表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラはガラスの靴を叩き割る〜魔法師団第四部隊アリスティアの場合〜  作者: 藤沢 一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

第5話 合同演習編 〜王女殿下乱入事件〜

15:30

後方ライン

合同演習の訓練開始から1時間ほど経った頃だった。各陣営の戦闘も盛り上がりを見せており、前線は王城内部の使用人居住地区へ移動し始めていた。

C班のアリスティアたちが、戦闘後の動線の整理や、負傷者の移動の補助を行っていると、彼女たちの通信魔道具から、バークの焦った声と共に、とんでもない情報が飛び込んできた。


『近衛からの情報だ。どうやら王女殿下が侍女と2人で訓練エリア内に侵入したらしい。内門を西から侵入してそこから行方不明。C班は捜索に当たってくれ。』


『『『了解』』』


今日の訓練で視察に来るのは王太子だけの予定のはずだ。

それに護衛騎士を連れずに侍女と2人だけということは、十中八九、お忍びでこっそり見にきたのだろう。


アリスティアはバークの焦りと情報から、そう結論付け、急いで近くにいる後方支援部の魔3の隊員や、近くにいる物資担当に聞き込みをする。しかし、それらしい情報は得られない。

5分ほど聞き込みを続けていると、通信魔道具からフレデリックの声が聞こえた。


『こちらリック。救護エリアにて聞き込みをしたところ、王女殿下をB地点で目撃したとのことです』


フレデリックの報告を受け、間髪入れずにバークはアリスへ無線を飛ばす。


『アリス、向かえるか』

『了解です!』


C班の中でB地点に1番近かったアリスティアは、走ってポイントへ向かう。すると、日傘を侍女に持たせながら、歩きにくそうに通路に散らばっている物資を避けながら、こちらへ歩いてくる王女殿下を発見する。

アリスティアはほっとして、すぐさま王女殿下の元へ走って向かいながら、バークへ報告をする。


『こちらアリス。王女殿下をB地点付近ではっ…あぶないっ!!』


「きゃっ!」


アリスティアの目の前で、王女殿下が地面に落ちていた物資につまづいて、転ぶ。

アリスティアの声に反応したのか、通信具からバークの焦った声がする。


『おい、アリス!どうした!大丈夫か?』




***



16:00

本部。

本部テントでは、王太子一行や、上層部の人間たちもみんなバークの周りに集まって、難しそうな顔をしながら現場の様子を伺っている。

通信具から響いたアリスティアの危ない!という声に、テント内にざわざわと動揺が広がった。


王太子のそばでその様子を見守っていたセシルは、アリスティアの声を聞いた瞬間に、自身の上司でもあり、同じ護衛騎士の先輩に小声で声をかける。


「あの、俺、王女殿下を迎えに行ってきていいでしょうか?」

「え?あ、あぁ、行ってこい」


不意をつかれたのか、セシルの上司は頷きながら、おざなりに返事をする。

上司の許可を得るとすぐにセシルはテントを飛び出した。


頼む。何かあってくれるなよ。


そして全力でアリスティアのいる現場へセシルは走った。



***


16:00

後方ライン。

とっさにアリスティアは地面にぶつかる前に王女殿下を抱き止めていた。


「王女殿下、お怪我は」


アリスティアは王女殿下が体勢を整えるのを補助している。

王女殿下はゆっくり起き上がると、クスリと笑った。


「あー!びっくりした!平気よ、ありがとう。かっこいいのね、あなた」


王女殿下がアリスティアに笑いかけていると、そばにいた侍女が半泣きになりながら王女殿下に話しかける。


「姫さま〜だからもうやめときましょうって〜」


侍女が総進言すると、王女殿下はつんと顔を背ける。


「うるさいわよ。アンナ。私も王族ですもの。視察くらいして良いはずよ?」


なんだか気の抜けるようなやり取りをしている王女殿下を見て、一旦大丈夫かなとアリスティアは思い、バークに報告する。


『アリスです。王女殿下と合流いたしました』

『おい、何があった』

『現場に物資が散乱しており、それに王女殿下がつまづきそうになりました。

私が間に合って受け止めましたので、問題はありません』

『分かった。今そちらにセシルくんが向かってる。

近くの危険のない場所で待機するように』

『了解です』


アリスティアが連絡を取り終わると、王女殿下と、きゃっきゃと話している侍女に話しかける。


「これからこちらに近衛兵団の者が参りますので、それまで私と一緒にあちらで待機いただいてもよろしいでしょうか?」


すると、その言葉を聞いていた王女殿下が身を乗り出してアリスティアに近づいた。


「ねぇ!迎えに来るのって、だぁれ?」

「あ、ちょっと!姫さま!お行儀が悪うございますよ!」


侍女の忠告を無視する王女殿下にやれやれと思いながら、アリスティアは口を開く。


「近衛1隊のセシル・レグノーがこちらに向かっております」

「まぁ!セシルが来るのね?」


王女殿下はセシルの名前を聞くと、目をキラキラさせてテンションをあげる。


さすが近衛の王子様。


アリスティアは心の中で、今向かっているだろう、あのイケすかない野郎に鼻で笑いながら賛辞を送る。

アリスティアが現場の錯乱している物資を整えている間も、王女殿下は弾む声で侍女に話しかけている。


「セシルが来てくるなんて夢のようだわ!ねぇ、アンナ、やっぱり来てよかったでしょ?」

「姫さま〜!そ、そんなことで護衛を撒いてはいけませんよ〜」

「うるさい!アンナ!あなた生意気よ!」


そうこうしているうちに、走ってきたセシルがアリスティアたちのいる現場に到着した。

そして、周りの物資を整理してたアリスティアに近づき、膝をつくと真剣な表情で彼女を見た。


「助かった。この借りはいずれ必ず」

「いえ。お役に立ててなによりです。それでは私はこれで」


アリスティアが立ち上がり、一歩下がると、王女殿下が彼女に向かって、にっこり笑いかけた。


「ありがとう。美しい勇敢な魔法師さん」


「いえ。お怪我がなくてなによりです」


アリスティアも王女殿下に微笑みかけ、かつて、男爵令嬢だった時に王族にしていた、カーテシーではなく、魔法師として、一礼する。


王女殿下は、アリスティアのお辞儀を受け終わると、セシルの方へくるりと向き直り、甘えた声を出す。


「セシル!私こんな歩きにくい場所ではもう動けないわ。ほら、見て?ドレスも汚れてしまったの」


上目遣いでセシルを見上げる王女殿下に、セシルは2、3秒固まった後に、彼女へにっこりとした笑顔を向けた。


「では、王女殿下、私が抱えて本部までお連れしても?」


「えぇ。ほら、いつもみたいに連れてって。セシル」


セシルはまるで王子様のように優しく王女殿下を抱き抱えると、そのまま侍女をつれて本部へ歩いていった。

一人残されたアリスティアは弾むような王女殿下の声と、それに優しく応えるセシルの話し声を背に、自分の持ち場へ駆けていった。

ここまでお付き合いありがとうございます!


よかったら、コメントや評価で感想もらえるととても嬉しいです!

作品づくりの励みになります! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ