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第4話 合同演習編 〜演習準備02〜

10:00

設営準備も終わりに中盤にさしかかり、アリスティアたちは設営した本部で細々と書類などをまとめている。すると、本部のテントにセシルがやってきた。


「お疲れ様です。本日はよろしくお願いいたします」


1週間前、彼が魔4に訪れてアリスティアに意味深に絡んだ出来事は、まだ魔4の隊員たちにとって記憶に新しい。

本部の中にいた隊員たちは、セシルの姿を見るなり、一斉にアリスティアの方を見た。

アリスティアはその突き刺さった視線に、少しだけ顔を赤らめながら、な、なによ?と小さく呟く。

そんな魔4の雰囲気を察したセシルは、ニヤリと笑みを浮かべる。そして、みんなの視線に応えるかのように堂々とした足取りでアリスティアに近づくと、彼女に声をかける。


「あぁ、アリスティア嬢もこんにちは。魔道服も似合ってて、お綺麗ですね」


さらっと慣れたようにアリスティアを褒めるセシルに、魔4の隊員たちは、おぉ〜と反応する。


ほんと、なんなの、こいつ。


セシルが来ると、調子を崩されてしまうのが悔しくて。

アリスティアは、負けてたまるかと、平常心を装いながら、セシルに返事をする。


「…どうも。それで、ご用件は?」


アリスティアにゆっくりと近づくセシルに、アリスティアの頬が赤く染まる。

周りの隊員たちは完全に観戦ムードでほうほう、と2人を眺めている。


「今日の王太子の視察時間の最終確認に参りました。ランベル隊長はどちらに?」


「…少々お待ちください。こちらへ」


アリスティアは観客と化している隊員たちから隠れるようにセシルをテントの隅に案内すると、耳につけていた通信魔道具で、バークに連絡を取る。


『ランベル隊長、近衛のセシル氏が本部にお見えです』

『あー、すまない。今カイたちに開始地点を案内してて、待つように伝えてくれるか?』

『了解です』


通信を終えると、アリスティアは待っているセシルに声をかける。


「…あの、隊長はただ今席を外しておりまして、あと20分ほどで戻るかと思いますので、少しお待ちいただけますか?」


「…あぁ、でしたら、特に変更内容もないですし、王太子の入り時間の確認と、観戦スペースの確認だけさせていただけますか?」


え?私が対応すんの?


心の中でアリスティアはそう呟くと、誰か代われる人がいないか周りを見るが、みんなこちらをちらちら見ながらも忙しそうに働いている。


「…承知しました。観戦スペースの方はすでに設営済みですので、そちらから案内します。」


自分が対応するしかないか。


アリスティアは本部テントと地続きになっている、テント奥のパーテションで区切られている王太子用の観覧スペースへセシルを案内する。


「出入り口は、こちらからの一方向のみとしております。

また、お手洗いの際は、外門の門兵用のお手洗いをご入り用いただくことになります。

訓練場所の関係で、一般隊員と同じ場所をご使用いただくことにはなるので、その点だけご留意ください」


淡々とアリスティアがテント内を歩きながら案内をし、観覧スペースを見て、頷きながらセシルはおとなしくアリスティアの言葉を聞いている。

続けてスケジュールの確認をと、アリスティアは手元に持っていた全体進行表を広げる。


「えー、この後ですが、12:00まで設営と各隊準備となります。えーと、予定では…」


アリスティアが王太子の入り時間を資料の中で探していると、横からすっとセシルがアリスティアの持っていた紙を覗き込む。


うわっ…ち、近い!

し、しかもなんでこいつなんかいい匂いするの!?


アリスティアはビクッと肩をすくめて、体温が上がるのを感じた。


い、今は仕事中。

気のせい、気のせい。


アリスティアが頭の中で必死に心を落ち着かせいると、セシルが進行表に記入されている王太子の入り時間の場所に指を指す。


「…王太子殿下の到着は、12:30を予定しておりますこのまま予定通りで大丈夫そうですかね?」


「…問題ありません」


ようやくこれで乗り切った…とアリスティアが息を吐こうとした時、セシルはアリスティアの顔を覗き込み、小声で囁いた。


「…顔、真っ赤」


意地悪そうな顔をして笑うセシルに、アリスティアは顔をしかめて、はぁ?と言う。すると、すぐにセシルはアリスティアから離れ、真剣な表情に切り替える。


「ありがとうございます。では、私はこれで」


そしてアリスティアの返事を待たずに、セシルはいつものにこやかな笑みを浮かべて、ありがとうございました。と言いながら本部テントを去っていった。


セシルと入れ違いにアリスティアを呼びに来たレインが、彼女の元へ歩きながら、怪訝な顔でセシルが去っていった方を向いている。


「おい、そろそろ最終打ち合わせ始めるぞ。…お前、あいつになんかされなかったか?」


「…何にもされてないって。普通に最終確認と場所の案内しただけよ」


レインがアリスティアの顔を覗き込もうとすると、アリスティアは赤くなった顔を隠しながらレインを押し除け、魔4のみんなが集まっている場所へそのまま小走りで向かった。




アリスティアがセシルの対応をしていた時にバークは戻ってきていたようで、バークを中心に魔4隊の面々は机に広がった今回の合同演習の配置図を見ている。


「じゃあA班は、近衛側のエリアC内、B班は魔団側内門エリア内で、動線整備及び、交通整備隊、魔5隊と連携しつつ、訓練エリア区域の制御を」


「了解!」


「C班は、後方ラインで動線確保及び救護人の搬送、撤収を」


「了解!」


C班の班長であるフレデリックを中心に、アリスティアや、レインたちは敬礼をする。


「何か質問は」


バークが隊員たちを見ると、フレデリックが手を挙げる。


「あの、今回のVIP対応については、如何いたしますか?」


「あー、それは大丈夫だ。全部近衛の方で対処するらしい」


「了解です!」


「じゃあ以上!解散!」


各班に別れて隊員たちが散らばると、フレデリックがアリスティアの隣に並び、話しかける。


「さっきまーたセシル氏に絡まれてたね〜?」

「あ、ええ。全く何考えてんだかって感じです」


アリスティアは、はーっと深くため息をつく。あの舞踏会から、セシルはアリスティアを見つけると何かと理由をつけて話しかけにきて、その度にアリスティアは彼に翻弄されている。

アリスティアの深いため息を見て、フレデリックは少し心配そうにしている。


「…もし、あのセシル氏の絡みがしんどいんだったら俺から話しておこうか?」


周りに聞こえないように配慮しているのか、フレデリックは声を潜めてアリスティアに声をかけた。

こんなことでフレデリックに心配をかけて、ダメな部下だと思われたくない一心で、アリスティアは明るく返す。


「いやいや、大丈夫ですよ。個人的な問題ですし、先輩にそんなことで迷惑かけれないですって。それにわりと言いたいことも言ってるので」

「そっかー。ならいいけど。あんまり無理しすぎないよーにねー」


なんてことないように笑うアリスティアを見ると、フレデリックは苦笑しながら彼女の頭を優しくポンっと撫でた。

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