表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラはガラスの靴を叩き割る〜魔法師団第四部隊アリスティアの場合〜  作者: 藤沢 一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

第7話 王女護衛編〜アリスティア、異動するってよ〜

朝、いつも通りアリスティアが出勤すると、魔4の入り口に魔4の隊員たちが群がっていた。

アリスティアがその周りの様子を不思議に思っていると、アリスティアに気づいたフレデリックが彼女に声をかける。


「アリス嬢、大抜擢おめでとう〜」


「なんのことですか?」


突然のことに、アリスティアが首をかしげると、フレデリックが入り口横の掲示板を指差した。

アリスティアがその張り紙を見ると、そこには臨時の移動辞令が記されている。



【王国軍中央司令部 緊急通達】


臨時令第四十六号

王歴1203年 第5月 第18日


以下の者について、王命により配置転換を命ずる。



氏名:アリスティア・ノール

現所属:王国魔法師団 第四部隊

新所属:王国近衛兵団 第一部隊

任務内容:王女殿下 護衛任務(特命)

辞令発効日:5月25日

期間:5月25日〜6月25日

備考:王女殿下の視察中に発生した未承認侵入事案における初期対応の功績、および当人の現場適応能力を鑑み、臨時措置として抜擢。



本任は王命による特命に準ずるものとし、異論の余地は認められない。

現部隊は速やかに引継対応を行い、対象者は本日中に新任地へ赴任のこと。



王国軍中央司令部

人事局・直属人事調整室


──以上──



隊員たちがアリスティアに気づくと、彼らは次々に彼女を取り囲み、声をかける。


「がんばれよー!アリス!」


「うわー、さみしくなるなぁ」


「近衛に俺らの紅一点を奪われるなんてー!最悪だー!」


盛り上がっている隊員たちとは裏腹に、アリスティアのテンションはどんどん下がっていく。


え…なにこれ…!?


慌ててアリスティアは事務室に入ると、すでに出勤していたバークの元へ、一目散に駆け寄る。



「おー、アリス。おはよう」


「隊長!移動ってなんですか!?」


「明後日から王女殿下付きだ。頑張れよ」


「いやいや!なんでそうなったんですか!!」


「お前あの合同演習の時に王女殿下を助けただろ?それにマスクウェルがいたくお前のことをかったみたいでなぁ。王妃殿下が戻るまでの一ヶ月、お前を王女殿下付きに貸して欲しいって言ってきたんだよ」


先日の合同訓練での一件をアリスティアは思い返す。


いや、それにしてもおかしい。魔団と近衛は同じ国王軍とはいえ、別組織なのだ。こんな変則的な人事異動が急に起きるはずない。それにそもそも私はたまたま王女殿下のそばにいただけで、隊長の指示で動いただけのはずなのに。


「あの一件だけで移動なんて絶対おかしいですって!!」


「ん?あぁ。どうやら近衛の方で王女殿下に撒かれたのが問題になったらしくてな。その時担当だった護衛が謹慎処分になったんだよ。もう一人も演習中に怪我したみたいで、マクスウェルから頼まれたんだよ」


近衛の王族付きは、王族一人に対して6人の三交代制で行われている。一度に2人も抜けるとローテーションが組めなくなるのはわかるが、それにしても酷い無茶振りだ。


「だからってなんで私なんですか!私平民ですよ?」


「まぁ、俺もそうは言ったんだけどな。あの一件で王女殿下もお前のことを気に入ったみたいで。まぁ、元々は貴族の出だし、勤務態度も悪くないってことで、良いだろうってさ」


「…そんなこと言われたって!めちゃくちゃ急じゃないですか!」


何とかならないか、一縷の望みをかけて、アリスティアはバークに食いつくが、バークは苦笑いして、全然取り合ってくれない。


「たかだか一ヶ月だ。あっという間だよ。まぁ、楽しんでこい」


バークに励まされるようにアリスティアは背中をバシンと叩かれる。これ以上は言ってもしょうがない。というか、もう移動辞令は出ているので、ここで駄々をこねてもしょうがないと、アリスティアは背中をさすりながら不満そうに自分のデスクに戻った。


自分の席で大きなため息をつくアリスティアに、それを見ていたフレデリックが立ち上がって彼女の肩に手を置く。


「まぁ、そんな落ち込まないでさ、色々学べるチャンスだと思って行ってきな」


「私できる自信ないですよー!!」


アリスティアは勢いよくフレデリックの方を見て、彼にしがみつく。


「先輩代わりに行ってきてくださーい!」


「あははー。俺男だから無理だよー」


「そこをなんとか!!」


フレデリックにしがみついているアリスティアに笑いながら、フレデリックは、レインの方へ顔を向ける。


「はいはい。んじゃ、アリス嬢の移動まで時間もないし、仕事の引き継ぎしようか。レインも一緒に聞いてくれる?」


「はい」


「ちょっと!2人して無視しないでくださいよ!」


フレデリックたちは、騒ぐアリスティアを適当にあしらいながら、彼女の業務を振り分けて行った。


1日かけて、業務の振り分けにひと段落ついた時、アリスティアは机に突っ伏して、ぼそぼそと文句を言う。


「近衛かぁ…やだなぁ」


切り替えができないアリスティアに、レインはため息をついた。


「お前なー、言っても変わらないだろ」


レインの言葉にアリスティアがむっとして、口を開こうとした時、フレデリックがまぁまぁ、と会話に入ってきた。


「じゃあ、今日は壮行会がてら飲みにでも行く?」


そして、フレデリックは笑いながら、レインの方を向く。


「1ヶ月とはいえ、移動だからさ。ねー?レイン」


アリスティアの移動の話を聞いてから、ずっとむすっとしていたレインは、頭をかきながらうなずいた。


「…行きましょうか」


それを聞きつけた魔4の隊員たちも反応する。



「なになに?壮行会?」


「行くかー!我らがアリス嬢の栄転だしな!」


事務室内全体で飲みにいこー!と盛り上がっているのを見たバークが、机を叩く。


「よし!じゃあ今日は俺の奢りだ!!」


バークの発言に隊員たちは大いに盛り上がって、アリスティアそっちのけで店選びを始めた。

その様子に、アリスティアは唇を尖らせて、文句を言う。



「私にかこつけて飲みたいだけじゃないですかー?」


バークが笑いながら、そのアリスティアの文句を全肯定する。


「わーっはっはっは!その通りだ!」



***



就業時間後、アリスティアたち魔4のみんなは、いつも行く居酒屋にきていた。

壮行会とは名ばかりで、乾杯して1時間も経てば、魔4の隊員たちはアリスティアそっちのけでお酒を片手に大暴れしている。

アリスティアはそんな隊員たちを意にも介さず、テーブルに項垂れていた。

そんなアリスティアの様子を隣にいるレインはめんどくさそうに見て、持っていたジョッキを煽った。


「そんな落ち込むことないだろ。長期の遠征行く時と変わんねーよ」


なんてことないように話すレインにアリスティアは、レインをじろりと睨む。


こいつ、絶対他人事だと思って適当に言ってる…

まぁ、実際レインにとっては他人事だけどさ。


「じゃあレインがそうなったら喜んで行くの?」


「絶対嫌だ」


「ほら!レインだってそうなんじゃん!」


「つーか、俺元から平民だし。絶対呼ばれることねーもん」


「うわ!ずるー!」


「別にずるくないだろ」


頬杖をつきながら2人のやりとりを見ていたフレデリックがアリスティアの方を見て優しく笑う。


「…なんか辛いとこあったらいつでもこれ、付き合ってあげるから。ね?アリス嬢」


フレデリックはそう言うと、ジョッキを持っていた手をあげ、カラカラーっとふる。


「…頑張ってきます」


「うん。頑張っておいで」


アリスティアは、気合をいれて、勢いよく立ち上がると、魔4のみんなを見渡す。

そして、持っていたビールを一気に飲むと、大きく息を吸い、みんなに向かって叫んだ。


「皆さん!いってきまーす!」


いつものように勝気な笑顔でアリスティアは笑った。



***


飲み会が終わった帰り道、前を歩く酔っぱらいの魔4のみんなを眺めながら、ほろ酔いのアリスティアとフレデリックはゆっくりとその後を並んで歩いている。

少し離れたところから聞こえる、賑やかな話し声にかき消えそうな声で、アリスティアはフレデリックにポツリとこぼす。


「…1ヶ月なんて、すぐですよね」


「すぐだよー」


「私、やってけますかね」


「どうだろうねぇ」


フレデリックは物腰こそ柔らかくて優しいが、甘いことは言ってくれない。

アリスティアは少しムッとして口を開く。


「そこはできるよとか言ってくださいよ」


不満そうなアリスティアの声に、フレデリックは軽い調子で笑う。

そして、少し考え込んだあと、優しい目線でアリスティアを見た。


「んー…。アリス嬢もわかってるから不安なんでしょ?社交界はそんなに甘くないって」


「…まぁ、そうなんですけど」


ちょっと顔が曇るアリスに気づいたフレデリックは、アリスの髪をぐしゃぐしゃーっと撫でる。


「うわっ」


「しょうがないなぁ。…寂しくなったらすぐ連絡してきていいよー?」


茶化しながら言うフレデリックに、アリスはクスッと笑った。


「…ありがとうございます」


「アリス嬢は、俺の後輩だからね」


月の光が照らす中、アリスティアはまたこうしてみんなで飲める日を胸に、帰り道をゆっくり歩いた。

ここまでお付き合いありがとうございます!


よかったら、コメントや評価で感想もらえるととても嬉しいです!

作品づくりの励みになります! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ