第8話 王女護衛編〜出勤は30分前集合とか聞いてない〜
朝、アリスティアは、いつもの魔法師団本部ではなく、近衛本部にある、近衛第一部隊の事務室の扉の前にいた。
勤務時間10分前。
アリスティアが事務室の扉を開けると、すでに大半の人が席について静かに資料を読み込んでいた。
魔4では大概の人たちが10分前か、勤務時間ギリギリになって出勤する人ばかりで、いつも事務室は賑やかでうるさい。
アリスティアはここに来て早々、その違いを肌で感じた。
もう少し早くこればよかった…。
緊張して30分前に着いたのに、自分が1番になるのは気まずいかもと、近くの喫煙所で時間を潰していたことをアリスティアは後悔した。
そして、部屋全体が静まり返る中、全員に向けて挨拶をする。
「おはようございます。本日よりお世話になります。魔4のアリスティアです。よろしくお願いいたします」
頭を下げた後、顔を上げるとこちらを見ている近衛の何人かと目が合い、無言でお辞儀を返された。
そして、すぐに彼らは資料へ目を戻す。
どうしようかとアリスティアが思っていると、奥から1隊の隊長であるマクスウェルがアリスティアを見て、少し焦りながら彼女を手招きする。
「あー、アリス嬢。良かった。間に合って。じゃあ、これすぐ読んで」
アリスティアがすぐにマクスウェルのデスクに向かうと、彼はアリスティアに、デスクの上にあった数枚の書類をすぐに彼女に手渡す。
そのマクスウェルの急ぎように、アリスティアは思わず謝った。
「あ!ありがとうございます。申し訳ありません。遅かったでしょうか?」
「初日だからしょうがないね。今度からは30分前にはいてくれるかな。
この後7:00に夜勤の人たち戻ってくるから。
ミーティングしたら、あそこにいる彼らとすぐに王女殿下のとこへ向かってくれる?」
どうやら、近衛では30分前集合が規則だったようだ。
…だったらはじめから備考欄にでも書いといてくれればよかったのに。
どおりで周りの視線が冷たいはずだと、アリスティアは来て早々に古巣である魔4に帰りたくなる。
マクスウェルはアリスティアから目を離すと、事務室内の左側のデスクの島を見て、そこにいる強面の男に声をかける。
「ランデックー、今日から君の下につく魔4のアリス嬢だよ。説明してあげて」
マクスウェルの言葉に合わせて、アリスティアは緊張しながらもランデックへお辞儀をする。
ランデックは、わざとらしくため息をつくと、アリスティアには目も向けず、じろりとマクスウェルを睨みつける。
「まだ自分はその件について了承していませんが」
そう冷たく言い放ったランデックに、マクスウェルは苦笑いしながら口をひらく。
「そうは言っても女性隊員が1人もいないのは問題だろ?もうアリス嬢も来ちゃってるし。頼んだよ」
言い終わると同時にマクスウェルは、自分の役目は終わったとばかりに、自分の仕事に戻ってしまう。
ランデックも大きなため息をもう一度ついたかと思うと、アリスティアを呼ぶわけでもなく、手元の資料に目線を戻す。
その二人の様子を交互に見ながら、アリスティアは困惑する。
…え、どうしたらいいの。
呼ばれる気配もない。
アリスティアは困った末に、おそるおそるランデックの元へ向かった。
「今日からよろしくお願いします。魔4のアリスティアです」
「さっき聞いた。…その資料読んで待ってろ」
「……あの、どこに座れば」
「あ?その辺の空いてるところに適当に座れば良いだろ」
「はい」
明らかに歓迎されていないムードに、アリスティアは心が折れそうになる。
そして、近くの荷物の置いていなさそうな、空いているデスクに座り、資料を読む。
近衛1隊は王族付き護衛任務を行う集団である。
事務所は王と王妃を担当する「王班」「妃班」の部屋と、王太子や王族の子どもたちを担当する部屋の2つに分かれている。
それぞれの担当によって、班長が決められている。
アリスティアが王太子付きの太子班のデスクの島をちらっとみると、割とみんな楽しそうに話しているし、第二王子付きの王子班のエリアを見ると、優しそうな人たちが多く、隊員隊は、アリスティアと目が合うと、笑って会釈してくれる。
セシルは夜勤なのか、この場にはいないようだ。
今アリスティアがいる王女付きの王女班のエリアだけがみんな話さず、黙々と仕事をしていて、彼女はとんでもない部署に回されたものだと、内心頭を抱えた。
アリスティアは、周りに倣って静かに引き継ぎの資料を読んでいると、そのうち、ランデックが立ち上がって、めんどくさそうにアリスティアに声をかける。
「行くぞ」
「あの、どちらに」
「はぁ?控室に決まってんだろ」
そう言い放つと、ランデックはアリスティアを置いて、さっさと事務室から出ていってしまった。
***
ランデックとアリスティアが、控室で日勤の常時付き担当の隊員と待機していると、ランデックは、アリスティアを睨みながら、話しかける。
「今日は王女殿下と顔合わせだけだ。俺が殿下に紹介し終わったら、すぐ控室で待機しろ。」
「はい」
「目立つな・喋るな・指示以外動くな。わかったか」
「承知しました」
なんだこいつ。ほんとに嫌なやつだ。
アリスティアが笑顔を張り付けながら、内心ブチギレていると、印象の薄そうな顔の日勤担当のディノが苦笑いする。
「まぁまぁ、ランデックさん。相手は女の子なんだから優しくしないと、ですよ」
「うるさい。お前も少しは緊張感を持って任務にあたれ」
「おー、怖い怖い」
アリスティアがディノの方を見ると、彼はアリスティアに手を振る。
それにお辞儀をして返しながら、アリスティアは近衛には嫌味なやつか軽薄なやつしかいないのかと心の中で毒づいた。
そうこうしているうちに、夜勤明けの近衛騎士であるグレゴールが、疲れた顔をしてげっそりと室内に入ってきた。
やれやれと、アリスティアたちの方にきたグレゴールに、ランデックは眉毛を片方あげて、彼に話しかける。
「なんかあったのか?」
「あっ。お疲れ様です。隊長。…正直、今日の王女殿下は荒れるかもしれません」
「…チっ。現場慣れしてない奴がいるって言うのに。…それで?」
「昨夜、王女殿下に婚約の打診がありまして…」
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