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シンデレラはガラスの靴を叩き割る〜魔法師団第四部隊アリスティアの場合〜  作者: 藤沢 一


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第14話 月は綺麗ですか?

リシェリアの要望に応えるため、アリスティアがセシルのところへ行くと、話を聞いたセシルは訓練の時の約束もあるしと彼女を誘って少し遠くのレストランに誘った。


「んで?なんだっけ。俺の好みが知りたいんだっけ?」


運ばれてきたワインを飲んでセシルはアリスティアを見た。


「あー……まぁ私が知りたいんじゃないんだけどね」


リシェリアの指示とはいえ、直球で聞きすぎたかも。と、アリスティアはしどろもどろになりながら誤魔化すようにビールを煽った。

その様子を見ていたセシルは、ふーんと小さく呟くと、口を開く。


「俺の好みは、、、」


そのままセシルはアリスティアを顎で指した。


「なに」


セシルを目が合ったアリスティアは怪訝そうにセシルを見返す。

アリスティアの困惑した様子に、セシルは軽く笑った。


「んー……だから、君。君みたいなのがタイプだよ」


「はぁー!?ちょっと真面目に答えてよ」


またこの男はテキトーにあしらって!と眉をひそめるアリスティアをセシルは頬杖をつきながら眺めている。


「結構真面目に言ってんだけど」


「ちょっと……」


「少なくとも貴族のご令嬢みたいな女の子らしい淑女は好みじゃないよ。しがらみとかめんどくさいし」


セシルはつまらなさそうにワイングラスをかたむけながらアリスティアに説明した。

なるほど、セシルが言っていたのは平民がいいって話で私を例に出したのか。とアリスティアは1人納得しようとする。

が、よくよく考えるとこんなことリシェリアに伝えられるわけがない。


「なんかもうちょっと無難なのでいいからさ!何か言ってよ」


「んー……そうだなぁ。じゃあセシルは強い女が好みです。ゴリラみたいなって言っといてよ」


どうやらセシルはアリスティアがなぜ彼に好みを聞いたのか察しはついてるらしい。

アリスティアはセシルの答えではリシェリアに報告できるわけないと、もう!と声を荒げた。


「そんなこと言えるわけないじゃない!なんかさ!あるでしょ?背が高いとか見た目がこういう人とかさ!」


「あはは、わかったわかった。んー、じゃあ自立した女性が好み。あとは泣かない女」


「聞けば聞くほどあなたの好みって変わってる」


普通は儚い女性とか、可愛らしい女性を好むのではないのだろうか。

ゴリラは言い過ぎだとしても、セシルの好みはアリスティアの予想の斜め上をいくものばかりだ。


「そうかな?わりとよくいると思うけど」


よくいるって言われたって、アリスティアの目的はなんとなくそれっぽい情報をリシェリアに渡すことで、これでは到底報告なんかできるわけないと、アリスティアはため息をついた。


「そもそも俺は諦めさせろって上から言われてるからアリス嬢の望むって言うか、彼女の望む答えは言わないよ?てかなんでそんな密偵みたいなことやらされてるの?」


「分かってるけどこっちにも色々あるのよ」


セシルがその色々を話せとアリスティアに視線を送ったのを見て、アリスティアはセシルから目を逸らしながらビールを飲む。


「こないだの舞踏会でちょっと揉めたじゃない?」


アリスティアが先日の舞踏会の話題を出すと、セシルはアリスティアに頭を下げる。


「巻き込んで悪かった」


セシルの謝罪にアリスティアは少しギョッとする。

相変わらずこの男は変なところで律儀だ。


「いや、いいのよ。それは。私もあそこまでのことになると思ってなかったし。まぁ、それで私も裏に回されるかなぁって思ってたんだけどね…」


「それで止まるようなお姫様じゃなかったってことか」


「まぁ、そんな感じ」


アリスティアの話を聞きながらセシルは先日の出来事を思い返していた。

そして、しばらく黙ったあと、そのままアリスティアを見ないで小さい声で聞く。


「……泣いたりした?」


「あぁ、父のこと?泣かない泣かない。別にはじめてじゃないし。ああいうこと言われるの」


アリスティアがなんでもないことのように笑うと、その様子を見ていたセシルは、うーんと考え込んだ。


「いっそ婚約でもする?」


セシルの提案にアリスティアは持っていたフォークを落としそうになった。

アリスティアがまたいつもの軽口だと思って怒りながらセシルを見ると、アリスティアの予想に反してセシルは真剣な顔をしていた。

その様子にえっと呟くと、アリスティアは慌ててビールを煽る。


「いやいや。そういうことはちゃんと好きな子のために取っておかないとダメじゃない。大体私と婚約なんかしたらあなたのお家も許さないだろうし、今の仕事も下ろされるかもしれないのよ?」


「別に俺三男だから侯爵家の籍抜けば問題ないし、俺、元々は魔団希望だから俺にもメリットしかないんだよ。俺貴族になる気ないから」


真面目な顔して平然と言い放つセシルに、アリスティアは心臓を抑える。


「てか!今もし、仮に!仮によ!?私たちが今婚約なんかしたらそれこそ私がクビになるわ!」


顔を真っ赤にしたアリスティアの勢いにセシルはふっと気が抜けて、笑う。


「たしかに。そっちのが大変か」


そしてセシルはふーっと息をつくとワインを飲んだ。


「まぁ俺はご令嬢たちからの色々もなくなるし、楽になるんだけどなぁ」


先程までの真剣な雰囲気が消えたことにアリスティアはほっと息をついて、セシルに忠告した。


「そんな理由で婚約なんか口にしちゃダメよ」


「そんな理由、ねぇ」


セシルはそう小さく呟くと、ワインのおかわりを頼んだ。


アリスティアがリシェリアに報告できることが何もないことに気づいたのは、セシルと別れて家に着いた後だった。

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