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シンデレラはガラスの靴を叩き割る〜魔法師団第四部隊アリスティアの場合〜  作者: 藤沢 一


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第15話 仮面舞踏会編~嫌な予感しかしない~

アリスティアがセシルと飲み会に行った数日後、通常護衛のローテーションが回ってきた今日、彼女はリシェリアの自室にいた。

護衛であるアリスティアは本来いるべき控室ではなく、リシェリアの部屋に呼び出されていたのだ。

そして今、絶賛リシェリアが待ち望んだセシルの情報の報告をしてと詰め寄られていた。


「それで?聞いてくれたのよね?どうだったの?」


リシェリアのキラキラした目にアリスはちょっと引きながら、笑顔を引き攣らせる。

どこまでを話すべきか迷いながら、アリスティアは重い口を開いた。


「あー……セシル氏は自立した女性が好みのようです」


アリスティアの言葉にリシェリアは、ポカンとする。

貴族女性に自立した女性など一部の女性を除いて存在しない。

セシルの意図がリシェリアには全く伝わらず、彼女は混乱した。


「なにそれ。変わっているわね。それで?彼のドレスの好みや好きな香水は?」


セシルの好みがわからない以上、彼の好みを見た目から寄せた方がセシルに気に入られるかもしれない。

そう考えたリシェリアは、アリスティアの答えは一旦、横に置いて、更なる情報を求めてアリスティアを質問攻めにする。


「そ、そういったことには彼は興味がないようでした。有益な情報を取って来れず申し訳ありません」


「なーんだ。がっかり。これじゃあ聞いてきてもらった意味がないじゃない」


膨れっ面をしたリシェリアを前に、昨日の会話が頭を掠めたアリスは喉を鳴らした。

セシルからもぎ取ったあの情報をリシェリアに言うべきか、黙るべきか。


アリスはリシェリアがぶつぶつと文句を言う姿を見ながら、セシルとのやりとりを思い返していた。



***



セシルとの飲み会をした翌日、アリスティアは近衛本部の裏手に設置されている喫煙所にセシルを呼び出して、懇願していた。

なにも成果を持っていけなかったら、あのお姫様が次に何をしでかすかわからない。

切羽詰まったアリスティアは、もうどうにでもなれとリシェリアがセシルの情報を欲しがっていることを暴露した。

タバコも吸わずにセシルに拝み倒すアリスの様子に、セシルが苦笑いをする。


「何か情報、ねぇ…」


「なんでも良いわ。いっそなんかいつもこの時間にここにいる。とかでも良いから何か教えてくれない?」


アリスの必死な様子に、セシルはしばらく考え込んだ。

そして、吸っていたタバコの火を消すと、おもむろに伝達蝶を呼び出し、どこかに蝶を飛ばした。


「どうしたの?」


「魔2の隊長から一緒に仮面舞踏会に出れないかって打診があったんだ」


「魔2って、カイ隊長?え、あなたカイ隊長と仲良いの?」


カイ隊長といえば、若くして魔団屈指の前線部隊である魔2をまとめる自由人でこの国最強の魔法師である。


「士官学校時代の先輩で、ほんとたまに誘われるんだよ。仲が良いってほどでもない」


アリスはセシルの人脈の広さに驚いた後に、仮面舞踏会という単語を思い出す。


「って、え?仮面舞踏会?」


仮面舞踏会はその名の通り、貴族たちが仮面をつけて身分を隠して遊ぶ舞踏会だ。

大抵のものは、非公式にひっそりと行われており、黒い噂も絶えない。


「そう。なんか久しぶりに連絡してきたかと思ったら1週間後にある仮面舞踏会に一緒に来いってさ」


「え、どういうことなの?」


「あの人要件しか話さないから俺もよく知らないんだよね」


あのカイ隊長ならありえると、アリスが共感してると、セシルの元に伝達蝶が戻ってきた。


「あー、大丈夫みたいだね。これ、リシェリア様に報告していいよ」


伝達蝶を確認した後にセシルは笑顔でアリスに言うが、アリスは首を横に振る。


「いやいやいやいや!仮面舞踏会って怪しいじゃない!そんな場所へ姫さまを連れて行けないって」


たしかにセシルに会える場所を提供したらリシェリアは喜ぶかもしれないが、そんな危ない場所へ姫さまを連れてはいけない。


「行くかどうかは分からないだろ?それにカイさんがいるんだ。そこらの舞踏会へ参加するよりよっぽど安心だろ」


「それはそうだけど……」


結局、セシルに一緒にランデックにも報告して許可取ればいいだろと言われ、アリスティアはしぶしぶ引き下がったのだ。



***



できればこの手は使いたくなかった…


アリスは不満気なリシェリアが次の作戦を思いつく前に、口を開いた。


「セシル氏は1週間後に行われる仮面舞踏会に参加するようですよ」


話した瞬間にアリスの中で物凄い後悔が渦巻くが、リシェリアはぱっと表情を変え、身を乗り出す。

それと同時に仮面舞踏会という単語に、近くに待機していた侍女のミレイユがぎょっとした。


「まぁ!姫さま。そんなはしたない場所へ行くなんて許されませんよ」


ミレイユから非難の目が刺さり、アリスは目線でミレイユに謝罪をする。

ミレイユに静止されたリシェリアは、出鼻をくじかれ、彼女を睨みつけた。

アリスティアは、このままどうか止まってくれと願うが、そんなことで止まるリシェリアなら、周囲はこれほど苦労していない。


「なによ!こっそり行けばミレイユにも迷惑かからないでしょ?お願い!聞かなかったことにして」


ミレイユに諌められても止まらないリシェリアを見ながら、アリスティアはため息が出そうになるのを堪えた。


「非公式ですが、ランデック副隊長にも報告して、リシェリア様が参加するかもしれない旨は伝えてありますし、国王様もご存知です」


セシルからこの情報をもらった時に、魔団側で何か動きがあったらしい。

アリスがセシルと共に、この話をランデックへ持って行った時には、すでに近衛でも周知の事実となっていた。

ランデックは国王様も何を考えているんだかとぶつぶつ言いながら、今回の話をリシェリアに持っていくことをアリスティアに許可したのだ。


「まぁ!それなら大丈夫ね。ありがとう!あと少しであなたが私の護衛から外れるのが惜しいわ。お父様にお願いしてアリスをずっと私付きの騎士にしてもらいたいくらい」


リシェリアの言葉に苦笑いしながら、アリスティアはそれだけは勘弁してくれと、やんわりと口を開いた。


「過分なご評価、ありがとうございます。ですが、元々の取り決めですので私にはなんとも……」


アリスの態度に察したものがあったのか、ミレイユが口をはさんだ。


「そうですよ。姫さま。あまりわがままばかりはいけませんわ。彼女は姫さまのためにできることを精一杯やってくれております。これ以上はいけません」


「もう。わかったわよ。言ってみただけじゃない」


リシェリアは、ミレイユにふんっと言ってそっぽを向く。

そしてすぐに気を取り直すと、立ち上がってアリスティアたちに宣言した。


「そうと決まったら、仮面舞踏会に向けてドレスを選ぶわよ!ミレイユ!アリス!ついていらっしゃい!」


アリスティアは、やる気満々のリシェリアに、今晩の業務は長くなるぞと、天を仰いだ。




──そして、仮面舞踏会でアリスティアは「絶対に再会したくなかった人」と再会することになる。

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