それって家族
その日、私は来客を待っていた。
そわそわどころではなく、玄関先で突っ立っているほどの落ち着かなさ。
そうしているうちに家の前に車が停まる。助手席から降りてきた幼女は私を見るとちょっとぎょっとしたようだった。
「優姫ちゃんいらっしゃい」
両手を広げて待ってたのに、あー、みたいな気まずそうな顔をされた。
「さあ、ぎゅっと」
「ヤキモチ焼かれるので、ご遠慮します」
きっぱり断られた。それもそこそこ嫌そうな顔で。
「養女冷遇しているって噂になるから、仲良ししようよぉ」
「なにかそこにじっとりとした湿度を感じるので、そこそこの距離感で冷たくよろしく」
「ええっ!?」
断られた。思い描いていた娘と素敵ライフがガラガラと崩れていく。
颯爽と彼女は家の中に入っていった。
「だから、子供扱いするなっていっていたのに」
遅れてやってきた涼さんは、半笑いだ。そうだそうだと揺れる触手もいる。
「子供扱いでもないんだけどな」
親愛である。ちょいと前までは仲良くやっていたというのにっ! ソファでポテチつまみながら、イケメンよねぇとアイドル見て、ドラマ見て、アイス食べたりしてたのにっ!
ほら運動しなよと足を押さえてもらって腹筋だって一緒にした仲だよっ!
「悲しい」
「照れてるだけじゃない?」
ものすごく心無い慰めを聞いた。
優姫は見た目幼女、中身はそこそこ大人な元触手ちゃんである。我が家に養女としてくることになった。遠縁の身寄りのない子を引き取るという形にして。
最初は周囲には反対された。養子ではなくてもいいのではと。私にはまだ子供がいない。このあとに子供が生まれたやらややこしいことに、という懸念。
今のところは、同じ身の上の触手ちゃんたちが子供としてやってくる予定があるので揉めないだろう。たぶん。
私が生むというのはない。お互いの規格が違いすぎて、通常の妊娠はできない。一応、調べたところのよればなんか色々駆使したらできなくもないらしい。しかし、生まれるときに腹破ってでてくるかもしれんなという確率がそこそこあってやめた。
流石に怖すぎる。
なので、人化がほどほどにうまくなった時点で、触手ちゃんをお迎えするため、私が嘘妊婦になる生活をせねばならないという……。
前までどうしていたかというと、つわりなどがひどく母親の実家に里帰りしていてということにしたらしい。産後、体調悪く亡くなった、ということにしているそうだ。うちは両親にも紹介しているので使えない手である。
なお、涼さんに書類上の母親というのは存在するが、実母はいない。お腹が大変になった女性がいないというのは幸いだ。
……まあ、先の心配は先ですることにしよう。妖怪やらなんやら専門の病院があり、そこに入院していることになりそうだけど。
そろそろ仕事もやめて本格的に移住計画立てなきゃいけないし。別居のままでもいいと涼さんはいってくれたが、仕事にこだわりがあったわけではない。
最初は会社のお手伝いとかからと話はしている。なお、今も住んでいる部屋は資産として養っていくつもりだ。売りに出そうかなと言ったらこの物件を紹介してくれた人が大慌てだったから。
あのときは値引きありがとう、頼れるツテと思ったけど今思うとなんかあったんじゃないかと……。
ひとまず、車から荷物を運び家の中に入る。
優姫はこの姿になる前からこの家に来ていたので自分の部屋は決めていた。内装もこれがいいとかスクラップブックを作るくらいの気合の入りっぷりだ。早速部屋に入っているらしい。古い家なのでバタバタしているのが聞こえる。
「今日から賑やかになる、かな」
「楽しみ」
「僕はもうちょっと二人が良かったんだけど」
それには曖昧に微笑んでおいた。触手ちゃんたち、意外と自己主張強めでな。二人で住んでる感があまりない。
可愛がりすぎで、自我すごいんだけどと詰られたことは一度や二度ではなく。
僕の方を可愛がりなよと壮大な爆死されたことも思い出した。
……私の旦那がかわいすぎる。
「家族も悪くないよ。
一郎くんもそろそろ準備入りたいって言ってたし、お姉ちゃんに鍛えてもらって」
「一郎って本当につけんの?」
「うん」
本人がいやいやしてた。
「くっ。今更一郎くんをかえられないっ!」
そうして、第一回命名会議が開かれることになった。
宗一郎、健次郎、龍三郎と命名されることに。
そして、12年後、優姫は温泉街の名物女子高生に。たぶん、ヤンキーも牛耳ってる。
そんな彼女が温泉街のピンチに立ち上がる!? なホラーはこちら。
湯煙旅情怪異付 〜温泉行ったら攫われるって聞いてない!〜
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