小さき勇者の記憶喪失
今、僕は酷い頭痛に悩まされている
目が覚めたら知らない路地裏に寝っ転がっており、目の前にはそれを心配そうに見ている猫がいた
猫は僕が目を覚ましたと分かった途端どこかへと去っていく
僕がいるところは非常にジメジメとした路地裏だと言うことがわかるが、それ以外のことがわからない
今自分がいるところ、自分の名前、家族の顔、
そう、記憶がないのだ
「どこ、ここ?」
相変わらず頭痛は激しいが徐々に痛さにも慣れ始めて我に返り始める
冷静になり始め、周りを見渡すと明かり見える。その明かりがある路地裏の奥を見てみると人通りが多い道がある
ふらふらとした足つきで人気がある道へと出ていくと路地裏とは全く違った風景がそこにはあった
まるでお祭りでも行われているかのようにな盛り上がりがをみせ、人々が活気あふれる姿をしている
自分と同じような子供が別の子供と一緒に鬼ごっこをしているのが目に入る
「いっ!?」
子供達を見ていると謎の頭痛が更に痛み始める
あまりにも咄嗟な痛みで僕はその場で倒れ込んでしまう
倒れ込んでいる僕を見ては心配そうにしているが声をかけずどこかへと行ってしまう大人やそもそも気にしていない大人達が通り過ぎていく
痛みは次第に収まりだして起き上がろうとすると、一人の老婆がこちらを気にかけて近づいてくる
「大丈夫かい?」
「あ、大丈夫……です」
本当は大丈夫ではないが、心配をかけまいと嘘を付く
「嘘おっしゃい、そんなにボロボロで大丈夫なわけないでしょ!」
老婆には僕の嘘は通じないようだ
長生きしていると簡単な嘘は見破られるのかなと感心しつつ、僕のことをどうやって説明したら良いのかと悩む
「おばさんの家が近くにあるからいらっしゃい」
そう行って老婆が僕の腕を掴み半ば強制的に老婆の家へと連れて行かされる
老婆の家に行く途中に多くの人の目にこの人が僕に何かしたのではないかと誤解さしているのではないかと思い、申し訳ない気持ちで一杯だ
老婆の家に着くと僕の服の袖をまくり上げて服の上から見えなかった傷が露わになる
よく自分の姿を見れば体のいたるところに細かな傷がついており、更にはズボンは泥だらけだ。まるで人に蹴られたのように
「ちょっと痛いよ」
そう行って老婆は家の中から救急キットと思わしきものを持ってきて、その中から液体が入ったら袋を取り出す
「おばさん、こう見えて昔は王宮で仕えててね、人の治療をしてきたの。この傷だって私の治療ですぐに治るは」
取り出した袋の中に入っている液体を僕の患部に塗る
「んんん!?」
あまりにも痛さに声が出ず、その場で悶えてしまう
「これは消毒液って言ってね、バイ菌を倒すことができるの。その代わり痛いけどね」
「ありがとうございます。見ず知らずの僕のために」
「あらあら、口は達者ね」
老婆はそう言いつつ患部に消毒液とやらを容赦なく塗りたくる
◆◆◆◆◆◆
一通り落ち着き、老婆の家にある椅子に僕は今座っている
老婆は後片付けをしており、僕はそれを眺めている状況だ
この人はどう説明しようかと、小さい頭で考える。記憶がないといって治せるか分からないし、何か重要なことを忘れているような感覚がある
「それで、坊やの名前は?」
「わからないです」
「わからない?それって記憶がないってことかい?」
老婆がそう言うと僕は頷く
「困ったわね。私も記憶を戻す方法は知らないわ」
老婆にもどうやら記憶を治す方法は知らないらしい
老婆が頭を悩ませているのを僕が見ていると外のほうが騒がしくなってきた
外を覗くように見ていると誰かに手を降っている人が多くいた
「ああ、勇者様ね」
「勇者?」
「そう、魔王を倒すためにこの世界に召喚された人よ」
「勇……者……あっ」
僕の頭に引っかかった勇者という単語に聞き覚えがある
そう、誰かと夢を語った時に勇者になりたいと言ったんだ
じゃあその語った相手って?
「何か思い出したかい?」
「いえ、まだ自分の名前もわかりません」
そう言い窓を眺めていると、また鬼ごっこをしている子供達が視界に入るがさっきとは違う子達だ
その中に僕が見たことがある人が紛れていた
「シン!」
「どうしたんだい?これ、どこに行くんだい!?」
直感にその見覚えがある人がシンだと名前が出てくると僕は急いで老婆の家を出て行く
再び人通りが多い道に出てくるとさっきより人が多い。勇者が近くにいるのかそれを目当てにこっちへと集まっているかもしれない
さっき見かけた子も鬼ごっこではなく勇者目当てに走っていたのかもしれない。その子らが走った方向に僕も同じように走り追いかける
「ねえ!待って!君!」
徐々に見えてきたその子の肩を掴み引き止める
「いってえな!」
そういってシンと思わしき人が振り向くと驚いた顔をした
「おい、リクじゃないか!どうしたんだよその傷!?」
「リク?」
リクとは誰かと僕が考えているとシンは僕の服をジロジロと見ている。当たり前だが泥だらけで敗れている部分もあるのだから気になるだろう
「あんた、急に走るとまた怪我するよ!」
老婆が後ろから走って追いかけてきた。それなりに高齢なのに走ってきたのだろう
「リク、その人は?」
「あんたリクっていうのかい?」
リク、リク、リクと自分の存在がわからなく、その言葉にピンとこない
しかし、不思議とシンがリクというのに違和感がない
「そういえばお前、アキラはどうした?今日一緒にっ」
「あああぁ!」
「お、おい、どうしたんだ?」
「思い出した」
自分が誰なのか、シンやアキラと呼ばれる人、あらゆる人の名前、顔、思い出が蘇っていく
何もかも思い出したリクはボロボロのポケットの中からバッジを取り出す
「それは?」
「リアネ商会のバッジだよ」
「リアネ商会?」
「アキラはそいつらに攫われたんだ」
「はっ?え、ちょっと、リクっ!?」
シンがまだ何か聞きたそうにしていたがそれをふっきってリクは再び走り出す
人々が歩いていく方向とは逆方向に走っていくリク
何だなんだと避けていく人がいたりぶつかる人もいる。人とぶつかって転けそうになるも足を止めずに走る
「あった」
バッジに書かれている名前と同じリアネ商会の建物に到着した
リクとアキラで勇者になりたいことを語りながら勇者を一目見ようとしたが人が多すぎで近道をしようとした。その時に人気がない路地裏にいった時にアキラがリアネ商会の人に拐われたんだ。リクもアキラが拐われているのをじっと見ていた訳では無く拐っていこうとしている人にパンチや蹴りを入れようとするも全く歯が立たなかった。むしろボコボコにされたのを思い出す。その時に胸についてあるバッジを引きちぎってポケットにバッジを入れた
商会の建物から人が出てこようとしてリクは急いで物陰に隠れた
中からはアキラを拐った人が出てくる
アキラはどうなったんだと、どうしても悪い方向に考えてしまう。いや、実際に悪いことになっている
リクはどうやって商会の建物に入っていこうかと思っていると首根っこを誰かに掴まれる
シンにして力強く、老婆の人にして優しくない
後に振り返ると見たこともない大男がリクの首根っこを掴んでいた
すぐにリクは叫ぼうとすると口を塞がれ壁に押し付けられる
人の往来が圧倒的に少なくなっている道で白昼堂々と子供を壁に押さえつけていてもみんな気にしない。今人々を気にしているのは勇者という人物だ
皆リクに興味を示さない
「ガキ、てめぇどっかで見たと思えば拐ったガキのもう一人か」
そこには見たことがあるもう一人の顔があった
リクをボコボコにしたもう一人の大男だった
「あんなに痛めつけても懲りないとか根性だけはあるな」
そう言って大男はリクの腹にパンチを入れる
咄嗟に腹筋に力を入れるリクだが、リクの腹筋ごときでは大男のパンチを防ぐことすら不可能だ
「うっ……」
口から異物がこみ上げてくるような感覚を必死に抑え込み、体中から冷や汗のように汗がダラダラと出てくる
心拍数はどんどん上がっていき、自分の心臓の音が鮮明に聞こえ始める
息も口息をしており、時折呼吸ができないように陥ってしまう
「こいつも拐っておくか」
大男がそう言うと拳を振り上げてリクの顔面にめがけて振り下ろそうとした瞬間、大男の腕を何者かに掴まれる
「あっ?」
「失礼」
大男の腕を掴んだ謎の男がそう言い大男に謝りつつも謎の男は大男にめがけて顔面に渾身のパンチを入れていた
「うがっ!?」
大男は後の壁まで吹っ飛び頭ぶつけてしまい気絶する
「もう大丈夫だよ、勇者がきたから」
自らをそう名乗る勇者がリクの目線に合わせるように足をつき安心させるかのように言う
リクの目の前にいるのは憧れの勇者だ
いつかは勇者になりたいとアキラと一緒に語り目指していた本物の勇者がそこにいた
「リク君大丈夫だった!?」
「大丈夫かリク!」
勇者の後を慌てるように付いてきた老婆とシンがやってくる
シンは途中でコケたのだろうかズボンが破れている。老婆も息切れをしております呼吸がままならない様子
「良く一人で頑張った。君は俺と同じ勇者だよ」
勇者はそう言いリクの肩を優しく叩く
「この子を頼みます」
勇者は白いマントを靡かせながら商会の入り口を蹴破った
◆◆◆◆◆◆
その後、アキラは勇者の手によって見つけられ、その他の誘拐された子供達も見つけ出す勇者の姿を尻目に老婆に奢って貰ったアイスクリームを食べていた
「良かったな、アキラも見つかって、お前も助けられて、婆さんがいなければ勇者をこっちまで連れてこれなかったぞ」
「え、そうなの?」
「リク君には言ってあるよね?こう見えておばさん、王宮に仕えていたから融通が利くんじゃよ」
「なるほど」
今回起きたことは決して忘れないだろう、友達が拐われて自分は記憶喪失になった事を忘れるはずがない
ましてや自分の行動を憧れの勇者に「勇者」だと言われるたことを誇りに思う
そう考えて食べていたアイスクリームはいつもより美味しく感じるのだった