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今日、顔合わせします!

「妹はとにかくいいところがなくて、考え直すなら今のうちだ」


 と愚兄が申しています。しかも、ホテルのロビーという人がいる場で!

 どうしてこうなった。今日までは何事もなかったのに!


 両親には半月ほど前にお付き合いしている人がいて結婚することになったからと報告をしていた。そこから大安を選んでホテルでの顔合わせプランを予約していたのだ。

 順調と気を抜いていたのが悪かったのだろうか。

 当日、ホテルに着くなりロビーで兄につかまった。呼んでないのに。


「報告もないとは水臭い」


 そういった兄はスーツだった。いつも自由業と好きな恰好をしているのに白いネクタイもしていた。

 完全に参加者側の服である。親のどちらからもその話を聞いてないので独断の可能性は捨てきれない。個室でランチと予約しているのだから人数増加はできないだろう。応相談かもしれないが、相談したくない。


「帰れ」


 四の五の言わず、追い返す選択をした私が悪かったのだろうか。


「紹介くらいしてくれてもいいだろ」


 へらりと笑う兄が気味悪い。さらに強く言おうと思ったが、涼さんに止められた。悪目立ちするよと。確かに注目されている気がしないでもない。

 時間より早く来たこともあり、まだ両親も到着していなかった。そのため、喫茶スペースへ移動することにした。ちょっとは話をしてもいいかなと仏心を出したのがダメだった。


 兄は紹介もそこそこに結婚をやめるように涼さんを説得していた。

 なんで、晴れの日にこんなことを言われねばならないのか。

 すぐに兄妹げんか勃発にならなかったのは、涼さんが一応は聞いてみたいと耳打ちしてきたからだ。いまさら契約違反はしないから安心してと言っていたのも心強く大人しく聞いていたのだが。

 ものには限度がある。


「いいかげんにして」


「おまえも急に結婚なんてしなくていいんだぞ。

 一人を満喫していたじゃないか」


「二人を楽しんでなにが悪いってのよ」


「とにかく、破談だ。

 親にも言っておく」


「ば、」


 バカにしてんのっ! と口を出る前に、なんか引き寄せられた。

 肩に手がある感触。触れるではなく、抱き寄せる、だ。

 は? と涼さんを見れば、やさしく微笑んでいたのになんかぞくっとした。


「妹さんが結婚されては、困ることがあるのですか」


「な、なんで」


 明らかに狼狽えた態度の兄。

 兄に私の結婚の有無が何か影響するとは思えない。せいぜい、親戚付き合いが増えるかもしれない程度だ。ご祝儀が嫌だっていうんだったら、連絡一つ寄こさないタイプである。それなのに顔併せるとしれっとそれまでと同じ態度をとる。無礼を愛嬌で乗り切ろうとし、大体乗り切れてしまうやつなのだ。

 兄であるから多少の付き合いがあるが、兄でなければ知人でもお断りである。


 とか考えていたから油断していた。

 顎に指が? と思っていた時にはやられていた。


「この通り、私たちは愛し合っているのでお断りします。

 認められないなら駆け落ち、縁切りも考えます」


「後悔するからな」


 という捨て台詞を残して兄は去っていった。


「……あの、なんで」


「あれ、ほんとにお兄さん?」


「へ?」


「同類の匂いがしたんだよ。

 君さ、ほかのどこかでも、誰か口説いたんじゃない?」


「知りませんよっ!」


 そんなことより、私の初キスがですね! と苦情を言おうかと思ったが、やはり残念そうな顔をされそうな気がした。

 それはそれで腹が立つ。


 それはそれとして、確かに兄はあそこまでは言わない。意味ありげになんか笑ったりはするけど。あれも悪趣味である。


「ああいうのがいるなら、破談続きはわかる気がする」


「初めて見ましたよ」


「僕だからだよ。

 それはあとで話そう。あちらできょろきょろしているのはお母さんでは?」


 そう言われて視線を向ければ、困ったわぁというボイスがついてきそうな人がいた。母である。その後ろに父がいたが、なんとなく落ち着かない風ではあった。

 無作法とは思うが、席を立って手を振った。


 私に気がつくと母は全く気負いなく喫茶スペースにやってくる。父のほうがやはり、いいのか? という雰囲気だ。

 これはきっとお友達とお茶と言ってアフタヌーンティーとかを嗜む母との場数の違い。


「待たせたみたいね。ごめんなさい。電車が遅れてしまって、少し遅くなってしまったわ」


「いいの。珈琲もおいしかったし」


「良かった。

 誰かほかにいたの?」


「僕の知り合いに会いまして、少しだけ話をしていました。忙しい人なので、もう帰りましたよ」


 涼さんが、今まで見たことないような笑顔を振りまいている。

 アリアに会ったときすらちょっと笑ったくらいだったのに……。むろん、私にはそっけない。色々やらかした手前、愛想はいらないのだけど。でも気遣いはあるので謎な状況でもあるのだが。


「あとでちゃんと紹介するけど、こちら市谷涼さん。

 こっちがうちの両親」


 簡易的に紹介をしておく。あとはおいしい食事でもとりながらというやつである。

 お互いに挨拶を交わすところに変なところはない。


 と考えると兄だけがおかしかった。


 なんかあっただろうか。結婚にまつわるなにか。

 ……元々、なにかにつけ、お前は一人でやれる。自立した生活できる。一生独身でも戦えるなんて言われたことがあったような?

 それも片思いが終了した後やらが多かったような?


「陽葵さん?」


「あ、じゃあ、移動しようか」


 会計の際はお持ちくださいと言われたプレートを私がとる前に、涼さんが持っていた。いつもそうしています、という風だが、いつもは個別会計である。明朗会計すぎる。

 今回は親ウケというものを選んだような気がした。

 母のほうがあらっ! という感じだし。


 そこからの顔合わせは特に問題はなかった。結婚式は親しい人だけを呼んだちょっと豪華な会食という形となることには難色を示された。しかし、涼さんが天涯孤独の身の上なのでと言えば了承してくれた。

 ……そういえば、涼さんの友人知人はどこから調達すればいいのか。

 レンタルサービスあったな。そのあたりをあたろう。


 写真だけにしておけばよかった……。いまさらしても遅い後悔である。


「娘をよろしく頼む」


 そう言う父は、やはり娘は嫁にやらんと言いそうにない。ほっとしたような顔をしていて、偽装であるということがちょっとばかり罪悪感を覚える。

 すまない。その人、謎の怪異、というか山の神様っぽくて、おうちに帰さないといけないんだ。さらに婚姻届けすら出さない予定で。

 とは言えないので、神妙な顔をしておいた。


「ちゃんと守りますので、ご安心ください」


 そこはしあわせにしますではないのか……?

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