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シンデレラはガラスの靴を叩き割る〜魔法師団第四部隊アリスティアの場合〜  作者: 藤沢 一


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18/20

第18話 仮面舞踏会編~シンデレラはガラスの靴を叩き割る~

案内人の指示に従って通されたのは、調度品が並べられた一室だった。

アリスティアが部屋の窓を覗くと、そこでは禁止されているはずの人身売買という闇オークションが行われていた。

よく見ると、自国の人間だけでなく、隣国からの人間も混ざっているようだ。隣国の特徴的な民族衣装を着たものも一緒に並べられているのが見てとれた。

なぜこんな場所に姫さまを通したのか。

バラス伯爵の思惑はなんなのか。

アリスティアが震える手を誤魔化しながらセシルの方へ向くと、後ろに立っていたリシェリアが泣いているのが見えた。


「なんで……。ねぇ、なんで黙ってたの!?アリス!」


泣きながらアリスティアに詰め寄るリシェリアを抱き留めながら、アリスティアは口を開いた。


「姫さま。私と彼は交際しておりません。それよりも、今は……」


「そんなの嘘だって分かってるわ!酷い!ねぇ、なんでなの!」


今はこんなことで揉めている場合ではないと、アリスティアがリシェリアを諌めるがうまくいかない。

2人の元へセシルが歩みより、泣くリシェリアに視線を合わせた。


「姫さま。彼女の言っていることは本当ですよ」


リシェリアの涙はほんの少しだけ止まって、セシルを見返した。


「……え、じゃあなんで」


「自分の片想いですので」


セシルは少し困り顔でリシェリアに笑いかける。


「……それに自分は、きっと姫さまが思うほど紳士じゃない」


静かになった部屋には遠くから聞こえる競りの声が響いていた。

アリスティアが抱き留めていたリシェリアから手を離そうとした時、部屋の扉が開いた。


「さきほどぶりですなぁ。みなさま」


にこやかに部屋に入って来たのは廊下ですれ違ったはずのバラス伯爵だった。

アリスティアは離そうとしていた手を戻し、リシェリアをバラスから隠すように体制を取る。

次の瞬間、バラスの横にいた、ここへ自分たちを案内した男が、常人ではありえない速度でセシルを捉えた。


「動くな」


セシルを捉えた男は、くぐもった声でアリスティアたちに命令した。

その男の様子にアリスティアは自分は愚か、セシルでも太刀打ちできる相手ではないことを察する。

カイさんに助けを求めようと近くで一緒にしゃがんでいる虎男に視線を送ると、小声で返ってきたのは、知らない男性の声だった。


「スイマセン……」


隣国混じりのイントネーション。

大きなガタイ。

セシルの態度。

カイさんはもっと細くておしゃべりだったはずなのに……

アリスティアはなぜ今まで気づかなかったのかとほぞを噛んだ。


彼はリシェリアの婚約者、隣国の王太子のラウル王子その人だった。

絶望的な状況になす術がないアリスティアたちを無視するようにバラス伯爵は1人悠々と近くの椅子に腰掛けた。


「いやはや、手荒な真似をしてすまないね。しかしこれは私なりの姫さまへのご配慮なのですよ」


バラス伯爵は持っていた葉巻の先を切ると、ジッポで火をつける。


「最近姫さまが何やら隣国の王太子とご婚約されるという話を小耳に挟みましてね?」


アリスティアは震えるリシェリアを落ち着かせながら、必死で頭を動かし続ける。


「姫さまは健気にもこの男に恋をしていると伺いまして。そんな純粋な思いは報われるべきだと臣下として思ったのですよ」


バラス伯爵は杖でセシルを差しながら、葉巻の煙を吐いた。


「それなのにお可哀想な姫さまはそこの赤毛の裏切り者に彼を唆されてしまった。これは非常に良くない。だから私は考えた。私が姫さまとこいつが駆け落ちすることを微力ながら手助けさせていただこうと」


そう言いながらバラス伯爵は葉巻を消すと、セシルの髪の毛を掴んだ。


「なぁに。ちょっと私がこいつを手懐けて間違っても他の女にいかないよう、姫さまの言いなりの人形に仕立て上げますので。いかがですかな?」


ニヤニヤしながら話すバラスに、リシェリアの瞳が涙で揺れるのがアリスティアには見えた。


アリスティアはリシェリアから離れ、立ち上がる。

次の瞬間、履いていたガラスの靴を叩き割った。

そして砕けたガラスの欠片をバラス伯爵に真っ直ぐに向け、顔を上げた。

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