた。
遠くに、空にただ浮かんでいる少女が、白く輝いて見えた。
「何度目だろうな……」
男はぽつりと呟き、深く息を吐く。
誰に問いかけたわけでもないその言葉は、崩れた街並みに吸い込まれていく。
彼は、何かを探していた。
それは希望と呼べるかもしれないし、あるいはただの可能性かもしれない。
いずれにせよ、この世界には既に存在しなかった。
「どうすれば……」
途切れた言葉に、その問いかけの無意味さが滲んでいた。
噛み締めるように首を振り、探し続けるだけだ、と、改めて自身に言い聞かせる。
男は、事前に準備していた魔法陣に魔力を注ぐ。
紫色の宝石が淡く光り、砕けて割れた。
宝石の持っていた光だけが魔法陣へと流れ込み、淡く、だが確かな存在感を放ちだす。
「救いは、あるのか?」
そう呟くと、男は色の無い空を見上げる。
そして、低く息を吸い込むと、迷いなく魔法陣の中心に立つ。
「決めたはずだ。願いは、手放さない。」
その姿が歪み、揺らぎ、そして消えた。
残された魔法陣だけが、この世界の唯一の色だった。
やがてそれも消える。
光は緩やかにその存在を失っていった。
そうして、この世界は、終わりを迎えた。




