第19話 仮面舞踏会編~姫と平民~
アリスティアは割れたガラスの靴を手に持ち、バラスたちの方へ真っ直ぐ向けると、リシェリアの前に立ち上がった。
その予想外の動きに一瞬場が凍りつく。
しかし、バラス伯爵はすぐさまセシルを捕まえている案内人に怒鳴りつける。
「何をしている!早くこの赤毛を撃て」
「今彼女を撃つと後ろの姫さまにも当たる可能性がありますが」
淡々と答える案内人にバラス伯爵は舌打ちする。
アリスティアはそのまま破片をバラスに向けたまま、口を開いた。
「リシェリア様。貴女の真っ直ぐな想いは、こんな下衆に利用されて良いものではないはずです。
貴女がセシルのどんな姿に恋をしたかは私には分かりませんが、少なくとも人形のようになった彼ではない。」
アリスティアが淡々と話す中、リシェリアは静かに涙を流していた。
そんなアリスティアの言葉を聞いたバラス伯爵は、彼女の言葉を鼻で笑った。
「姫さまを騙していたお前が何を言う。
そもそもお前こそかつては私の操り人形だったじゃないか。姫さま、こやつはかつて私の屋敷で父親の言いなりになって接待の道具にされていたやつですよ。そして今では平民落ちした、話す価値もない」
バラス伯爵のニヤけた様子に、周りの視線は一気にアリスティアに集まった。
アリスティアはかつて、父が生きていた頃のことを思い返す。
知らない大人達に囲まれ、父の言いなりになって耐えていた日々。
アリスティアは震える手を握り締め、笑った。
「ええ。だからこそ、ですよ。リシェリア様。貴女はこの国の大切な宝です。私なんかよりもよほど大切な、この国が守るべき存在です。…だからこそ、その御身を大切になさってください」
どうかリシェリアに、自分の立場の大切さが伝われと願いながら、アリスティアは言葉を繋げる。
「人の想いはままならないものです。
……私は平民落ちした身で犯罪者の娘でございます。
そんな私が誰かと恋なんかと思って今まで生きながらえてしまいました。
リシェリア様の恋路の邪魔をしてしまったことについて、私は謝りません。……私は彼の想いを否定できないからです。
しかし、後でその罪を償えとリシェリア様がおっしゃるなら、私はその沙汰を甘んじて受けます。
でもどうか、ご自身の王族としての誇りを。
……お願い致します。姫さま」
リシェリアはアリスティアの言葉を一言一言噛み締めた。
そして、震える声で口を開いた。
「……バラス伯爵。貴方の提案は、国を揺るがす行為にあたります。私は貴方の提案を飲むことはできません」
リシェリアの凛とした声に、バラス伯爵は苛立ちを隠さないまま大声で怒鳴りつけた。
「何も知らない箱入りの小娘が。姫さまに当たっても良い。……いや、いっそこいつごと葬れ!隣国の婚約者の席さえ空けばなんとでもなる。さっさとこいつらを殺せ!!」
バラス伯爵がアリスティアたちを指差しながら喚き散らすと、それを聞いていた案内人が小さく笑った。
「……その言葉を待っていた」




