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今日、デートします!

 私、喪女。

 デートらしいデートなんてしたことないの。

 出会い系ですら、ただご飯食べてまたねと別れるの。次なんてないのに……。

 結婚詐欺に引っかかったときのあれこれはデートに含めちゃダメかな? お財布係してた記憶しかないなぁ。


 と涼さんに言ったら哀れみの目線で見られた。

 全部払うつもりのデートが、お互い一万ずつ入れたお財布で明朗会計なデートをすることになった。


 そもそもなんでデートするかというと、偽装結婚にしても恋人らしさがこれっぽっちもないから、なにかしてきたら? とアリアから言われたからだった。

 ご両親と顔合わせで話せる思い出がないとか不審では? というのはあまりにも正しく思えた。


 ネットでの知り合いからリアルで会って意気投合、結婚を前提にお付き合いしていた、という設定があったとしてもである。出会ってデートの一つも行っていないのはおかしすぎる。

 その程度のことを指摘されるまで気がつけないのが私のポンコツ具合だ。


 そういうわけで私のお休みの日にデートをすることになったのだ。


「い、いつきても、おっきいで、すねぇ」


 なぜか、東京タワーに来た。

 山の上にあるのね、と初めて来た時にも思ったが、やっぱり登山している感がぬぐえない。

 疲労が困憊している。こんな歩きやすいところでなにを疲弊しているわけ?と言われてもオフィスワーカーを舐めてはいけない。駅までしか歩かないよっ! しかも徒歩10分だよ!


 なんとか息を整え、のっぽんに握手をしてもらって、エレベーターに行こうとしたところをこっちと手を引かれることになった。

 階段を登って上まで行くという苦行をいい笑顔で提案された。


 別行動で、といいたいところを飲み込んで、頑張って登ることにした。デートだ。そう、デート。別行動はデートじゃない。

 途中励ましてもらえて仲が深まったような、気がしないでもない。手を握ってもらったのはなんか介護な気がした。

 ぜはぜはいって立ち止まっている私の隣にきた彼は外を指した。


「景色がいいよ」


「そ、そうですね……」


「展望台から家は見えるかな」


「さあ?」


 見えたにしても米粒以下であろう。

 楽し気な涼さんはスマホで私をとっている。涼さんは気合いを入れないと写真に写れないらしいので、証拠写真には不向きらしい。

 まあ、数枚は気合いを入れてくれるらしいので、多少は期待している。ただ、心霊写真じゃなさそうなのを選び他を消すことになるかもしれないそうでもあるそうで。

 そっちはそっちでちょっと楽しみだったりする。


 終点の展望台入口にたって私は力尽きた。

 それなのに、帰りも階段で降りてきてしまった。降りるのは登るより楽って! 確かにそうだけど、エレベータより楽ではないのは確かじゃないかっ!


 そう訴えれば、涼さんは楽しそうに笑った。


「今頃気がついたの?」


 バカにしたようでもなく、ほんとに楽しそうで。

 うっかりきゅんとした。ひどいこと言われた気がするんだけどな……。チョロい女であるからな。なのになんで最終的に逃げられるのか。


「……僕に勝てるなんて思わないでよね」


「はい?」


「次いこう」


 そう言ってぽんぽんと肩を叩かれた。疲れがスーッと抜けていったようで、変だが、何か言う前に涼さんはお土産売り場に消えていった。

 マイペースというより、人の都合で生きてない。


「まってっ!」


 迷子になる前に捕獲しに行った。この場合、迷子になったのは私にされてしまう。楽し気に迷子のお呼び出しをしてしまうタイプだ。

 どうにか追いついて、お揃いのキーホルダーなどを浮かれて買ってみたり、古式ゆかしきタペストリーを買ってみたりした。木刀は止めた。今までで一番がっかり顔を見てしまった。

 そういえば、浅草でも買うか迷ってたな。


「模擬刀でもいいんだけどな。無手ではちょっと難しい」


「なにが、ですか」


「おまえに陽葵はやらんと言われたときの対策」


「うちの両親はそんな暴力的なこと言いませんし、木刀もいりませんよ」


「そうだといいけどね」


 兄がいるがすでに家を出ているし、いまさら妹の結婚に口出しをしてくることもないだろう。

 そもそも結婚しなくてもいいんじゃないか? うちに迷惑かける気がないならと優しいんだか冷たいんだかという対応だったし。


 誰が私を嫁にやらぬというのか。


「アリアのこと? アリアはいい子だからね! ダメだよ」


「あの子とやり合うなら木刀くらいじゃ話にならない。僕は呪詛が専門で、物理は苦手なんだよね」


 さらっとやばいこと言い始めてますけどっ!? いや、もともとそういう存在だった。


「しないよ。いまはね」


 そう言ってまた肩をぽんぽんと叩いた。


「次はお昼かな。

 オープンサンドのおいしいお店が近くにあるはずだ」


 彼の案内でたどり着いたお店は想定を超えるおしゃれ度だった。

 私に配慮したというより元々こういうお店が好きっぽい。前にテレビで見たとか雑誌で見たとか。想定外に俗っぽい。

 私が仕事に行っている間に流行りのスポットを回っているらしいし。お土産が色々しゃれてる。デパ地下でお惣菜とか買ってきてくれたり、ワインの一本も用意してくれたり。

 シェアルームしているような感じである。思ったより違和感のない同居をしている。

 ただ、夜中まで動画見たりゲームしたりしているのはやめてほしいけど。子供か。

 格ゲーを誘っておきながら負けるとぐぬぬという顔で再戦を挑んでくるのもやめてほしい。やっぱり子供か。


 混んだ店内で少し待ち、席に案内された。

 半分ずつシェアするということにしたので注文はお任せした。悩まし気にメニューを見るところは、普通の男性に見える。

 家の中ではヒト型か人外かは半々くらいだ。うねった何かをうっかり踏みそうになると話をしたら、毛先がくるってなっている時が多い。油断していると部屋中に伸びてることがあるけど。

 それに不快感も怖さもほとんどない。

 ふしぎなくらい、馴染む。


 まるで、もう一人の私、みたいな。

 もっとも、もう一人私が居たら反発し合い喧嘩しまくりだろう。我が強すぎるのも問題である。


「なに? そんなじっと見つめて。

 本気で惚れちゃった?」


「それじゃ、困るでしょ?」


 そういえば彼は驚いたように目を見開いて、黙った。


「逆に私に惚れてくれて構いませんよ」


「…………そー」


 がっくりと肩を落とされたので私はちょっと安心した。

 私、いまさら女子高生にはなれない。

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