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3.婚約者と義妹

「ニッちゃん!」「お兄様!」


 アナとマリアが、両手を腰に当てて、まるで僕を殺すかのような目つきで立っていた。


「この……お兄様! やっと見つけたわよ!」

「ニッちゃん! どうしてあんなに突然、ひとりで行っちゃったのよ!」

「な、何で君たちがこんなところに……?」

「当然、追いかけてきたのよ!」

「それに一晩中、何を聞かせてくれてたのよ、って話よ!」

「一晩中……って?」

「何であの女なのよ!」

「私たち、婚約者じゃないの!」


 二人が殺気立って僕に迫ってくる。あまりにも怖い。


 アナスタシア・デリエー――僕の幼馴染であり婚約者。腰までのストレートな青髪をピンクのドレスアーマーに包む見た目は可愛らしいが、その気高さはまさに聖騎士。高い防御力と聖属性魔法を備えた上位職で、吟遊詩人の僕とは天と地ほどの差がある。父がマシューに彼女を婚約させようとした気持ちもわからないではない。でも、僕にはわからなかった。どうして彼女が追いかけてきたのか。


 そして、義妹のマリアベル・リベルランド。父と再婚した継母が連れてきた彼女は、平民から貴族へ転じた中級魔導師。金髪ツインテールの愛らしい少女でありながら、上位魔法すら操る才女だ。それなのに、僕にはこれまで散々辛く当たってきたはずで――


「そ、そういうのはツンデレっていうの!」

「私たちは婚約者よ、昔“お前と結婚する”って言ったじゃない!」

「でも、叔父上が……」

「あの“ちっこいガキ”の言うことなんか聞く必要ない!」

「そうよ、兄様。ずっと一緒にいるんでしょうって約束したじゃない!」


 そう――幼い頃、マリアが初めて来たとき――怖がっていた彼女を僕は励まし、一緒に遊んだ。そんな昔の約束を、彼女は覚えていたのだ。


「ずっと好きだったんです、あの優しいお兄様のことが!」

「そ、それは……」


 僕の前に迫る二人の少女。どう応えたらいいかわからず、僕はただ、ため息をついた。


「「だから、何であの女を選ぶのよ!!!?」」


 二人が揃ってエリーを指差すと、エリーは微笑んで軽く首を傾げた。


「「グゥッ……!!」」


「ニッちゃん!」

「お兄様!」


 僕は慌てて二人の手を引き、部屋の奥へ逃がした。



 道すがら、僕は全てを打ち明けた。異世界から来た師匠のこと、僕が修めた【玄陰決】のこと。そして、本物だと示すために自分のステータス欄を見せた。ステータス欄は職業やスキル、能力値などがすべて表示されるもの。普段人に見せるようなものではないが、二人に見せたのは絶対の信頼の証だった。


「お兄様のステータス……あぁ……結婚するってことかしら……」

「結婚するなら私ともよ。マリアとは姉弟だから結婚できないもの」

「私たち、血の繋がりないじゃない。子どもだって産めるわ!」

「子……子ども! 恥知らずね!」

「だったらお兄様はしないの? 兄様の助けになるんだよ?」

「…もちろんするわ! 私はニッちゃんの奥さんよ!」

「君たち……」

「「ニッちゃん/お兄様! どっちと先にするの!?」」

「本当に、君たち……僕と一緒に来る気なのか?」

「もちろんよ」

「ニッちゃん、君は冒険者になるんでしょう? 次は私が君を守る番よ、約束した通り」

「でも……父と叔父が……」

「普段は父親ぶってても、大切な時に兄様を守らないのなら、あいつは父親じゃない!」

「私は構わないの。私はニッちゃんの妻よ。ついていくって決めたの!」


 二人の瞳には決意が宿っていた。僕はもうこれ以上抗えず、深く息をついた。



「これが……【焦尾琴しょうびきん】なの?」


 僕たちは王国の領土からできるだけ早く離れるため、西へと進んでいた。旅の途中、休憩の際に、僕は自分の武器を取り出した。


 【焦尾琴】は玄陰宗の秘宝であり、師匠がこの世界に遺した数々の品の一つだ。彼の世界では四大木琴のひとつに数えられ、その名の通り、尾部に焼け焦げた痕がある。これは“神火”によって焼かれた証だという。その火は、マリアの全力の火魔法でも傷つけられなかったほどの強力な炎だった。


 この琴は、一般的なリュートとは全く異なる。細身で長く、七本の弦が張られ、左手に銀の支え台を当てると、琴首は僕の喉元に届く。戦闘時は左手で支え、右手で弦を弾いて攻撃する。


 その場でアナが巨魔を封じてから、僕は演奏を始める。一音奏でると――一点必殺の術、【群芳秘譜】を放って巨魔を数歩後退させ、ひざまずかせる。


「どう? なかなかでしょ」

「初級魔法より威力があるわね」

「距離が短かったからな……3メートル以内しか届かないんだ」

「本当に、兄様と“寝る”だけで強くなれるってこと?」

「じゃあ、早く……その“お仕事”を済ませてちょうだい!」


 二人が騒ぐ間に、巨魔が再び立ち上がり、棍棒を振りかざして襲いかかってきた。僕はマリアを押しのけ、すぐに【群芳秘譜】を再度放つ。巨魔は地に倒れた。


「火球術!」


 マリアが初級の呪文である「火球術」を撃つ。だが出てきた火球は異様に大きく、その威力は中級魔法並み。直撃した巨魔は完全に焼かれて、その亡骸さえも消え、残ったのは魔石だけだった。


     *


アナスタシア・デリエー

├ 聖騎士

│ ├ 長剣

│ ├ 盾

│ └ 聖魔法(初級)

└ 玄陰聖徒(異)


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